時間を越えて
そして、からのワイングラスにワインを注いだ。
「アルフレッドは、イングランド唯一の大王…つまり、アルフレッドの如く強くなりますように…じゃ、ないのか?」
「えっ?」
「それか『妖精の王』の如く強く気高くあれ…だろうさ」
「…そうなのかい?」
イギリスは、柔らかく笑う。
「俺の知っている範囲内では、な?」
アメリカは、それを知った瞬間、顔が緩むのを感じる。
当たり前だ。
それだけ、彼が自分を愛してくれていた。
普段は罵り皮肉を伝えるのに、本当は優しく温かい。
「…アルフレッド、もう夜も遅い…寝ろ」
(アル、もう夜も遅いから…寝ような?)
「え?」
(えー)
「でないと、デュラハンがお前を連れていくかもな?」
(寝ないと怖い首なし騎士がお前を連れていくかもな~)
昔の記憶が蘇る。
そして、アメリカは笑いながら頷く。
最後に一言。
「おやすみ、アーサー船長」
(おやすみ、イギリス)
「あぁ、おやすみ…アルフレッド」
(おやすみ、アル…いい夢を)
昔も今もイギリスは、イギリスだ。
アメリカは、空を見上げ微笑む。
翌日。
「さぁ!お前ら、今日も働くぞー!!」
「おー!!」
数々の声が聞こえる。
アルフレッドは、欠伸を噛み殺しながら、掃除をしていた。
昨晩のアーサーが話した内容を思い出す。
そして、自分の名前の由来に笑ってしまう。
最愛の人が自分から、アメリカの名の由来を教えてくれた。
それだけで、顔がにやける。
昔、名の由来を聞いたら『秘密』と言われて、かなりいじけた思い出がある。
「俺って、ツいてるんだぞ!!」
「機嫌良いなぁ~、アルフレッド」
隣で掃除をしていたジャックが少し驚いた様子で、聞いてくる。
「あぁ、すごく気分がいいんだぞ!!」
「ふぅ~ん」
「どうしたんだい?」
「うん?…寝不足…俺、夜の海嫌いなんだ…」
「何でだい?」
「昔…船長に夜の海も知っておけって…」
途中から涙声でジャックが俯く。
「船長に背中の服掴まれて、鮫が5,6匹下で泳いでる光景見せられて…トラウマに…」
「元気出せよ、彼はそういう人なんかじゃ、ないはずだー」
「棒読みだから、説得能力、皆無だ!!」
いつも通りの会話をしながら、二人は笑う。
だが、その笑い声や人々の話し声が一人の人物の声で、かき消される。
「敵襲!敵襲!!」
「何だって!!?」
アメリカが驚く。
ジャックが走り出す。
そして、大声で叫ぶ。
「敵襲!敵襲!!全員配置に着け―!!!」
普段のジャックでないような、声で叫ぶ。
ジョージが大声で何かの支持をしている、ミセス・ハンナも何かを叫んでいた。
イギリスが船長室から出てくる。
その顔は、笑っていた。
悪役バリに凶悪な笑み。
肩に抜身の剣を担いで。
完全に悪役。
「おい、野郎共!!」
イギリスが叫ぶ。
「丁重にもてなしてやれ!!!」
「おぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!」
船員の男たちが叫ぶ。
女たちは子供を守り、長期戦に向けて準備をしている。
俺は、敵の船を見た。
そして、叫んだのだ。
見知った顔に。
「スペイン!!!」
「…?…」
その時、気づかなかった。
イギリスが訝しげな顔で、俺を見ていることに。
彼も海賊だったのかい?
そう言えば、酒の席でイギリスが戦っていたときの事をよく話していたが。
まさか、彼まで元ヤンとは…。
今日は、サプライズが多いんだぞ。
「おい、アントーニョを知ってるのか?」
「へ?」
「スペインの船だと、よくわかったな…俺は、旗を見ないと気付かなかったが…」
良かった、彼が鈍感で。
今は、良かった。
普段なら、殴りたいぐらい嫌いだけど。
鈍感なの。
「ま、まぁね…でも…」
「おい、アルフレッド…」
「?何だい?」
「伏せろ!!!」
「へっ?」
イギリスの叫び声に間抜けな声を出す。
そして、無理矢理体を引っ張られ、抱きしめられた。
「あの野郎…俺のウンディーネをぶち壊しやがって!」
へ?何だい?何だい、これは????
イギリスが俺を抱きしめてる。
あのイギリスが?
守ってくれている?
アメリカは、思考がフリーズする。
今の状況を理解するうち、顔が赤くなっていく。
イギリスはそのままの状態で船員たちに告げた。
「オメェ等、おもてなしじゃもったいねぇ…遊んでやれ!俺らの遊び方で、な!!!!」
そう言うとイギリスは、立ち上がる。
そして、俺に手を差し出す。
「立てるか?」
「あぁ、平気だぞ!」
「なら、いい…これから体力勝負だ、気を引き締めてけ」
「オーキィドーキィ!!任せろ!体力なら自信があるぞ!!!」
「そうかよ、まぁ…死ぬなよ」
「え?」
その言葉に耳を疑う。
そして、不適そうに笑うと彼は言った。
「お前が死んだら、誰が俺と口げんかする?」
「まだ、話して間もないぞ?」
「はん!いいじゃねぇか!!俺は、お前に親近感湧くんだよ!!!」
そう言って、彼はその場を去っていく。
そのあと、ジョージが俺に剣を腰に差せと言って、渡す。
船内の空気は、張りつめている。
その状態が3日続いた。
その度、俺はイギリスの部屋に訪れた。
理由は簡単。
恐かった。
自分の知らない戦場の雰囲気に呑まれそうで。
だから、彼とある一定の時間、話した。
話す内容は、全て彼の体験談やおとぎ話。
全ての話は、昔の彼と同じ。
話し方には、棘がある。
でも優しい。
だから、落ち着く。
「恐れるな…受け止めろ、その恐怖を克服しろ」
「…」
「お前もいい年だろ?」
「…でも、恐いものは恐いんだぞ…」
「それもそうだな…その気持ちは、分かる」
イギリスは、頷く。
「だがな」
「?」
「ずっと曇りとは、限らねぇだ、ろ?」
「…そうだね」
イギリスは、笑う。
優しく、昔の彼の様に。
響くのは、怒声と剣のぶつかる音。
そして、叫び声。
戦う。
敵を見据えて。
皆が。
俺も戦う。
剣を使ったり、蹴ったり。
しばらくして、イギリスが絶叫する。
「っぐあああああああああああああ!!!」
俺は、その絶叫が聞こえる方を見る。
そこは、船長室の上の略奪品保管庫の上の場所。
イギリスがスペインに剣を突きつけられている。
「…どうや?前、俺の片腕を斬った再現やで?」
「っ!テメェ!!」
イギリスがスペインを睨む。
スペインは、ニヤリと笑う。
俺は、全速力で駆ける。
彼らがいる方へ。
「なぁ、アーサー…俺らは、誰も愛せへん」
スペインが静かに話す。
「…何だって?」
イギリスが問う。
その目には、憎悪が。
右腕には、血が。
額には、脂汗が流れている。
「分かっとるはずや、俺らは心のどこかで…恐れとる」
何を、そうイギリスは、問おうとした。
スペインは闘っている自分の船員と、イギリスの船員を見る。
スペインの服装は、赤い。
まるで、イギリスと対なすように。
赤い海賊服は、金で縁取られている。
イギリスは、青と銀。
「俺らは、心から誰かを愛すことも…心から誰かに愛されることもない…」
「…」
「なぁ、アーサー…結局、俺ら…似とるや、ろ?」
スペインが首を横に微かに傾げる。
それにイギリスが頷く。
その目は、空虚な目だった。
「そうかm「アーサー!!!」
アメリカがイギリスの名を叫んだ。
それに反応するかのように、二人はアメリカを見た。