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時間を越えて

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「…アルフレッド…?」
その姿を見たイギリスが驚いたように、小さくつぶやいた。


「誰や、あんた」
スペインが睨む。
俺はその姿にもう『元ヤン』の単語しか出ない。
髪は、少し長く背中の半分まである。
それを青い布で一つに結び、海賊帽を被っていた。
色は、赤い。
全部がイギリスに近い。
違うのは、青い部分が赤で銀の部分が金。
そして袖の白いレースの飾りだろうか。
眼光は、鋭い。
俺の知るほんわかした雰囲気は、ない。
あるのは、研ぎ澄まされた悪意。
だが、俺は声を低くする。
あぁ、俺は彼の様にはできないけど。
抵抗ならできる。
「そこを、どいてくれるかい?」
スペインに静かに伝える。
笑みを張り付けたまま。
「何やと?」
「彼は、この船の主…殺されちゃまずいよ」
「…だったら何や?こいつは、何人もの船乗りもしくはその船の主、殺しとるんやで?ぎょーさん」
「そうなのかい?…でも、俺その人の身内だから殺さないでくれよ」
「はん!餓鬼が何を言うんや?」
「餓鬼でごめんね…赤い人!!!」
走り込んで一気に距離を詰めた。
そして、スペインを殴る。
「形勢逆転だね?…赤い人」
スペインは、2,3m後方まで飛び、尻餅をつく。
血を吐くスペインが俺を睨む。
彼はこんな顔もできるのか。
「君は、さっき彼になんて言ったの?」
「…あぁ、俺らは似とる…そう言ったんや」
「どうして?」
「だって、そうやもん…アイツも俺も、心から愛せる人が、愛してくれる人がおらへん」
「……」
「今も、昔も……これからも」
アメリカは、ため息を吐く。
君ロマーノに出会わなかったら、ここまでネガティブなんだね。
心でそう思う。
イギリスも、俺と出会って急激に変わったと聞く。
なら、彼も。
ロマーノと出会い、変わったのだろうか。
「そうかな?」
「何やと?」
「…俺の愛している人も、君たちみたいな過去を持ってるぞ」
スペインが俺をまだ睨んでいる。
俺は、愛する人の姿を思い出す。
「その人は、強がりで、気取り屋で、口うるさくて、おっせっかいで、図々しくて、Sで…」
思い出すのは、小言を言う彼や怒る彼の表情や動作。
「だけど…本当は優しくて、暖かくて、脆くて、さみしがり屋で…」
彼が俺の頭の中で手を差し出してくれる。
昔。
あの時、二人で手を取り合った時みたいに。
「強い人なんだ」
アメリカは、無意識に嬉しそうに微笑んだ。
「その人も昔、誰かを愛せない、愛されないと言われてた」
アメリカは、思い出すように言う。
「でもね、こんな俺をたくさん愛してくれたんだ…」
いろんなことを教えてくれたり、与えてくれたり。
話をしてくれたり、笑ってくれたり。
「その人が世界のだれからも愛されなくても、俺はその人を愛している」
「…お前…」
スペインが驚くように俺を見る。
俺は、泣いている。
静かに泣いていた。
無意識に。
泣いて笑っていた。
「俺はその人の傍に、世界が終るまでずっといたい…世界の終焉まで、ずっと」
「愛されとるなぁ、そいつ…羨ましいわ」
君もいつか愛されるよ。
スペイン。
ロマーノという人物に。
「今日は、引くか…おい、アーサー」
「あ?」
イギリスは、いつの間にか服の袖で止血していた。
スペインの言葉に柄悪そうに答える。
「今日は引くわ!…なんや、力が抜けた」
「そうかよ」
「…お前には、こいつ勿体ない部下やなぁ~」
スペインは、立ち上がり意地悪そうに笑う。
そして、甲板の者達に叫ぶ。
「お前ら!今日は、ここまでや!!引き上げるでぇ!!!」
その顔は、少しだけ今のスペインに似ていた。


「まったく!アルフレッドったら…まぁ、無事で何よりだわ」
ミセス・ハンナは、笑う。
かすり傷で済んだのは、俺と女、子供だけだった。
残りの人たちは、重症者。
腕を失くした人もいる。
因みにイギリスの腕は、ただ上から軽く切られただけで、神経まで到達はしていないらしい。
そのことにほっとする。
だが、ミセス・ハンナに言われた。
「今日は、船長室行っちゃダメ!船長も怪我人なんだからね!!」
アメリカは、項垂れた。
イギリスの怪我の具合を見たいし、イギリスと話がしたい。
スペインとどういう関係なのか、いつもこうなのか。
そう考えていた矢先の注意。
アメリカは、いじける。
2時間、外の海を眺めた。
ジャックは気絶しており、今も昏睡中。
話し相手もいないので、外を眺める。
今、外は薄暗くなっていく。
オレンジが紺に代わる。
「…セイレーンの時間だ、気をつけろよ?アルフレッド」
静かな声がアメリカに話しかける。
その人物は、片手に包帯を巻いたイギリスだった。
アーサー、小さくアメリカが呟く。
「今日は、ありがとうな…おかげで助かった」
「そりゃ、よかった」
イギリスが空を見る。
「あいつと俺は、似てる…故に惹かれあうんだ」
「え…?」
その台詞にアメリカは、引きつった声を出す。
イギリスは、海を見たまま話す。
「心のどこかで愛してる…恋に近いな、まぁ…よく分からないが」
アメリカは、そうかいという。
失恋をしてしまったのかな。
アメリカは、自嘲的に笑う。
その時だった。
「今晩、俺の寝室まで来い」
「え?」
「必ずだ、いいな?」
イギリスは、それだけ言うと去っていった。
アメリカは呆然としている。
そして、寂しそうに笑った。


イギリスの船長室。
ソファの置かれた部屋の右側にドアがある。
そこが彼の寝室。
入るとそこには、天蓋のベッド。
だが、イギリスの顔が見えない。
アーサー?そう呼ぼうとした瞬間。
アメリカは、そのベッドの近くのガラスでできたドアに寄り掛かり、空虚な目をしたイギリスを見た。
それは、死人の様だった。
死んだ人が窓から差し込む月光で蘇ったような。
うすら寒さと、美しさ、神秘性を纏っている。
アメリカは、息を呑んで名を呼んだ。
「アーサー」
アメリカの姿を確認して、イギリスは微笑む。
「?…アルフレッド」
その声は、寂しそうだった。
アーサーがアルフレッドに近づく。
そして、抱きしめられた。
急なことにアメリカは、驚く。
「ど、どうしたんだい?」
「悪い、もう少しだけ…こうさせてくれ」
「……なら、ベッドに座ろう?ここには、イスが一つしかないから」
イギリスが微かに頷いた。
二人がベッドに腰掛ける。
アメリカは、抱きついているイギリスの頭を撫でていた。
そして、立場が違うなと笑う。
昔は自分がよくなくと、こうしてイギリスが抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたりした。
「…俺は、人を愛せるのだろうか…」
その呟きにアメリカは、答える。
「あぁ、愛せるよ」
優しく言う。
イギリスが問う。
「なんで、そう言える?」
「なんで、って…うーん、勘?」
「…勘かよ…でも、お前に愛されている奴は、羨ましいな」
イギリスが羨ましそうに目を細める。
「何でだい?」
「俺らと同じなのに、そいつは安息を得た…魂を得たんだ」
「…キミにだって安息は、訪れるよ…」
「そうか?」
イギリスが驚いたように聞く。
アメリカは、微笑んで頷く。
イギリスはアメリカの微笑みに微笑み返す。
「そうだ!特別に今日は、寂しがりの君と寝てやるんだぞ!!」
「なんでだよ!」
作品名:時間を越えて 作家名:兎餅