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龍吉@プロフご一読下さい
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裏切りの夕焼け

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「離れろ。お楽しみの時間はおわりだ」
そう言われると、劉唐はあっさり公孫勝から身を引いた。劉唐が部屋を出て行くまで、林冲は噛み付きそうな目で劉唐を睨み据えていた。
「大丈夫か、公孫勝」
食器の乗った盆を台の上に置いて、林冲が公孫勝の顔を覗き込んできた。
正直、大丈夫とは言えなかった。躰が疼いて、堪らない。そんなことを、林冲に言えるはずもない。
林冲が指の背で公孫勝の涙を掬う。
「驚かせて済まなかった。あいつには、きつく言い聞かせておく。だから泣くな」
息が苦しい。腕に縋り付くと、林冲は顔を寄せてきた。
「どうした?」
その首に自由な右腕を回し、唇を押し当てた。
不意に唇を奪われた林冲は、目を見開いたまま硬直している。
公孫勝は力尽き、寝台にどさりと落ちた。後は、林冲を見上げることしか出来ない。
暫くして我に帰った林冲が、低く呟いた。
「やめておけ。お前が向こうの時代で誰と交わっていたのかは知らんが、誰かの代わりになってやる義理はない」
林冲の言うことはどこまでも正論だった。しかし、林冲の顔でそれを言われるとどうしようもなく切なくなる。
「飯にしよう。その後は早く寝てしまえ。いいな」
林冲が盆の乗った台を引き寄せて椅子に座る。
「食えるか?」
公孫勝は身を起こそうとしたが、全身を襲う疲労感と疼きで起き上がることが出来ない。
「ちっ、くそっ」
首根を掴まれて、乱暴に引き起こされる。林冲が片手で抱き上げて、匙に粥を載せて公孫勝の口元に寄せる。もうもうと湯気を上げる粥は、見るからに熱そうだ。
林冲はお構いなしに、匙を公孫勝の口に突っ込んだ。
公孫勝は、猫舌だった。
跳ね上がって、匙ごと粥を吐き出してしまう。
「くそっ、どこまで手が掛かるんだ」
林冲は、匙に盛った粥を自分の口の中に入れた。
「あっつ」
今度は林冲が跳ね上がった。公孫勝が取り落とされかけて、林冲が慌てて抱きとめた。
林冲は粥を口の中で何度か咀嚼して、公孫勝に口付けた。
唇を開くと、粥を載せた林冲の舌が入ってくる。粥を舌で受け取り、口に入れる。
「どうだ、う」
林冲の言葉を遮り、伸び上がって林冲の口の中に舌を伸ばす。
林冲の口の中に残った粥の欠片まで綺麗に舐めとる。
呆然とする林冲に、微笑みかける。
「服が、乱れている」
暫く目を泳がせていた林冲が、公孫勝の衣服の前を整えて閉じ合わせる。
「公孫勝」
林冲が名前を呼ぶ。
「もしかして、お前の想い人って」
林冲の唇を人差し指で抑えて、言葉を遮る。林冲は、それ以上何も言わなかった。



「バイクの乗り方?」
次の日の昼前、公孫勝と劉唐は建物の外に出ていた。
「帰る手段の見当すらつかないのなら、せめて色々と見聞しておこうと思ってな」
「しかしなあ、百里に触ろうもんなら林冲に殺されるし、そもそも百里はいま林冲ごといないし」
「あいつは何してるんだ?」
「まあ、仕事。林冲は反政府組織の幹部なんだ。国民の声を聞いて、有害だと判断された政治家を暗殺したり、政治施設を強襲したりしてる。俺もだ。いつか、この国を民主主義に変えることが、俺たちの目標なんだ」
「梁山泊と、同じだな」
「なあ、あんた強いよ。仲間にならないか?林冲を抑え込めた人間なんて、初めて見た。あんたなら、大歓迎だよ」
劉唐が力説する。
「どうしても帰る手段が見つからなかったら、俺たちの仲間になればいい」
「考えておこう」
そのとき、唸る様な音がした。
「あ、林冲だ」
「おう。公孫勝は、もう外に出て大丈夫なのか?」
「問題ない」
「はっ、肩に風穴空いた状態でよく言う」
「日常生活には差し支えない」
「公孫勝がバイクの乗り方を教えて欲しいって」
「やめておけ。死ぬぞ」
「誰も百里みたいな馬力バカなバイクになんか乗らねえよ。基礎だけでも教えてやったら?」
「ちっ、まあ、いいだろう。来い、公孫勝」
林冲はバイクを見せながら、部品だか場所だかの説明をえんえんとしたが、何一つとして理解はできなかった。
「分かるか?」
「分からん」
林冲が大きな溜息を吐く。
「取り敢えず、この鍵を回して振動し始めたら持ち手の部分をしっかり握って回せ。バイクが唸り始めたら、思い切り右足を踏み込め。それで動くから。いいか、手は絶対に放すなよ。要は、馬みたいなもんだと思え」
ふと、気になっていたことを林冲に尋ねる。
「ところで、お前はどこで何をしてきたんだ?」
「ん?ああ、政治家の裏金の噂を聞いたからな、少し調べていた」
「裏金?」
「まあ、賄賂みたいなもんかな。賄賂は通じるか?」
「ああ。いつの時代にも、政治の腐敗は付きまとうものなのだな」
公孫勝が呟くと、林冲は公孫勝の頭をわしわしと掻き回した。
「安心しろ。絶対に、この国を変えて見せる。そうだろう?公孫勝」
林冲は自分自身に言い聞かせるように言った。
「ああ、そうだな」
日はまだ高い。しかし、あまり日の差さないこの裏路地でなら自分は生きていける気がした。



「じゃあ、俺は出掛けてくる」
少し遅めの昼食後、林冲は席を立って一人でふらりと出て行った。
「どうしたんだ、あいつは?」
「仕事だと思うよ。昼間、裏金の噂の真偽を確かめてくるって言ってたから、多分それの裏が取れたんだろうな。多分、受け取りの現場に踏み込んで証拠を抑えて、糾弾に持って行くんだろうさ」
「そうか」
雨が窓を叩く音がした。
「お、やべ、降ってきたなあ。公孫勝、あんたの服とかも干してあるから取り込むの手伝ってくれよ」
そう言って劉唐は席を立った。
その後を追うと、建物の三階の窓際に服が干されていた。いくらか降り込んでしまっている。急いで取り込み、窓を閉める前に下の路地を見ると、百里が停まっていた。
「林冲は百里に乗っていかなかったのか?」
「ああ、拳銃での撃ち合いになったとき、バイクに傷が付くのが嫌なんだと」
劉唐は服を適当に腰掛けの上に放り出し、階下に降りていった。
薄暗い昼下がりだ。不意に眠気が襲ってくる。傷を癒そうと、躰が睡眠を欲しているのだろう。劉唐が放り出した洗濯物を床の上に落とし、腰掛けに横になる。目を閉じると、吸い込まれるように意識が遠のいた。
雨は、止まない。



階下で劉唐が慌しく動いている気配で、公孫勝は目を覚ました。
「どうした」
階下に降りると、劉唐は青い顔をして黒い上着を羽織っていた。
「あ、ああ、あんたは家で寝ててくれ」
「何があった」
「林冲が政府の奴に捕まったらしい。連れていかれている途中だから、今ならまだ助けられるだろう、って連絡があった。向こうでも移送の妨害はやるらしいから、ちょっと行ってくる」
そう言い切ると、劉唐は飛び出して行った。
「林冲」
机の上を見ると、劉唐の走り書きがあった。

「鉄橋 西 跳ね橋」

外を見る。雨はやや小降りになっていた。雲が所々千切れて、金と紫の夕焼けが見える。
窓から見た街並の向こうに、大きな鉄橋が見えた。そこから、夕陽の方に視線を移すと、跳ね橋が確かにある。
階段を駆け下り、百里に跨る。
鍵は、付いたままだ。あちこちをいじっていると、百里が唸りを上げて振動し始めた。

「持ち手の部分をしっかり握って回せ」

林冲の声が耳に蘇る。