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toccata

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レンの場合(2)


ふぅ、と軽く溜息をつきながらレンは読んでいた台本から目を離した。
テレビの付近に置いてあった小さなカレンダーに視線を動かす。

(丁度、二週目の真ん中か…)

昨日の事がふと脳裏をよぎった。

事務所で一週目のチームの二人に逢った。
昨日は、レン自身が台本の受け取りに事務所へ足を運んでいた。
二人は次の日のスケジュール確認をマネージャーと共に会議室で行った後だったようだ。

「あー、レン!」
「やあ、元気そうだねぇ、イッキ」

午前十一時過ぎ。
会議室から出てきた、犬のように甘えん坊で構ってオーラ全開のイッキにいきなり声をかけられたのだ。

「レンは?今日は…あ、台本だね、今度のドラマの」
「あぁ」
「どんな役?」
「金持ちだけど、ホストやってる役。コンプレックスは、金持ちな事、女の子にもてまくっちゃう事…だってさ」
「何か、レン…それって凄く、レン自身ぽくない?」
「ははっ、そうだね。何か俺のプロフィール見た脚本家が”君いいねー、そのままドラマにしちゃおう”って。そんなノリみたいだよ」

自分で言っていて何だか自虐的だと思った。

日本でも有数な財閥、神宮寺財閥の三男がアイドル-----。
当主や財閥関係者、財閥関連の企業は「良い看板が血族に出来る」と喜んでいたが、俺自身はそれを少し受け止めきれずにいる。
以前は斜めを見ながら、「どうせそんな事だろう」と自嘲気味に華麗に右から左へ流せたが…。
学園でレディの曲に触れて、音楽に向かう姿を目にして。
何より、俺への評価と俺に対する態度の周囲との違いに面喰い、彼女に惹かれた。
彼女の創る「音楽」に心を、歌を込めたい。
そして彼女が俺にした評価を、何時しかそれが”大勢にそうあって欲しい”と思うようになった。
彼女も、そして今までとは違う評価もどちらも手に入れたい、と。
貪欲、と言う言葉の意味や重みを噛み締める。

「ふーん、テレビって何だか不思議だね」

イッキは考え込むような表情を浮かべていた。

「音也、レンは脚本を取った後今日はインタビューの取材が入っているんですから、長く足止めしては駄目でしょう」
「あ、イッチー」

常に眉間にしわを寄せている、元不思議ちゃんアイドル・HAYATO…だったイッチーが会議室から出て来たようだった。
責任感が強く、完璧主義者。
イッキみたいに、感性で動いている訳ではなく計算しつくしている…本当の凸凹コンビだと思う。

(相変わらずいいコンビだなホント、まぁ…イッチーは否定するだろうが)

学園時代に作ったデュエットの楽曲も中々だった。
ぶつかり合う中にも統一感がある。
まさに「王道」。
この二人は、王道を歩くアイドルだと俺は確信している。
メンタルの弱さだったり、人の良さだったり、口数が少ない為に他人を寄せ付けないオーラを醸し出してしまったり…とそれぞれに課題はあるのかもしれないが、確実に「トップアイドル」の称号は手に入れるだろう、そう思っている。

(まぁ、俺にはかなわないだろうけれどね)

認めてはいるが、レディの曲を一番完璧に表現出来るのは俺自身だ、という自負がある。
それは揺るがない。
学園にいた時からずっとだ。

イッチーに声をかけられたイッキは、ニコニコしながら先程の忠告を聴かずにあれこれ質問していた。

「で?結局どうなるの?」
「スタジオは明日以降じゃないと抑えられないそうなので、コーラスはそれまでに考えましょうか」
「うん、分かった。あっ…トキヤ、例の件、…どう、なった?」

イッキのトーンが変わった。
何やら重要な話をしているらしい、これは面白そうだと気配を消して一歩一歩近づいてみる。

「どうもこうもないですよ。”それならばそれが良い”って話です」
「そうだよね、やっぱりそうだよね」
「音也…何だか貴方、嬉しそうですね」
「そ、そんなことないよ!俺は別に、セシルの事を考えて…」
「セシル?彼がどうかしたの?」

うわっ、と声を上げ盛大に驚いた。
相変わらずイッキの反応は大きい、だがそれが楽しい。

「彼?どうしたの?何かやった?」
「いや…何かって言うか…」

もごもご言葉を口の奥で喋る為良く聞き取れない。
それを見たイッチーが、溜め息交じりで説明し出した。
うんいいコンビだ、と俺は又思う。

「彼がよく、ホテルの部屋はオートロックだってことを忘れるんですよ。締め出される度に何度もフロントに行っては迷惑でしょう」
「そうかい?彼らは迷惑かけられる事が仕事だから別に構わないんじゃないの?」
「迷惑をかけられる事が仕事の訳ないでしょう。それに…頻繁に発生すれば事務所に迷惑がかかります」
「今度は事務所?何で?別にボスの会社に何かたてつくような事言う人はいないと思うけど?」

この事務所は、途轍もなく有名だ。
ボスがあの二千万枚の売り上げを成した伝説のアイドル…だったからだ。
それ以外にも奇抜なアイデア、様々な才能を持ったアイドル達が所属欄に名を連ねている為、芸能界でこの事務所に喧嘩を売ろうとする人々はいない。
ライバル意識は有るだろうが、真っ向から勝負しても敵わないし、裏で手をまわしても敵わない。
ならば、上手く渡りつつ裏で陰口を叩けばいい。
実際そういう場面に出くわした事は、現場以外でも経験済みだ。

(おや?この流れは、何か…どこかに似てないか?)

他人事ではない雰囲気だな、と感じてしまう。
自分が生まれた世界でもそうだった。
煌びやかな世界のその本当の姿は、嫉妬と羨望がごちゃ混ぜになっていた。
その影さえも消してしまいたいと思う強い思い。
手を揉んで腰を折り、どこまでも自分を卑下して相手を持ち上げる。
混沌とした空間を、眩い光で隠す。
だからこそ、足元を見た時に設置されているかもしれない落とし穴に気が付かずに落ちる…。
逆にそれを利用して他人を落とす者もいる。
この世界も同じなのだろう、と思う。

(決して嫌いな世界じゃないけれどね。ただ、まぁ…レディに対してはお手柔らかにお願いしたいかな…)

自分の担当の週迄、作曲家への不用意な直接的接触は禁ずる----

イッキ達の曲を創りだした時に事務所から追加された文言だった。
理由は深く考えないようにするが、負担をかけないようにするため…なのかもしれない。
頑張り屋さんのレディは、大丈夫です、とにこやかにほほ笑んで、本当は大丈夫ではないのに無理をするだろう。
プロならば当たり前だが、今は…まだもう少し甘やかしてあげたい、と言う我儘が全身を覆う。
他のメンバーもそうだろう。
彼らもそれなりに「我慢」している筈だ。

「…兎に角、セシルに対しては私か音也のどちらかが一緒に部屋にいる事になりました」

口笛を吹いてイッチーの”勇気”に賛辞を贈る。
彼なりの「策略」を張り巡らせたようだ。

「で、結局どちらが行く事になったのかな?」
「あ、いえ…それはまだ…」
「ゆったりしていると前のチームも気が付いて、同じ事を言うかもしれないよ?だからさ、もっと早めに動くべきじゃない?」
「同じ…事」

はっ、とした表情を一瞬見せるイッチー。
これはこれで中々反応が面白い。
彼もレディに出逢って”変わった”人間の一人だ。
作品名:toccata 作家名:くぼくろ