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愛と友、その関係式 最終話

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 砂に足をとられながら一直線に走る。視界が次第に砂一面の世界へ開けた。美奈子の祈りが届いたように、砂浜に一人の影が真っ直ぐ太陽と正反対の方向へ伸びている。一歩二歩、近づいていく。人の姿は次第にはっきりとして美奈子の目に映った。
 ――予感は的中していた。
 短い髪、ぶっきらぼうな立ち方。あの後姿は間違いない――ずっと探していたもの、鈴鹿だ。
 美奈子は大きく息を吸いこんだ。
「かずまぁああああああ!!」
 叫ぶ。声に驚いた鈴鹿は振り向いて、また驚いた。
「みっ、みな」
 鈴鹿はあわあわと口を動かしていたが、美奈子は待ってなどいられなかった。
 駆ける足で砂地を蹴る。そして、そのまま鈴鹿へ抱きついた。
「好きだよ」
「はっ、え、おおっ!?」
 抱きつかれた鈴鹿がバランスを崩して尻餅をついた。
 
◆◇◆◇◆

 抱きつかれる前、確かに好きだと聞こえた気がした。
 ――幻聴か? いやいや。その前に抱きつかれてんのは何でだ??
 唐突過ぎる出来事のオンパレードに頭がついていかない。身体はせっかちで、ついていけない頭の代わりに心臓を早く打たせた。
 痛いくらい早い鼓動。胸の上の服を掴もうとして、抱きつかれていることを思い出した。更に動悸が早くなって、鈴鹿はへの字に口を歪めた。
「……お、お、おまっ。何でここにいんだよ」
 ぎぎと首だけ動かして、鈴鹿の腰へ抱きつく美奈子へ話しかける。
 美奈子は美奈子で両肩を大きく上下させて苦しそうだ。
「ごめっ……待って。全力疾走できたから、しばらく動けない」
「お、おう」
 何ともいえない気まずい沈黙が二人を包んだ。
 鈴鹿は美奈子が黙っているうちに色々なことを考えた。考えて、考えて――出た結論は、やはえい幻聴ではなかろうかということだ。
 しかし、美奈子は抱きついたまま一向に離れない。
 なぜ、どうして?
 鈴鹿の頭が再び疑問で埋め尽くされる。
「――はぁ。ごめんね」
 ようやく聞こえた美奈子の声で、鈴鹿は現実へ引き戻された。
 美奈子は上半身を起こして鈴鹿を見る。頬が桜色に見えるのは、世界が赤く染まっているせいなのかもしれない。それはそれで良い。自分の頬が赤いのも、きっと誤魔化してしまえる。
「あの……あのね。その――何から言えばいいんだろ。紺野さんが――違う違う。えっと、姫条くんとは――そうじゃないよね」
 美奈子はいつになくもじもじとしていたが、意を決してようだ。瞳に光が宿って、鈴鹿を射抜く。
「和馬」
「お、おう」
「私ね、夏から言えなかったことがあるの」
 鈴鹿は黙った。美奈子の目や髪が夕日にキラキラと輝いている。
「私……和馬が――き」
 消え入りそうな声。美奈子はぎゅっと目を閉じて開いた。
「私! 和馬が好き!」
 今度は叫び声に近い。
 びりびりと鈴鹿の鼓膜が震えた。
「……えっ」
 幻聴じゃなかった。だが、何か返さなければと思うほど声が空まわる。なんとか搾りだした声は、微妙に裏返っていた。
「う、嘘だろ」
「嘘じゃない!」
 間髪入れず美奈子は口を尖らせる。
「どうして俺なんだって聞いたでしょ?」
「あ、ああ」
「その答」
「いや……だってよ。人間的に好きとか、そんなんじゃねえのか。また――」
 美奈子の真っ直ぐとした瞳が鈴鹿を見ていた。
「好きだよ。和馬」
 愛の告白のわりには痛々しくて、ちっとも優しくないほど力強い。
「今まで、沢山傷つけてごめんなさい」
 美奈子の目からボロボロと泪が零れ落ちてきた。
「だけど、気づいたの。私は和馬のいない未来じゃ生きていけない」
 鈴鹿は咄嗟に美奈子を抱きしめた。
 ――逃げてたんだ。俺。
「……意地悪して、ごめん」
 鈴鹿の腕のなかで美奈子がしゃくりあげる。
「そっか」
 愛しいものを腕に抱く感覚が、これほど満ち足りた気分になれるものだと初めて知った。手にしてみれば、諦めようとしたそれは手放せないものだと気づく。
 愛というにはまだ幼くて恋というには大きいそれを上手く言葉にできない。
 出会ったときのこととか、これまでのこととか、どうしてこうなったのかとか。聞きたいことは山ほどあるのに、不思議とどうでもよくなった。
 たとえば、それは愚問で。至るまで必要な要素か、もしくは円周率のようなものなのだ。つまり、考えたって仕方がない。
 鈴鹿は笑う。
「美奈子!」
 恋しい人の名前を叫ぼう。
「お前と一緒なら、俺は怖いものなんかねぇ。最高で、最強なんだ」
 たった一つだけの彼女のためだけに与えられた名前を。
「美奈子が好きだ! 大好きだ!」
 だから、大声で世界に知らせるのだ。
 
<HAPPY END>

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