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tremolo

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おまけ視点・続/音也とトキヤの場合



事務所に向かうタクシーの中で、二人はそれぞれに流れゆく街の景色を眺めていた。
切りだしたのは音也だった。

「あのさ、トキヤ。何か、不安じゃない?」

音也の真剣な声色に、トキヤは視線を向ける。

「何がですか?」
「いや、セシル…の事」
「?…彼が、どうかしましたか?」
「う、うん…。ホテルの生活にも慣れてないみたいだしさ…そ、それに…」
「それに?」
「…ん、ん…んー…」

言いづらそうにしているのを見て、トキヤは溜め息をついた。

「言えないって事は取り越し苦労な事が多いですよ。深く考えない方が良いです」
「ん、うん…そうだと良いな…」

音也は又街の景色へ目を向ける。
トキヤは彼の態度が少々おかしい事を気にした。

「一体なんです?」

詰問する。

「何が心配なのですか?彼の…」

一瞬戸惑った表情を音也は浮かべるが、一間置いて意を決して喋り出した。

「…セシルってさ、七海と二人っきりで作るんだよね?」
「え?」

想像しなかった所からの視点の話で、トキヤは一瞬思考が止まった。

「…そ、それはそうでしょう。彼はソロ曲のみですし、今週で全員の曲を仕上げるんですから」

慌てて頭を動かして返答する。
音也はそれを見ても、やはり何か次の言葉が言いづらそうではあった。

「うん…だよね…うん」
「…音也…何かいいたい事があるのならはっきり言って下さい。事務所に着きますよ」
「うん…。あの、さ。全員の曲の時さ、セシルは…七海と二人きりになるのかな?とかさ、考えちゃってさ」
「え?」
「あ、あぁっ、ごめんごめん!なんでもないなんでも!取り越し苦労思いすごし!忘れて忘れて!」

音也は慌てて手を振って隣の人間に訴えた。
トキヤは開いた口がふさがらなかった。
彼自身そんな想像、してもいなかったからだ。

ふと、今日のセシルの動きを思い出してみる。
春歌と別れた後、後ろを振り返って彼女の姿を見ようとした。
目に飛び込んできた光景は、生々しく脳内に残っている。
彼は簡単に彼女に触れ、そして明らかに日本人とは違う文化圏で生まれた証拠の行動を即座に取っていた。
自分には、沢山の人の前では絶対に出来ない事を、してのけていた。
頭に浮かんだものの衝撃にトキヤは顔を手で覆う。

「トキヤ?大丈夫?酔った?」

心配そうな声で音也が聴いてきた。
大丈夫、と短く答えて考えを巡らせた。

(…確かに心配では有りますね…)

「音也…」
「何?」

トキヤは一つ深呼吸して、自分がこれから言う内容を分かりやすくかみ砕いて伝える努力を心がけることとした。
一度で分かって貰わないと困る。
とても恥ずかしい事なのだ。
自分の気持ちを、相手に悟られないようにする為に。
何だか今回自分たちは、随分と貧乏くじを引いた気がするとトキヤは自身の選択が間違えであった事を少し呪いたい気分だった。

二人のアイドル見習いを乗せたタクシーは街を滑る。
それぞれの「想い」を乗せて、急げ急げと追われるように。

(抜け駆けは…させませんから…)

策士は心の中で力強く拳を握りしめていた。


作品名:tremolo 作家名:くぼくろ