風丸受けまとめ
*ヒロ風
古ぼけたアパートの、錆びた鉄製の階段をのぼると、カンカンと独特の足音が鳴り響いた。
目的の部屋の前に来るとポケットから合鍵をだす。こんな脆そうな鍵でセキュリティは大丈夫なのか、ここへ来る度毎回心配になる。だからこそ毎週のようにここへ通っているのだが。
鍵を開けドアを開けると、ふわりと甘い香りがした。嗅ぎなれたにおい。僕はこのにおいが好きだった。
「風丸くーん、起きてるー?」
多分起きていないだろうけど、念のため聞いてみる。
「……」
返事が無いということはやはり寝ているのだろう。
軽くため息をついてから部屋に上がる。廊下には脱ぎっぱなしの衣類が投げ出されていた。
点々と続く衣類を辿っていくと、縮こまって毛布に包まった衣類の持ち主がベッドの上ですやすやと寝息をたてていた。
「風丸くん、もう朝だよー。」
ゆさゆさ揺さぶって反応を窺うが、ううん、と唸ってごろりと仰向けになるだけ。そのまままたすやすやと心地良さそうに寝息をたてる。
仕方ない。
僕は風丸くんを起こすのを諦め、衣類を洗濯機に突っ込んでから台所に立った。冷蔵庫の中身は割と充実していたので、僕はスクランブルエッグとウインナーを作る事にした。
衣類は脱ぎ散らかすくせに台所は綺麗に整頓されている。ゴミ袋の中のカップ麺の空がその理由をありありと示してくれていた。
「こんなんじゃ体壊すって言ってるのに…」
ぶつくさ言いながらも、料理する手は止めない。
そろそろ出来上がるか、という頃に背後から「おはよ~」と間延びした声が聞こえた。
振り向くと、毛布を肩にかけたままごしごし目を擦る風丸くんが居た。
「おそよう。」
皿にウインナーを盛り付けながら応えると、ははは~、とこれまた間延びした返事。
「俺もなんかする。」
「だめ、危なっかしいから。」
まだ完全に起きてないようなふらふらしている人に割れ物なんて運ばせられない。
「こっちはいいから、机拭いてよ。」
「おー」
またふらふら戻っていく風丸くんは本当に危なっかしい。
途中で何かにぶつかる音と「いてっ」と言う声がした。
食事も終わって食器も片付けた後。
僕が新聞を読んでいると、隣の風丸くんが、ぽす、と肩に頭を預けてきた。眠気が振り返したのだろう。その目は半分閉じていた。
ゆっくり目を閉じて、ハッと目を開く。何度も繰り返すその仕種が可愛くて、くすりと笑みがこぼれた。
「眠いなら寝てもいいよ?」
「うん…でも、折角ヒロトと…一日中居られるし…」
そう言って必死に眠るまいとする恋人のなんといじらしい事か。
思わず抱きしめて頭をがしがし撫で回したい衝動に駆られるが、そこは我慢する。
「じゃあ、少し経ったら起こしてあげるから。ね?」
「うん…」
肯定しながらも、まだ目をつぶらない風丸くんを疑問に思っていると、風丸くんがわずかに身じろぎした。
そろりと手の平に感じる熱。
「手、つないでても…いいか?」
なんとも可愛い質問に応えるかわりに、僕はその手をそっと握った。