夢の逆流
台無しなおまけ。
「……………」
目の前には、矢島にバッティング指導を受けている兄の姿。
何だかもやもやしたものが胸の中に涌いてくるが、敢えて無視。
(……いつもの事だ、いつもの……)
そう自分に言い聞かせている時点で無視出来ていないのだが、気にしない様それから目を逸らし、己の練習へと……
「たいちーっ元気でやってるーっ」
(またかぁぁぁっ!!)
行けませんでした。
石田の登場により、気を落ち着かせようとした甲斐無く一気に沸点。
更に悪い事に、無邪気極まり無く石田が太一に体当たり気味に抱きついたり何だかんだとじゃれあったり矢島も参戦してどさくさ紛れに太一を抱き締めてみたり。
(……喧嘩を売っているのか!?)
ぶるぶる震えながら爆発寸前。
(って待て!!何故俺がそんな事に気を取られなきゃいけないんだ!!……別に兄貴が誰と何をしていたって構わ……)
「それじゃあ今日は俺と一緒に寝るか。ストレッチやマッサージもした方がいい」
「う、うんっ」
「いーなーいーなーっ!!おいらもたいちと一緒に寝たいーっ」
(待てやぁぁぁ!!!)
泰二さん壊れかけ。
しかしそんな自分の危うい状態にも気付かず、身体は感情のままに動いていた。
ばっ、と二人の目の前で兄を持ち上げ、小脇に抱えてダッシュで逃走。
流石の矢島と石田も反応出来ず、それを見送るだけだった。
「た、たいじ~?」
(何してんだ俺ーーーっ!?)
困惑の声を上げる太一だが、泰二は太一以上に混乱していて、反応せず。
「……また熱出たのかー?」
服の端っこを掴んで不安そうに見上げてきた兄の様子に、少しばかり冷静さを取り戻す。
取り敢えず足を止め、太一を降ろして。
「たいじ~?」
(……俺はまだ熱がある。ああ、まだ熱があるんだ。……だからだ、これは)
そのまま、抱き締めた。
力は入れすぎない様に、照れとかこの後の事とかは極力考えない様に。
「……たいじ~?」
背に回される小さな兄の手と、小さいが確かな身体の温もりを感じながら。
目を閉じた。
……追記として。
幸運にもその現場をアストロズメンバーに見られて揶揄われるといった事は無かった泰二だったが。
「あっ、たいじー、れんしゅーいくぞー!!」
「あ、ああ…………」
どうにもあれ以来こっ恥ずかしくて、兄の顔が見れない泰二さんであったとさ。