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金色の双璧 【単発モノ その1】

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4.

「……アイオリア、おまえも懲りないな」
 ふぅ、とサガが悩ましげに溜め息をつく。部屋の窓から覗き込むアイオリアに反省の色など微塵もない。へへと窓の外で、嬉しげにアイオリアは笑うばかりだ。すると遠くの方から「ア〜イ〜オ〜リ〜ア〜〜〜〜!!」と叫ぶ声が聞こえた。
 そこでようやく慌てたように、アイオリアが振り返ると遠くの方で土煙が立っている。兄アイオロスの突進だ。
「アイオリア、この部屋に来るのは構わないが、ちゃんとアイオロスの許可を得なさい。毎度毎度、大騒ぎされるのも困るのだよ」
 サガのグループはアイオロスのグループと違って、戸外での訓練はあまりしなくて、いつも室内でイスに座って話すような、どちらかといえば『学校』の授業みたいな訓練だった。だから、アイオリアには物珍しかったし、何よりあの子を見たかったのだ。
 戸外同士なら良かったけれども、そうではなかったので仕方なく、アイオロスの訓練をこっそり抜け出してわざわざこっちまでアイオリアは覗きに来ていたのだ。
「だって、サガ。ロス兄ちゃんが邪魔になるから駄目だって言うんだ。ちっとも邪魔なんかしてないのに」
 ぷうと頬を膨らませて抗議するアイオリアだが、サガはただ深く溜め息をつくばかりだ。
「やっぱり本当の事を教えるべきだったな。アイオロスが面白がっておまえを勘違いさせたままなのが、そもそも悪いんだ」
「勘違い?」
「そう。アイオリア、実はシャカは……」
と、サガが窓越しに至極真剣に話しかけようとした時、アイオリアは目から脳みそが出そうな衝撃を脳天に受けた。半分目が回っていた。
「アイオリア、戻るぞ?」
 容赦ない脳天に肘鉄を一発喰らわして、ぐったりしているアイオリアを小脇に抱えると実に爽やかな笑みをサガに向け、「邪魔したな、サガ!」と告げると颯爽と立ち去ったのだった。
「まったく、お騒がせ兄弟だな」
 窓枠に凭れ掛かったまま、サガが呆れていると、ちょんちょんと袖を引っ張られ、そちらに視線を向ける。
 目を瞑ったまま顔を見上げるその仕草は愛らしく、アイオリアならずとも勘違いしても当然かもしれないとサガは少し笑った。
「なんだい、シャカ」
 同じ目線になるように、といっても相手は目を瞑ったままであったが、サガは膝を折り、腰を屈めた。真正面に顔がくる。長い睫毛を少し揺らしながら、シャカが小さな声を出した。
「アイオリアはどうして毎日こっちに来るのですか?」
「はは。本当に。きっと、とてもアイオリアにとって魅力的なものがこっちにはあるんだろうね」
「魅力的?……ムウの眉毛とか?」
「えぇと……それは……どうだろうか」
 ちょっと返答しづらい答えである。シャカにとってはムウの眉毛は魅力的なのだろうかとサガは疑問に思いながら、笑って誤摩化すしかなかった。
 このちょっとボヤッとした子を「女の子」だとばかり思って、健気に思っているらしいアイオリアに、早く本当の事を告げて、目を覚ましてやらないといけないな、とサガはぼんやり思うのだった。


Fin.