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金色の双璧 【単発モノ その1】

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Scene 02.子供時代


1.


 一分でも、一秒でも早く、
 俺は大人になりたいと思っていた———。


 新しく支給されたばかりの訓練服は数日しか経っていないというのに、アイオリアの訓練服はすでにボロボロになっていた。もう毎度のことだから仕方のないことだと諦めてはいたけれど、3日後に極秘裏ではあったが、黄金聖闘士たちが集結することになっていたのをアイオリアは思い出して溜め息を吐いた。
 秘密の会合では聖衣で出席するから別にかまわないが、その後の晩餐会でこの見窄らしい姿を曝すのは少々抵抗があったからだ。
「晩餐会は……辞退すればいいか」
 見栄っ張りといわれればそれまでだが、世の中には見栄を張りたくなる相手が一人や二人、いるものだ。同じ時期に黄金聖闘士となったメンバーは仲間ではあったけれども、ライバルでもあったし、特にアイオリアが色々と『厄介な』立場となってからは余計に負けん気だけは強くなった。そうならざる得なかったのもある。
 少しでも弱音を吐いたりすれば『喰われる』のだ。弱肉強食の世界。そしてアイオリアが身に纏うべき聖衣はその頂点に立つべき獅子なのだという気負いもあった。
 毎日が愉快で楽しくて、夜眠る時間だって惜しいと思っていた輝く時間はあっという間に過ぎ去った。
 淡い初恋もした。でも相手が実は男の子でした———なんていうオチで、ものの見事にアイオリアが失恋したことだって、今となっては取るに足らぬ小さな事だ。ちょっとした諍いすらも他愛無い子供の戯れ合いでしかなかった。
 今はただ、がむしゃらに前を向いて歯を食いしばって歩いていくしかない。どんなに踏みにじられても、何度だってアイオリアは立ち上がるしかなかった。



 すでに教皇の間では主立ったメンバーが集まっていた。アイオリアが広間に入ろうと扉を開けた瞬間、微妙な空気が流れた。それまで歓談していた者たちが口を噤み、一瞬だけアイオリアに視線を向けた後は目を合わそうともしなかった。
 当然と言えば当然のこと。叛逆者の弟というのは周知の事実であり、本来ならばこの場に相応しくない者なのだから……と、そうアイオリアは自らに言い聞かせる。
 ただの聖闘士であれば、当の昔に聖域から追放されていたことだろう。だが、幸か不幸か黄金聖闘士であったが為にアイオリアは聖域に縛られた。身動きもできぬほどの雁字搦め。きりきりと締め上げられて、血さえ滲み出ている気がした。
 扉の前から縫い付けられたようにその場で佇んだまま、誰とも会話することもなく、ただぼんやりと周囲を見渡す。皆、成長期真っ盛りといった状態で、数年前とは見違えるばかりである。それぞれ逞しく、眩しいばかりに輝いていた。
 同じように見回していたらしいミロと目が合う。同じ聖域に本拠地を構えていたにも関わらず、久しく顔を会わせていなかった。ミロは少し驚いた顔をした後、小さく口が開いた。「ヨッ!」と言っているように見えた。戸惑ってはいたけれども、ミロはそれでも微笑を浮かべてくれた。
 たったそれだけのことだったが、アイオリアの心が少し軽くなった時だった。
「退きたまえ、邪魔だ」
 と、剣呑な物言いが背後から掛けられて、アイオリアは驚いて振り返った。
「シャカ……か?」
「そうだ。そこに立たれると中に入れぬ。さっさと前に進みたまえ!」
 青筋を浮かべて物騒な事この上なかったが、ひょろんとした細い体躯が如何せん迫力に欠け、また相反するように威風堂々な黄金聖衣に乗っかっている頭部は美少女然りであるため、一瞬アイオリアは惚けたのだった。
「えぇ……っと」
 これじゃあ、まるであの時の二の舞じゃないか……と、しどろもどろになるアイオリアに業を煮やしたシャカの手が伸びる。ぎょっと驚いて身を引くのも間に合わず、しっかり腕を掴まれて引っ張られる。一気にアイオリアの頬が赤く染まった。
「は……離せってば!」
 細身のシャカのどこにそんな力があるのか、為すがままだった。キッと閉じた目で睨みつけられて、気圧されたのもあるかもしれないが。
 あっという間に中央付近まで引っ張り出されて、皆の視線が集中する。アイオリアは身の置き所をなくし、知らず俯いていた。
「こそこそせずに、獅子らしく、しゃんとしたまえ」
 シャカの叱咤にカチンときて、睨みつけるように顔を上げる。すると、「それでこそ、アイオリアだ」とシャカは誇らしげな極上の笑みを浮かべたのだった。