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金色の双璧 【単発モノ その1】

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2.


 ———トントン。

 教皇の謁見、そして会談のあとに催された晩餐会。それにはやはり参加せず、アイオリアは自らの住処へと戻っていた。人一人が生活するにも少々狭い、そして古びた小屋だ。
 アイオリアが昼間の間に拵えたひよこ豆のスープを温め直している時だった。入り口の扉を叩く音がしたのだ。物音が発した場所を不信そうにアイオリアは見た後、狭い家の入り口に向かった。
 夕食時間は過ぎていた頃で周りはとっくに暗闇となっていた。またこの場所を訪れるような奇特な者などなかったから、一体誰が訪ねて来たのかとアイオリアは警戒しながら、その扉をゆっくり開ける。
「……」
 そこに立っていた人物があまりにも意外だったから、アイオリアは言葉を無くしていた。すると、少し苛立ったように相手がついっと前に一歩踏み出したものだから、アイオリアはそのまま一歩下がる。
「入ってもいいかね?」
 有無を言わせぬ迫力にアイオリアは頷くしかない。当然、相手はするりと中へ入り込んだ。白い布を細身にたっぷり巻きつけて、以前と同じように男だか女だかわからないような格好をしていた。
「ふむ、イイ匂いだ。ちょうど腹が減っているので私もご相伴に預かろう」
「はい?おいおい、いきなりなんだよ。シャカ、おまえは晩餐会で食事済ませたんだろうが」
「いや、空腹だ———私の食べられぬ物ばかりであったからな。水しかありつけなかったのだよ」
 マジかよ……とアイオリアは呆れて天を仰ぐが、シャカは鍋の中から漂う匂いを満足そうに吸い込んでいた。
「……んで?どういう魂胆なんだ?」
 大して美味くはない料理———というよりも、はっきり言って質より量なアイオリアの料理を文句も言わずに、むしろ美味そうに食べているシャカに向かってアイオリアは質問を投げかけた。
「魂胆?」
 何の事だかわからないといったようにシャカは首を傾げる。細い指先が固いパンを千切って、スープに浸し、口の中へと放り込んだ後、ちろりと覗かせた舌先が触れていた。何気ない仕草だったけれども、アイオリアはドキリとした。
「魂胆かね……腹を空かしていたという理由だけでは満足しないかね?」
「満足しないね。っていうか、おまえさ、なんでそんなに偉そうなんだよ?昔はもっと可愛げあったと思うが」
 そう、出会った頃は本当に可愛かった……うっかり好きになってしまったほどだ。あの頃のシャカの愛らしい姿を思い出してアイオリアは少しだけ鼻の下が伸びかけた。今も黙ってさえいれば可愛いと思うアイオリアである。
「ふん、可愛げかね……そのようなものは必要なかろう?我々に。君とて精一杯、背伸びしているように見えるが?」
 図星を突かれて押し黙る。と、同時にシャカもまたアイオリアと同じように『背伸び』しているのだろうかと疑問が沸いた。
「じゃあ、聞くが。おまえはどうなんだよ、シャカ」
「……我々は黄金聖闘士だ、アイオリア。子供だからということは免罪符にはならぬ。サガやアイオロスと同じように駆け足で登って行かなければならない」
「おまえが……そんな風に思っていたとはな」
 共有する気持ちの存在を知って、アイオリアは不思議な安堵感を与えられた。その後はシャカの修行の地であるインドの話とかを聞きながら、あっという間に食事の時間が過ぎたのだった。
「ふむ。アイオリアにしては美味かった。馳走になったな。次も機会があれば用意しておくがいい。どうにも晩餐会の料理は私の口には合わないのでな」
「どんだけ、上から!?」
「何か言ったかね?」
「いや、何も」
 余計なことをこれ以上言って、下手に煽る必要も無いだろうと判断したアイオリアはぐったりと肩を落とすに留めた。このまま何も起きず、無事シャカが帰ってくれればそれでいい、と。
 かたりとイスから立ち上がったシャカが用も済んだとばかりに立ち去ろうとしたので、アイオリアが一応見送ろうとした。だが、不意にシャカが立ち止まったので、アイオリアは怪訝に眉を顰める。
「そうそう、アイオリアこれを」
 そういってシャカが小さく折り畳まれた紙切れを寄越した。
「何だ?」
 折り畳まれていた紙切れを受け取り、元の形に戻して中身に目を通す。読み進めて行くうちにアイオリアの鼻の奥が少しだけ、ツンとした。拙い文章はミロからだった。
「アイオリア。ミロだけではなく、皆、どうしてよいのかわからない……といったところだ。不安もある中での戸惑い。悪意はないのだよ、きっと。君を疎んじているわけではない……きっと……今だけだ」
 すでにシャカは扉に向かっていた。だからシャカがどんな表情をしているかはわからなかったが、シャカの目的が本当はこのことを伝える為だったのではないだろうかとアイオリアは考えに及んだ。
「うん、わかっている。サンキューな」
 扉が開かれてふわりと風が舞い込む。その風に乗るようにシャカは振り返りもせずに前へと進んでいった。
 まるでそれはアイオリアと同じく子供時代を切り捨てるように、一分でも、一秒でも早く大人になろうとするかのようなシャカの後ろ姿だった。


Fin.