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金色の双璧 【単発モノ その1】

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Scene 15.体格差



1.
 鍛錬は裏切らない。どれだけ苦しくても、歯を食いしばった分、きちんと鍛えられた通りに鋭く、滑らかな筋肉となって、ちゃんと力を発揮してくれる。ここ最近、特に肉体への顕著な変化となってわかりやすいものだから、ついつい頑張ってしまう。
「うん、また背が伸びた」
 ガリッと柱に傷つけた己の背丈の印を満足げにアイオリアは眺めた。柱には幾つもの傷がついていて、あともう少しで兄のラインと並ぶほどになっていた。
「もうすぐ、追いつきますよ、兄さん」
 すうっと、古い柱の傷跡を撫でる。アイオリアの背が兄アイオロスのラインと並んだ時、きっと何かが変わるようなそんな気がした。あと少し。目を細めて柱に刻んだ思いを眺めた。



「あれ?ミロ?あいつ、あんなところで何してんだ」
 先程まで真っ赤に夕空を焼いていた太陽が傾き、薄い闇が周りを覆い始めた時刻。
 アイオリアは夕食後のデザートになるような果物を探しに聖域から少し外れにある、その昔、子供の頃よく遊びに行ったゴルゴーンの丘まで足を伸ばしていた。
 勝手知ったる場所だ。どの木にどんな実がなるのか熟知していたから、時々食べたくなった時、訪れていた。ミロもアイオリアとよく連れ立ってここを遊び場所としていたから、ミロがいても不思議はなかったけれども、ミロは一人ではなく同伴者と共に居たのだ。見覚えのある独特の衣装は聖域に属するものの証を示していた。
 滑らかな曲線を描く体に遠目でもわかる上質な布を優雅に纏った長衣。茶色の柔らかそうな長い髪をところどころ結い上げている。教皇宮かまたはどこかの宮に務めているであろう従者、女官らしい。
 年の頃は自分らよりも上の大人の女性といった感じだ。基本、彼女たちは属する宮内から出てくることはないはずだ。何かの折に触れて人前に出て来る程度なので訓練生や雑兵、下位の聖闘士にすれば高嶺の花のような存在というか(結構美人が多いと評判なのだ)、血気盛んな青少年たちは憧憬と羨望の眼差しでもって、彼女たちに憧れを抱いている。
 そんな人物となぜ、ミロは二人でいるのだろうと訝しんでいると、必要以上に身体を密着させて、時折笑い声を交えながら、いちゃいちゃと(いや、そうとしかいいようのない状態なのだ、実際)過剰なまでのスキンシップを図っているように見えた。
「なんていうか……野暮だよな、声かけるの」
 楽しげなミロたちに声をかけるのも憚られていたけれども、ちょうど彼らがいる付近にアイオリアの大好物とする果実がたわわに実っていたのだ。
 どうしようかと悩んだ末、せっかくここまで来たんだしとアイオリアはそっと気配を殺して近づき、果実を取ったら直ぐさま退散しようと決めた。
 そろりそろりと近づく。二人は時折笑い声を上げながら、会話に夢中なようだった。いわゆる恋人とかいう関係なのだろうかと推測しながら、そっと熟した果実をもぎ取っていると、だんだんと二人は無口になって次第に沈黙に包まれていた。どうしたんだろうか?喧嘩にでもなったのか?とアイオリアは少し心配になって、木々の隙間から二人の様子を覗き見た。

「なっ……っ!!???」
 
 思わず叫び出しかけて、慌てて両手で口を塞ぎ、木々の影に隠れた。それでもアイオリアは激しい動悸に絶対ミロに存在がバレたかもしれないと顔を真っ赤にしながら、動揺を必死に押さえ込む。
「アレって、あれは……いわゆる……アレだよな……」
 ぐるぐると目眩さえしそうになりながら、無駄に火照る身体から汗が滝のように流れた。ミロはアイオリアの知らない大人の世界を知っているということを今日初めてアイオリアは知ったのだった。
 もう一度だけこっそりと木々の切れ目から確認すると、日に焼けたアイオリアやミロ、女聖闘士とは違った月のように白い肌がするりと惜しげもなく現れた。
 ミロの指が布に隠された白い肌を生々しく空気に晒すその瞬間をアイオリアは目に焼き付けたのだった。