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金色の双璧 【単発モノ その1】

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2.
「…これで終了。随分、遅くなったな?おまえが手伝ってくれて本当助かったよ、シャカ」
 トントンと書類を整えるサガの顔には笑みが浮かんでいた。数時間前までは悲壮感もあらわに、背後には魑魅魍魎でも背負っているかのような雰囲気を醸し出していたのだが。
「鬼の居ぬ間になんとやらだな。私が手伝ったからというより、シオン教皇とアイオロスの邪魔が入らなかったからといったほうが大きいであろう。アテナにはたびたび二人を率いて遊説に出かけてもらいたいといったところが本音ではないかね?」
「まぁ…確かにそれもあるが。だが、その後にはまた書類が……考えると嫌になりそうだ」
 わずかに蒼褪めたサガに対してなぐさめの言葉もないと、共に溜息をついたシャカである。
「そのときは遠慮なく声をかけたまえ。何でも一人で抱える必要はないと思う」
「そうだな…また手伝って貰うこととしよう。腹も減っただろう?何か用意させるが」
「いや、いい。アイオリアが来ているだろうから」
「アイオリア?待たせていたのか…悪いことをしたな。ふむ……やはり何か持たせよう」
 うん、そのほうがいいと一人納得したサガはそそくさと従者を呼びつけ、何やら言付けた。
「気を遣わずともよいのに」
 そう呟くシャカにやんわりとサガは笑みを返す。
「そういうわけにもいかんだろう。腹を空かせた獅子ほど、たちの悪いものはないからな」
 至極真面目に語るサガに「どういう意味かね?」とシャカは首を傾げた。



 サガが用意させた差し入れを受け取ったあと、大事そうに抱えながら自宮へ戻ったシャカはアイオリアが暇を持て余し、腹を空かせて待っているだろうとばかり思っていたが、それは余計な心配だったようだと思う羽目になった。
 アイオリアは野生の獅子よろしくシャカの寝台で気持ちよく眠りの中にいたのである。このままそっとしておくべきかどうか一瞬迷ったが、せっかくサガが用意させた差し入れを無駄にするのも…と思い、結局アイオリアを起こすことにした。
 うつ伏せになって眠りを貪るアイオリアの傍らに腰を落とし、「アイオリア」と呼びかけた。
「ん……おかえり…」
 もそもそと手を伸ばしたアイオリアはシャカを引き寄せるように腰へと腕を回すと、またすぅと寝息を立てた。
「アイオリア、起きたまえ。腹が減っているだろう?」
 ゆさゆさと背中を揺すりながらシャカが起こそうと試みるが、アイオリアは生返事と共に、より一層シャカを抱き締めてみせるばかりだ。
「腹は減っていないのかね?」
 諦めたシャカは抱きつくアイオリアを宥めるように今度は背中をさすると、ほんの少しはっきりしたアイオリアの返事がかえってきた。
「死にそうなくらい……腹は減ってる……」
「サガに差し入れを頂戴した。食べるかね?」
「食べる……でも、先におまえを食べたい……」
「私は食い物ではないが?」
 寝惚けているのだろうかと思い、問い返したシャカなのだがアイオリアは寝惚けていたわけではなく、しっかりとした別の意味での意思表示なのだということに気付く。シャカを抱き締めていたアイオリアの手がだんだんと卑猥に動き始めたのだ。
「こら、やめたまえ!」
 身を捩り、眠りから醒め始めた凶暴な獣から逃れようとしたシャカであるが、寝起きのどこにそんな力があるのか、アイオリアはしっかりとシャカを離さず、それどころか押さえ込む始末である。
『―――腹を空かせた獅子ほどたちの悪いものはない』
 サガの言った意味はもしかして、こういう意味もあったのだろうか?そんなことをシャカは改めて思うこととなった。