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lotus

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「シャカ、今日はいい天気だから、少し、散歩しようか」
 小さなシャカは相変わらずベッドに生えたままで、私の声にも反応することはなかった。まるで人形遊びをしているような気さえしながら、細枝の手足を慎重に持って抱え上げた。わずかに伸びて毬栗のようになった髪の毛が、頬にあたって、くすぐったかった。
「ちょっとだけ、重くなったかな」
 まだまだ、軽くて不安にさせるものではあったけれども、ぺたりと顔を寄せて、小さな腕を私に巻き付かせるシャカ。目に見えてわかるものではなかったけれども、少しずつ、少しずつ前に向かってくれているのだと、このぬくもりが教えてくれた。
「シャカ、ここは聖域というところだよ。アテナが降臨した折にはアテナと共に地上の平和と愛と正義を守るために―――私たちはいるんだ」
 施設から出て、シャカを抱きながら、ゆっくりと外を歩いて回る。通りすぎる人たちは一様に私たちの姿を見かけると、笑顔を差し向けてくれる。とても温かな場所。
 ほとんど一方的にシャカに話かけながら、柔らかな日差しを受ける草原を歩いた。途中あった、小さな木陰を作る木の下で休憩を取る。
 シャカはいつまでも目を開けることはなかった。この子供は目が見えないのだろうか。声をかけても反応がないところをみると、耳も聞こえないかもしれない。声だって......聞いたことはない。昔、読んだ偉人伝のヘレン・ケラーという名が脳裏に浮かんだ。
「可能性は―――まだ、あるはずだ。そうだよな、シャカ」
 膝の上に向き合うようにしてシャカを乗せる。聞こえているのか、いないのか。その表情からは、まったくわからなかった。そんなシャカが、僅かに顔を動かした。ふわりと、優しく頬を撫でるかのように、吹く風に向かって。シャカを撫でた風の先を見るように、耳を澄ますかのように顔を小高い丘の向こうへと向けたのだ。
「―――っガ〜、サガーーー!」
 風に乗って、運ばれて来た声。続いて、小さなゴムまりのように跳ねながら、少し小高くなった丘から、駆け下りて来たのはアイオリアだった。その後ろには保護者のアイオロスの姿。
 ひょっとしたらシャカは彼らの存在を感じ取ったのだろうか。まさかな、とすぐに否定する。
 私が軽く手を挙げて振ると、同じように二人が返した。数秒ほどで、はぁはぁと息を切らせながら、辿り着いたアイオリア。これでもかと嬉しげに大地に寝転び、短い手足を大の字に広げた。じたばたと何が楽しいのか一暴れした後、むくりと起き上がり、大声で「にいちゃーーーん、早く来いよーーー!!」と叫ぶ。落ち着きのなさは年相応で元気印満点だ。少し、この子に分けて欲しいとシャカを見下ろす。
 すると、シャカに僅かな変化が見られた。小さな手で、私の服をきゅっと握り締めていたのだ。アイオリアの気配に驚いたのだろうか。
「よう、サガ。チビ助連れて散歩か?」
「ああ、おまえもか、アイオロス」
 サガ〜、一緒に遊ぼうよ〜と、こちらに顔を向けつつも、ぴょんぴょんと跳ねてはアイオロスの足下でじゃれつくアイオリア。「よいしょ」と、アイオロスはアイオリアを軽々と抱え上げて、ちょうど良い高さにあった枝に、そのまましがみつかせた。何でも遊び道具になる年頃なのだろう。嬉しげにアイオリアは木登りを始めた。
「ちょうどいい鍛錬、だろ?」
 悪戯っぽくアイオロスは笑うと、邪魔者はいなくなったし、と私の横に腰を下ろした。腰を少し屈めて、アイオロスは愉快そうに私とシャカを見つめた。
「なんだか、そうやってサガにしがみついているのを見ると、こいつ、小猿っぽい
な?」
 笑いながら、私の胸に顔を埋めたまま、身動きしない金色の毬栗頭をアイオロスは撫でたあと、ちょっと抱かせろと引き剥がそうとした。
 するとどうだろう。目一杯服が伸びても、シャカはまだ私の服を掴んだままで、ピンとこれでもかと張られた足が必死に私の身体に向かって伸ばされ、しがみついているのだ。無表情のはずの顔が、不安げで、今にも泣き出しそうに見えた。
「ごめん、やっぱ無理か」
 可哀想に思ったのか、アイオロスは結局諦めて、元の位置へとシャカを戻した。さっきよりも、シャカは強くしがみついているような気がしたのはきっと気のせいなどではないだろう。
「ベタ慣れ、だな?人見知りするんだな、こいつ」
 苦笑しながら、私を小突くアイオロスについ、やに下がる。
「初めてだ。こんな反応は」
「いいことじゃないか。俺は寂しいけど。シャカ〜、俺は敵じゃないからな〜ロス兄ちゃんだぞ〜」
 つんつんと惜しむように細い腕を突っつく。すると、ますますシャカは私の胸というよりは脇のほうに潜り込んでいった。じんわりと胸の奥が熱くなった。
「確かに小猿っぽいかもしれない」
 甘酸っぱい気持ちに自然と笑みを零していると、アイオリアが木の上からわざとらしく、アイオロスの上に落ちてきた。雷を落とすアイオロスと、必死で言い訳するアイオリアを見ながら、愛しすぎるぬくもりを確かに感じながら、腹を抱えて笑った。

作品名:lotus 作家名:千珠