混迷疑心のコンパートメント
「んでいちいちめんどくさいのよねーカレシ。いいじゃんねあたしのお金なんだし」
「あーわかるー。なんかめんどくさいよねオタって。お金の出し方おかしいよねー」
これまでの会話の内容からして近所に勤務しているらしいメイドスイーツ(笑)2人がだらだらと喋り続けて既に15分。俺は個室の中で動けないどころか息するだけで精一杯だ。いつスイーツ(笑)のどちらかが隣の個室に入ってきたら俺はどうしたらいいのか。助手には散々HENTAI呼ばわりされているが鳳凰院凶真はそもそも女子など眼中にないわけであり異常な性癖もないので……要するに音なんか聞きたくないので誰か、誰か助けてください!!
「奥って誰か入ってるのかな、ずっと閉まってるけど……」
その一言に、ただでも暑くてぼたぼた落ちてた汗がさらに量を増す。どうしようこっち調べに来たり通報されたりしたらどうしよう。俺は誓って何もしてないし何もする気はないけれど女子トイレに閉じこもっている白衣の男はそりゃあもう犯罪者だろう。違うけど。断じて違うけど誓って違うけど周囲から見たらアウトだって俺だってわかってる!! くそ!!
こんな状態耐えられない。通報されるくらいならもういっそのこと全てを諦めて悠々と鳳凰院凶真として高笑いしながら個室から登場してしまおうか。スイーツ(笑)どもが呆然としている間に悠々と脱出してやればいいのかもしれないとか考えはじめる自分の精神状態は既に相当どうかしている。俺が白衣着てこのあたりぶらぶらしてるのなんてみんな知ってるだろ! だったら小一時間で捕まるだろしかもまゆりや助手の前で。しっかりしろ俺、常識的に考えろ。クールになるんだ。クール、クール、クール……!!
「でもあたしのカレシとかマジひどいし。あたしいるのに新人の女の子とばっかり喋ってるし。友だちの好きな子に手を出すし、可愛かったら男でもいいみたいだし、それに友だちに無理やりキスしたりとかほんと信じられない!」「ひどくないその野獣? つきあうのやめなよー」
知らんわ!! 正直そんなのどうでもいいだろ!! 頼む。早くここから出ていけーーーーーー!! 脳内で絶叫する俺。もちろん口に出した瞬間に全てが終わるってわかってはいる。コンクリートのこの小部屋では小さな音でもひどく響きそうで、HENTAIからのHENTAI呼ばわりを覚悟の上でダルに救援のメールを送ることもできない。というか今ここで携帯が急に鳴りだしたら俺のなけなしの精神力は確実に霧散するというのにリーディングシュタイナーが届きかねないので電源を切ることもできない、というかさっきから緊張と困惑で小指一本動かせないままなんです。脂汗が垂れる。蠅が俺にたかる。振り払うこともできない。
この世界線は俺を社会的か精神的に殺しに来ている。かなり本気で。
作品名:混迷疑心のコンパートメント 作家名:Rowen