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【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城編2-3

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あなたの祈る声が聞こえた・・・・・。」

「タンネンベルクでの戦いのおりの騎士たちを、思われておられたでしょう・・・・。
あなたの「声」は突然、その場にいた騎士団、「全員」に聞こえました。」

「・・・・・・・・・俺の・・・・・・。」

「あなたの苦しみ、嘆き、仲間への思い・・・・・。もはや、どれほど反対派が言い逃れようと、我らとあなたは「祈り」でつながっているのです。」

「あなた様は祈っておられた・・・・。何度も何度も・・・・。鮮明に聞こえてきて、こちらの司教たちがミサをあげるのに、困ったくらいですよ。」

「声をあげて祈られた・・・・・。仲間への思い、助けられなかった無念。そして、彼らの冥福を今もずっと祈っておられる。」

「いま、あなた様は、この城で修復作業をなさっているとお聞きしました。
我らは神の声を、皆に伝えるために存在しております。
神はどのような罪をも許されるはず・・・。祈りをささげ、過去を悔い、神へと信仰をささげるものは皆、我らの兄弟。」

「あなた様の剣をここにお持ちいたしました。かのクロンベルク大司教があなた様にお返ししたはずのもの。」

「あなた様はこの剣すら、我らにお返しになられた・・・・。ご自身が消えようとなさっているとスペイン殿からお聞き申した。」
「なぜ、消えようとなさるのか?」

ギルベルトに、ひざまづいた全員から視線を浴びせられる。

「俺が・・・・消えちまうのは・・・・俺にも理由がわからねえ・・・。
ただ・・・今はもう・・・こいつも・・・ドイツも一人でやっていける・・・。
バッセンハイムも亡くなった・・・いい潮時なんじゃねえかって・・・・思ったんだ・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そしたらよ・・・。自分の体が溶けていくみたいになったんだ・・・・。
俺は・・・「国」が消えていくところに立ち会ったことがある・・・。
あいつらは空気に・・・・・・・空に溶けて消えていった・・・。
あんな終わり方も・・いいんじゃねえかって・・・思ったんだ・・・。」

「あなた様の意志が、そう望むのなら、我らにはお止め出来ない。しかし、それを良しとはいたしませんよ。
もう、あなた様は正式に我らのもの。
我らの具現。我らの象徴。」

「俺の意志とお前たちと、どっちが強いっていうんだ?」

ギルベルトが顔を皮肉っぽくゆがめる。

「消えずにいてほしい、と願うものが、我ら以外にもおりますよ。」

「・・・・誰だ?」

「あなた様の弟、親族、友人、かの大王陛下・・・・・そして・・・・ケーニヒスベルク。」

「ケーニヒスベルク?」

「ええ。先日フランス殿があちらで「声」を拾っておいでになりました。
それを我らにお伝えいただいた。」
「ちょっと待て。どうしてフランスがかかわってんだ?それに・・・ケーニヒスベルクって・・。」

「今はカリーニングラードですか。あそこの住民が、街の名を元のケーニヒスベルクに戻したがっているのをご存じですか?」

ギルベルトの体が震えだした。
このマリエンブルクの城と同じように、長らく自分の「土地」だったケーニヒスベルク。

「ロシア領となって一時、荒れましたが、あそこは今、ヨーロッパへのスラブの窓口となっておりましてな。
住んでいるのは、あなたがいたころの住人ではありませんが・・・それでも、戻ろうとしているのです。ケーニヒスベルクに。」

青年が言う。
「私は先日、ケ―二ヒスベルクへ行ってまいりました。年取ったものから、昔を知らない若者までが、あの街を「ケーニヒ」と呼んでおりましたよ。
あなた様の記憶は、あの土地に刻まれているのです。」

「・・・・ケーニ・・・ヒ・・・・・・・。」

川沿いの美しい街。
このマリエンブルクを追い出された後、ずっといた街。
ロシアとの激戦のさなか、廃墟となった懐かしい街。

「あなた様はたぶん、土地には縛られてはいないのでしょう・・・。
それでも、過去からあなた様の記憶をその土地が呼び起こして、住人に伝えておるのです。」

「そんな・・・そんなことがあるのか?」

「例がございます。スペイン殿が聖ヨハネ騎士団にお聞きしてきてくださった。」
「スペインが?ヨハネ騎士団・・・パオロに何を聞いてきた?」

「ロードスの島は、今もヨハネ騎士団・パオロ殿を呼ぶそうです。
ヨハネ騎士団の本拠地でしたな。ロードスの島は。」

「ああ・・・・スレイマンに追い出されるまで、パオロの土地だった。」

「修道騎士団の基本は祈り。そして、戦闘集団としての武勲。神の声の伝道です。

修道騎士団として、今も残っておられるのは、あなた様とパオロ殿の二人だけ。
あなた方は、土地とのつながりはたぶん、ドイツ殿やポーランド殿たちとは違うのでしょう。私はそれが祈りの場、ではないかと考えております。」

「祈りの場・・・・・。ロードスにも、ケーニヒスベルクにも、当時の教会や修道院が残っております。そして、そこで今も人々は祈っている。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「人々が祈るとき、あなた方の過去の声を聞くのではないでしょうか?
わたしはケーニヒスベルクの教会で、ある声を聞きました。
微かではありましたが。」

「祈り・・・・神にささげる祈り・・・人々に捧げる祈り・・・・。
それらは我らをつなぐもの。」
「そう・・・・ヨハネ騎士団殿はおっしゃっておりましたそうです。

『我が祈りは騎士団の皆には聞こえない。しかし、我には皆の祈りの声が聞こえる。
我はそれゆえに皆に信頼される。』

ギルベルト殿には皆の祈りの声は聞こえない。
だが、ギルベルト殿。あなた様の祈りは皆へと届く。
『それゆえに、ギルベルトは、皆に愛されるのだ』と。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

(そうか・・・・兄さんの心はいつも騎士団の皆に伝わっているから・・・・。
あれだけ、騎士たちは、みんな兄さんのために・・・・・。)

ルートヴィッヒはらせん階段に刻まれた遺書を思い出す。
だれもが、ギルベルトを愛し、彼のために散っていった。

「剣をお取りください。ギルベルト殿。そして、我らの元へ、御戻りくださいますか?」

「・・・・・・・俺は・・・・・。」

ギルベルトは逡巡する。

「わたしの顔に見覚えはございませんか?わたしはバッセンハイムとクロンベルク、両方の子孫です。」

青年が言った。

「我が祖先、ヨーハン・クロンベルクは、予言を残しました。
現在の騎士団に向けて。今日、開けるようにと指示した封印書にて。
今、彼ギルベルト・バイルシュミットをここで永遠に失うか、それとも、彼を受け入れ、新たなる道へといざなうか。
その選択によって、騎士団はあるものを失い、あるものを得る、と。」

「痛烈な脅しでしたよ。あの文面を見るかぎり・・・・。」

くすりと騎士たちが笑う。

「剣をお取りください。我らは決断いたしました。
あなた様を受け入れ、あなた様の過去をすべて受け入れ、我らが長年の不和のすべてを受け入れ、あなた様の祈りを受け入れる、と。」

「バイルシュミット卿。どうぞ、ご決断を。」

ギルベルトはルートヴィッヒを見つめる。