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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル8



 お互いに、目の前の茶を一口飲み、落ち着いたところで、如月翡翠は壬生紅葉にA4サイズの封筒を差し出した。
「調査は終わっていないが、飛水の方で人をつけた。鬼道衆がらみとなれば、副業の一部(こじんてきなはなし)とは言えないからな。連絡先もある。僕ももう少し動いてみるが、基本的には飛水(そちら)の方が主だと思って欲しい」
「ありがとうございます」
 壬生は、封筒を開いた。中には、数枚の上質紙が入っている。
「流出の経路はまだ不明だが、鬼道書そのものは、現在、龍蔵院が保管している。――君たちにしてみれば、一安心というところか」
「そうですね」
 如月の言葉を聞きながら、壬生はざっと書類に目を通した。さすがに、一週間では、鬼道書と、中心人物の名前以外は、さして見るべきところはない。
「骨董屋(ぼく)としては、鬼道書(かれら)が望む主を得ていないというのは、いささか可哀想な気がするが……」
「江戸(ここ)の安寧を目的とするならば、龍蔵院の預かりとなったことは、望ましいことではありませんか?」
「――そうだな。しかし、思ったよりも大きな事件だったようだ。知らなかったというは、いささか恥ずかしく思うよ」
「宿星などとは言いたくありませんが。僕たちは、呼ばれていなかった、と」
「そういうことだろうな、恐らく」
 如月は目を細めた。
「しかし、よく一週間で行方を抑えましたね」
「龍蔵院の預かりになっていたからな。本当に行方不明なら、飛水で人をつけるが精一杯だっただろう」
 壬生の言葉に、如月は肩をすくめる。もう一度礼の言葉を口にし、壬生は書類をしまいこんだ。
「ところで、京也さんの方は? 久しぶりに会えるかと思っていたのですが」
「ああ、金曜日にやってきて、とんぼ返りだ。――何をしにきたのやら」
 如月は苦笑めいた笑いを漏らした。その様子を見守り、壬生は微かに目を細める。
「プリクラの交換など、初めてだよ。もっとも、僕のは京也のお手製のもどきだが」
「……何をしにきたんですか? 本当に」
 額を抑えて壬生は言った。
「車の中では、アダルト分を補給しに来たとか言ってたが」
「どこがアダルトなんですか」
「京也に聞いてくれ」
「やめておきます」
「大喜びで説明してくれると思うが、不満かい?」
「半分が愛情で出来ている薬を用意してから、挑戦してみましょう」
 壬生の大げさなため息に、如月は楽しそうに笑った。
「まぁ、元気そうで安心したよ」
「――本当に」
 封筒を傍らに置き、壬生は頷いた。そして、一旦言葉を切ってから、ゆっくりと話を続ける。
「天香は――いまあそこにあるのが不思議なほどの危険な場所です」
「ほぅ?」
「あれから、もう少し調べてみました。あそこは――僕たちが、京也さんを中心に右往左往していた頃には、すでに崩壊の兆候があったようです。年々結界は強くなり、外部からの侵入は拒まれ、内部からの脱出の意欲は削られる」
 壬生は目を伏せた。そして、首を左右に振る。
「地価が、落ちているのですよ。同じ沿線、同じ最寄り駅。天香周辺以外は、新宿区らしく高水準の価値を保っているのに。新しい建物を作ろうとしない。いまひとつ、店舗が進出しない。便利のいいアパートなのに、どうも部屋が埋まらない」
「天香の学生数は、確か300人程度か。まぁ、全寮制という話だからな」
「それが定員です。ぎりぎりまで、まるで図ったように。確かに、全寮制の徹底した学力強化というのは、一部には魅力でしょう。特に、現在、問題を抱えている生徒には。暴力傾向、登校拒否、いじめ、いくらでもいる」
「金を積んで入学できると陰口を叩かれる程度には、入りやすい学校らしいな」
「それにしたって、それなりの足切りや、再募集がかかったっておかしくない。学校説明会も、入学試験も、なきに等しいのに。ほぼ定員どおりの応募が、確実にあるのです。特にここ数年は」
 そこまで言うと、壬生は自分の前の茶に手を伸ばした。
「《生徒会》による行き過ぎた自治。頻発する行方不明者。そして、それらに対する追及の甘さ。行方不明になった分を埋めるかのような転校生の数。他にもあります。京也さんがペーパー試験で編入できないような成績をとることはないでしょう。しかし、ロゼッタ協会がどれだけの書類を偽造したかはしりませんが……ずいぶんあっさりと編入できたとは思いませんか? 入学者の素性などというものは、そもそも気にしていないという仮説はいかがでしょう。なぜなら、あそこには、招かれたものだけが引き寄せられるのだから」
 一息に並べ立て、壬生は手にした茶を飲み干した。彼にしては珍しいほどに、滑らかかつ長い弁舌を、如月は黙って聞いていた。言葉こそ発せられない。だが、目に宿る光が徐々にきつくなっていった。
「京也さんのことは憶測です。ですが、それ以外だけでも十分に異常です。一年に何人も行方不明者が出ているくせに、マスコミの追求も、当局の手入れもない。さらには、そんな学校に入学、転入させようという親御さんがひきもきらない。それも、全国から。全寮制というのはともかく、名前が書ければ入学できる高校なんて、全国津々浦々存在します」
 一旦言葉を切り、壬生はまっすぐに如月を見た。
「――これは、他言無用に願いますが――すでに、M+M(エムツー)機関のエージェントは天香学園に潜入しています。それも、一人ではなく、二人が」
「M+M(エムツー)機関のエージェントは、ペアで仕事に当たるのではないのか?」
「潜入調査を行うのは、一人です。ペアを組んでいる時は、外部から援助する。二人が潜入しているということは、援助を行っているのは恐らく二人ではない」
「――急げということか」
「はい」
 はっきりと、壬生は頷いた。
「京也さんは、危険です」
「京也「が」危険だとは言ってくれないのだな」
 如月は目を細めた。寂しげとも見える笑みから、壬生は目をそらした。
「……はい」
 だが、一拍おきながらも、はっきりとした肯定を返す。
「そうか」
 暫し、如月は目を閉じた。そして、ゆっくりと息を吐く。
「――今更、京也を中から引っ張り出して、ことが済むと思うか?」
「憶測は口にできません」
「そうだな。僕たちは、京也から実は大した情報を得ていない。ただ、元気に二度目の高校生活を謳歌している、と。友人ができた、と。それだけじゃあ、情報にはならない。修羅場をくぐってきた自分の感覚に、ヤバいなと響いた。その響いた何かは今どうなっている? 何より――なぜ京也は天香に残った? たった四文字。ヤバいな。それは一体」
 如月は目を開いた。そして、じっと壬生を見、しばらくしてから、頭を下げた。
「感謝する。しかし、こうなってくると、金曜に京也が戻ってしまったのは惜しいな。とりあえず、メールのやりとりは今まで通りとして――ロゼッタ協会に確かめ、埒が明かないようなら、秋月の力を借りる。飛水も動かそう。動かせるはずだ。混沌の龍が再臨、世界を食い尽くす可能性があるとなれば、根拠は十分だ」
「感謝など。僕もまた、細かなことは違っても、世界の安定を望む組織の……いえ」