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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル11



 どこからともなく、部屋に鳥が現れた。
 場所は、港区にあるマンションの最上階。持ち主は村雨祇孔。
 季節柄、そして場所柄、窓が開け放たれているわけもなく、鳥(そんなもの)が侵入してくるような場所ではない。
 鳥(それ)は、家主(むらさめ)の目の前で数度回ると、炎と化し、姿を消した。大きな机の上に、一塊の白い灰だけが残る。
 つぎの瞬間、もういちど電話が鳴った。
「なんだか、随分騒がしいじゃねぇか」
 村雨は、開口一番、受話器に向かってそう言い放った。相手は、ほんの五分ほど前に、話の途中で電話を切ってしまった如月翡翠だ。
 受話器の向こうの落ち着いた声が伝える状況に、目を見開く。
「――何だって?」
「《秘宝の夜明け》(レリックドーン)に天香学園が制圧されつつある。夕刻とはいえ、堂々とヘリを下ろして、正門からは装甲車だ。ヘリは運搬用で一機。車の方は今のところ一台。僕は予定通り、中に入って京也と接触する」
 如月は、淡々と繰り返した。
「やってくれるじゃねぇか。ああ、連中はこっちでなんとかする」
「頼んだ」
 すぐにでも、回線が切断されるかと思いきや、しばらくの間があった。そして、彼(きさらぎ)にしては珍しいほどの、戸惑いを含んだ声が、受話器から吐き出される。
「……守ってやってくれ、その――《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の連中を」
「何だそりゃ。おい、待て如月! ――ちっ!」
 意味不明の言葉を残して切れた受話器を睨む。
 受話器をもどし、机の上で待機している「紙」に目線を移した。
「物騒な同窓会だな、随分。んで、俺にどこの誰を殴って来いって?」
 その背に、半ば面白がるような声がかけられた。
 村雨は、肩の力を抜くと、苦笑まじりの吐息を吐き、振り返った。
「ったく、チャリ弁償しろよ。ねーちゃん(ゴジラ)に折檻されンだぞ」
 木刀で、軽く肩を叩きながら、隣室から青年が顔を出す。
「ああ、カタログを山程届けてやる。コレが終わったら、な。芙蓉、聞こえるか」
 紙が一枚、ふらふらと妙な動きを見せた。
「聞こえています」
 どこからともなく、硬い女性声が響いた。
 木刀を持った青年――蓬莱寺京一――は、ほんの一瞬目を見開き、口中でなにやら呟いた。
「《秘宝の夜明け》(レリックドーン)が天香に手を出してきやがった。飛水のと協力して、まわりをふさぐ。逃がすな。それと、こっちに迎えに来い」
「――」
「俺じゃねぇ。蓬莱寺だ。今からちんたら電車に乗ってちゃ、まにあわねぇだろうが」
「分かりました。すぐに」
 次の瞬間、部屋の空間が揺れる。
 そして、着物に似た「衣装」の女性が、彼らの前に現れた。姿が安定すると、ゆっくりと目を開く。
 その様子に、京一は小さく口笛を吹いた。
「相変わらず美人じゃん、芙蓉チャン。ひさしぶり」
「お元気そうで何よりです、蓬莱寺様」
「要領はおぼえてるな? 高等学校にヘリと装甲車を乗りつけた連中がいる。中の生徒が人質になる前に、出来れば叩いてくれ。今んトコ、一機一台。増援がこなきゃあ、何ほどの相手でもねェだろう。が、増援がないとも思えん。ヤバいようなら、手が空いた飛水から人を回す」
 京一に向かって手を差し伸べる芙蓉に、村雨は小さく頷いた。そして、手早く京一に向かって指示を伝える。
「人使い荒ぇなぁ」
「若旦那よかマシだろ。ああ、その若旦那だが、妙なことを言ってた。《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の連中「を」守って「やれ」、とさ」
「ハァ? 焦ってて言い間違えたんじゃネェの?」
「アレがか?」
 村雨の言葉に、京一はそれもそうかと頭を振る。
「じゃあ、なんだっつーんだよ」
「しるか。切れちまった」
「村雨。蓬莱寺様」
 芙蓉の声に、二人は我に返り肩をすくめる。
「行きゃわかんだろ。ホントにヤバい話なら、如月のことだ。こんな言い方はしねぇ。ああ、コレ持ってけ」
「ん?」
 ボタン電池のような物をなげられ、京一は反射的に受け取り、眉を寄せた。ひっくり返してみると、裏側には、ピンがついている。
「何だ?」
「小型マイクだ。こっちで受けてるから、状況を知らせてくれ。ガッコの中だ。その辺のガキからカツアゲすりゃ電話は使えんだろ。若旦那と合流すりゃ、式が使える」
「分かった」
 頷くと、注意深く、シャツの襟の裏に取り付けた。
「じゃあ、気をつけて行ってこい。帰ってきたら、ガクラン姿のセンセイを肴に、新年会だ」
「いいねぇ。んじゃ、いっちょいかせてもらうとすっか、ヨロシク芙蓉ちゃん」
 やっとこさ手をとる京一に、芙蓉の片眉がはねあがりかける。
 まぁまぁと宥める仕草で怒りを煽る村雨に、冷たい一瞥をなげてから、目を伏せた。
 来た時と同じように空間が揺れ、二人が消える。
 にやにやと例の笑みで二人を見送っていた村雨は、それを確かめると、大きく息を吸った。
「隠密行動のはずだったんだがな。――さて、こっちも始めるとするか」
 小さくぼやいてから、電話機を手に取る。そして、一番上の短縮ダイヤルを押した。
「《秘宝の夜明け》(レリックドーン)。平和ボケを必死で維持してきた日本の首都で、なめた真似をしやがって。帰るところがなくなって(ホームレスになって)から後悔するがいい」
 数度の呼び出し音の後の応答。その相手に指示を伝える口調は、単調でかつ威圧感を感じさせるものだった。