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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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 童子が運び込んだ二人を見、村雨は呟いた。二人とも、受身も取らずに翻弄されたと見え、そこかしこから血を流しながら、ぐったりと床に横たわっている。
「僕は見ていない」
「――行くしか、ねぇかな」
 場には相応しくないほどの感情のこもった声だった。明らかに、そんなことはないと否定されることを求めた声色だった。
 如月は答えない。ただ、彼のてのひらに、魔法のように数本の苦無が現れた。
 村雨は、ジャケットのポケットから古びた花札を引き出した。
 ひょいと、一枚取り出して投げた。不自然なほどに、緩やかな軌道を描いた。続いてもう一枚、後を追わせる。続けざまに、選んだ様子もなく次の札を放つ。異変が起きたのは、その次だった。
 黄龍の黄金の光。それより少し赤みが強い、淡いオレンジ色の十二神将の光。
 さらに、赤。
 ゆらゆらと空中を漂っていた花札は、四枚が並ぶと、どこか怪しげな赤っぽい光を発した。繁華街のネオンを思わせるそれは、京也を包み込もうとするかのように漂う。
 咆哮が響いた。
 京也が叫んでいるように見えた。だが、人の声ではない。
 花札を追い、如月が飛び出す。
 あっさりと、花札は黄金の光に蹴散らされた。ごく当たり前の紙の動きで、ぱらぱらと床に落ちる。あるものは、亀裂に落ち込み、あるものはその後から降ってきた岩に潰される。微かな苦鳴が響いた。
 如月は苦無を放った。
 一本、二本、三本。次々と、京也に届く前に、錆びて崩れ落ちる。まるで、フィルムを早回しにしたかのような変化だった。
 とはいえ、後から放ったものほど、朽ちる位置は確実に京也に近い。
 最後は、如月本人だった。袖口に仕込んだテグスを引き出し、京也の背後にまわる。その動きに、京也はついていけない。
 細い糸が、首に食い込んだ。そのまま、素早く背中合わせに向きを変える。
 そこまでだった。
 金の光が濃くなる。玄室を照らす黄金の光が、龍の形をとり、空中から生意気な人間を睨む。
 かっと開いた口の中までもが、金色だった。
 淡く背後を透けさせるそれは、そのまま如月に向かって襲いかかる。如月は、あっさりとテグスを放すと退いた。
 次の瞬間、たて揺れが変わる。
 遺跡が崩落しはじめる。揺れに耐えかねたのではないだろう。地中のみではなく、墓全体を標的(ターゲット)とした破壊に変化したために違いない。
「戻れ、如月」
 言われずとも、いける場所はそこしかない。襲い来る京也の拳を避けながら、如月は下がる。亀裂を飛び越えるついでに、牽制の苦無を京也の足元に放つ。
 さすがに、足の上で、苦無が滑る。本来ならば、容赦なく足の甲を床に縫いとめるつもりだったのだろう。それはうまくいかなかったが、本来の目的の数パーセントは達成された。
 京也の足が止まる。
 如月が、十二神将の領域(エリア)に入るか入らないうちに、再度咆哮が響き渡った。
 大量の土砂と石塊が、どしゃぶりの雨のように降り注ぎ始めた。


 瑞麗に小さく頭を下げると、壬生紅葉は《墓》に降りた。
 懐中電灯を使うまでもなく、様子がおかしいことはわかった。大広間の中央で、何かが光を放っている。
 足元に揺れを感じた。
 大広間中央の黄金の光は《墓》へのロープを降りるわずかな間にも強さを増し、揺れはそれに伴うかのように、大きくなっていく。
 渡された懐中電灯をつけながら、壬生はまっすぐに部屋の中央に向かった。
 中央には、大きな穴がある。破壊音らしきものが、微かに聞こえた。
 壬生は、懐中電灯を広間の奥に向けた。人の気配があったためだ。
 瓦礫とも階段ともつかない石の段を、少女が不安定な足取りで降りてきていた。
 あと十段ほどのところで、人工の光に照らされた少女は足を止めた。天香学園の制服姿の少女だった。
「――白岐幽花さん? 道があるんだね」
 先ほど瑞麗から聞いた名前を口にする。肯定の返事に、壬生は白岐のもとに向かう。白岐は無言で、自らが上がってきた場所へと、踵を返そうとした。
 壬生が白岐に追いつこうとした瞬間、今までとは桁違いの揺れが、大広間を襲う。
 微かに表情を歪めるとほんの少しの距離をつめ、壬生は白岐を抱き寄せた。少女の小柄な身体をコートの下に庇い、辺りを懐中電灯で照らす。
 確かめるまでもない。部屋の中央だった。
 穴と等しい太さを持つ黄金の龍が、天へと昇る。
 姿をあらわしたところで、それは動きを止めた。
 身体の向こうが淡く透けて見える。だが、触れれば切れてしまいそうな鱗も、牙も、恐ろしく精巧で、確かな実体を見せていた。
 大広間を見回したかのように見えた龍は、次の瞬間、そのまま上へと昇った。
 壬生は、白岐をかばって段上で伏せた。
 破壊音とともに、天井が突き破られる。
 案外、土砂や何かは降ってこなかった。上昇する龍が作る気流が、それらを巻き上げているのだろう。
「――行く必要は、ないみたいだね」
 壬生は小さく呟いた。そして、白岐を促して立たせると、彼女を庇いながら段を降りる。
「外に出るのとどちらが安全か――っ!」
 小さく呟く目の前で、龍が戻ってくる。
 先ほどとは別の場所に亀裂をつくり、床の穴を無視して地下へと戻る。容赦ない破壊に、壬生は表情を歪めた。
「降りるか――いや――」
 床の亀裂が明らかに広がっている。《墓》が何階層あるかはわからなかったが、たとえ二階建てであっても、このまま飲まれればそれなりのダメージを受けるだろう。
 降りてきたロープを見る。
 目の前で、また、龍が天へと昇る。降りてくる場所が、自らの上ならば、その場で生き埋めになりそうだ。
 壬生は、白岐を抱き上げた。小さな悲鳴と驚きの気配に頓着せず、そのまま「龍が既に破壊を終えた場所」へと走る。
 予想は正しかった。先ほどまでいたあたりに、龍が巨大な牙をむき、襲いかかっている。
 床が崩れる。当然だ。龍が通った場所に、必ずしもその大きさの穴が開くわけではない。だが、相応の破壊はもたらされている。支えるものが無ければ、崩落は当然の成り行きだ。
 またもや、龍が昇る。
 選択を失敗したらしい。昇ってきたのは、彼らがいる真下からだった。
 常識外れの上昇気流が、彼らを巻き込んで吹き上がる。今までにも増した強さだった。
 白岐を抱いて、壬生は目を細めた。
 強かった理由が分かった。
 今度の龍は、内部に一人の人間を抱いていた。
 汀京也だった。


 吹き上がった上昇気流は、墓の外では瞬く間に勢いを弱めた。
 誰のものとも分からない墓石の上に降り立ち、壬生は小さく息を吐いた。
「こっちや!」
 弦月の声に、確かめもせずに走り出す。足元には、巨大な空洞があるのだ。どこが崩れてもおかしくはない。
 具現化した黄龍――いや、制御を失った混沌の龍に抱かれ、おそらくは最下層から一瞬にして地表に姿をあらわした京也はひとまずおいておく。白岐をかかえたままでは、どうしようもなかった。
 学園の寮側に、生徒会役員たちがひとかたまりになっていた。瑞麗の手腕だろう。
 彼らの前で白岐を下ろすと、彼らは少女を取り囲み、口々に彼女を気遣う言葉をかけはじめた。
「状況は?」
「姉ちゃんがいれば、こっちは平気やろ」