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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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「ここでは近すぎる。もっと離れろ」
 生徒会役員たちに言い放つと、反応を聞かずに飛び出す。
 その後を、青竜刀を背負った弦月が追った。
 京也は、うずくまっていた。我が身を抱きしめるかのようなその姿の足元は、どう見てもただの空洞だ。代わりに、彼を抱く黄金の龍が辺りを睥睨していた。
 無言のまま、壬生は走る速度を上げた。
 目線すらあげようとしない京也に向かって走る。もし卒塔婆の立つ日本情緒あふれる墓地ならば、障害物が山ほどあっただろう。だが、ここは西洋式の墓地で、墓石の丈は低い。
 いうなれば罰当たり。壬生は、次々と墓石を踏んで京也に向かって走った。
 あと、一メートル。
「右」
 背後からの声に従い、右へ飛ぶ。
 壬生がいた場所を、無形の力が通り抜けた。壬生を隠れ蓑にした弦月渾身の一撃だ。間合い的にも、避けられる代物ではない。
 京也は動かない。現れた時と変わらぬ姿で、うずくまっている。
 だが。
「――冗談――」
 背中に弦月の声を聞いた。
 無形の力は、何事も無かったかのように霧散していた。
 壬生は、京也に向かって踏み込んだ。低い気合の声とともに、剄力を乗せた鋭い蹴りを放つ。狙いは、最初から頭部だ。
 だが。
 当たる直前、数ミリ秒が分の単位にまで引き伸ばされたかのような特殊な状況下で、小さな悪寒が背を走った。
 一撃を収めることはできない。だが、勢いを殺し方向を微妙に変えるだけならば。
 その判断が、彼の足を救った。
「――っ」
 まともに決まっていたならば、蹴りに乗せたエネルギー全てを自分の足に受けていただろう。
 無理な重心の移動に、微妙に姿勢を崩しながら、壬生は京也を睨んだ。
 京也は顔をあげた。ゆっくりと、漆黒の瞳が壬生を捕えた。
 壬生は奥歯を食いしばった。
「……京也さん」
 小さく、呟いた。だが、動きは素早かった。
 相手と自分のダメージを確かめず、後ろに下がる。
「あかん!」
 弦月の声に、また、確かめもせずに傍らの墓石に乗る。その横を、黄金の龍の顎が通り抜ける。
 地割れを作りながら、龍は地中へと姿を消した。
 足の底が、地中の不吉な動きを伝えてくる。
 墓石を蹴って、飛ぶ。
 瞬間、壬生のいた場所が陥没する。
「地の利が――悪すぎる――」
 京也が立ち上がった。
 そして、ゆっくりと壬生に向かって歩いてくる。
「おまけに……」
 黄金の光が、彼を抱き輝いていた。
「力でも駄目、気でも駄目――」
「さすがは混沌の龍、なんて余裕かましてる場合ちゃうなぁ」
 足元の感触を確かめながら後退する壬生の背後で、弦月が言った。その弦月もまた、青竜刀をかまえ、攻めあぐねている。
「……」
 壬生は、コートのポケットから、太い針を取り出した。
「援護してください」
 短い言葉に、弦月は服のポケットから何枚もの符を取り出した。
 二人は、ゆっくりと下がりながら、機会を窺う。もちろん、下がる方向は、学生たちがいる場所とは逆側だ。
「3、2……」
 ゆっくりと、壬生は数をカウントする。青竜刀を収めた弦月が、両の手に符を構えている。
 壬生のゼロカウントとともに、弦月は持っていた符全てを、京也に向かって放つ。
 その影に隠れるようにして、壬生は京也に向かって飛び出した。
 京也が構える。まるでシロウトの構えだった。
 地中に姿を消していた黄金の龍が飛び出してくる。
 それだけで、弦月の符は半分以上吹き飛んだ。
 黄金の龍と京也の拳を避け、壬生は京也の背後にまわる。そして、躊躇無く、首筋に針をつきたてた。十分に気のこもったそれは、当たり前の人間に対するかのように、ずぶずぶと彼のぼんのくぼに沈む。
 さらに気を込める。細い針を通し、出来うる限りの破壊の気を内部に流し込む。
 人間ならば、針を刺された時点で、悲鳴を上げることもなく絶命していただろう。たとえば鬼であっても、ここまでピンポイントに急所に対して破壊の気を流し込まれれば、簡単に絶命する。
 だが、京也はそうはならなかった。
 それでも、初めての苦鳴が喉からもれる。人と言うよりは獣じみたそれに、壬生は針を握る力を強めた。
 次の瞬間、針が朽ちる。壬生のてのひらの中にある分を残し、ボロボロと針が崩れた。
「――っ!」
 そのことを確認するまもなく、京也の拳が壬生の腹にめりこむ。構えや体勢は最低だった。だが、速度や強さ、そして《力》は、おそろしく強かった。
 誰のものとも知れぬ墓石にぶちあたり、呼吸が止まる。陥没していない場所だったのは幸運だった。
 京也が追ってくる。
 痛みを振り払い、素早く体勢を整えた。
 その目の前で、水が弾けた。
 京也の背後から襲いかかってきたそれは、京也に遮られ、地面に落ちる。京也は気にする様子も見せず、構えをなぞった。狙っている標的(ターゲット)は、壬生だ。背後の新しい敵ではない。
 壬生は構えを解き、走り出した。
「――遅ぇぞ」
「その言葉そのままお返ししますよ」
 《墓》から、村雨と如月が姿をあらわしていた。各々がぐったりとした青年を抱え、陥没した地面の近くで、足場を探っている。降りる時に使ったロープなどあとかたもない。村雨にまとわりついている童子の能力だろう。
 花札が放たれる。支えもなしに宙に浮いたそれは、京也に向かって白光を浴びせかけた。
 京也が片腕を振る。光が散らされる。花札が舞う。
「けが人を!」
 壬生は、近くにいるだろう弦月に向かって、村雨と如月を示した。その間にも、京也を迂回し、彼らの元に走る。
 村雨は、童子に指示を出した。近くまで来た弦月のもとに、けが人二人をぶらさげた童子が飛ぶ。注意を逸らさせるかのように、如月が忍刀をかまえ、京也に向かって踏み出す。
 弦月は一旦足を止め、京也に向かって青竜刀を構える。その背後に、童子が入る。
「――いけますね?」
 村雨の傍らに立ち、壬生は尋ねた。
 視界の中、緩慢な動作で京也が彼らを見る。
「へっ。俺を誰だと思っていやがる」
「デスクワークで腹の出始めた中間管理職」
 戻ってきて刀を納めた如月が、にべもなく言い放った。
「おい」
 村雨の文句に頓着せず、壬生は京也に向かって構えた。
「お二人の力、お借りします。――久しぶりに」
「ああ」
 目を伏せ、静かに如月は頷いた。てのひらが、丁寧な動作で、印を刻み始める。
「いつでも来やがれ」
 村雨は、花札を一枚引き出した。
「北の将、黒帝水龍印」
 最後の印とともに、如月の目が見開かれた。
「南の将、赤帝火龍符」
 村雨が次々と放つ花札が、三人の前に順に並び、円を形作る。
 弦月が放ったらしい光の技が、京也の背で散った。
 壬生が飛び出す。彼の長身に、水の気と花札がまとわりつく。寸分の狂いもなく等分なそれは、互いを打ち消すことなく、自らの存在を主張する。
「今ひとたび相克の理を違え、我が忠義のもと相応となす!」
 壬生の足が一瞬のための後、しなる。今度は、完全に手加減無しだった。角度速度ともに、最適な状態で、京也の身体に襲いかかる。
「紫龍黎光方陣!」
 京也は何の表情も示さなかった。
 黒帝水龍と赤帝火龍。理を違え、普段の相性の悪さすら触媒に、どこまでも増幅していく力。