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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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「確かにアンタは、自覚のある黄龍の器としては、類を見ないほどに脆弱だろう。だが、その、現代人らしい世界征服だの何だのに一片の関心もよせない姿勢は、悪くない。実際、この複雑に肥大した現代社会において、龍脈の力だけで世界征服が出来りゃあ安いもんだ。核ミサイルが防げたとして、その後、どうする? 手足として使う人がいなけりゃ、酒池肉林も不可能。放射能汚染された土壌になった食い物はさぞや美味いだろうぜ? アンタはそれを知っている」
 一度、京也の背を撫でると、村雨は顔を上げた。
「そして。――そんなことはどうでもいいから、とにかくぶっ壊したいなんてはた迷惑なことを考えるほどには狂ってない。どうせなら、他人を支配し続けるより、その場で終わる宝くじが当たる程度の幸運の方が好みだってとこか」
「いわゆる、小市民?」
 村雨の笑みを見、京也は首をひねった。
「そうとも言うな。使いこなす努力をしないことは、マイナスの評価材料であると同時に、プラスのそれでもある。何か疑問はあるか?」
 暫し、京也は考え込んだ。指先が、何か図形を描きながら、思考の手助けをする。
 ぐっと拳を作ったところで顔を上げた。
「ない」
 その問いに頷くと、村雨は京也を開放した。
「そういう見方もあり、ですか」
 疑問はないと言いつつも、村雨が告げた内容を検討しているらしい京也の様子に、口を開きかける。だが、結局は何も言わず、彼がするにまかせた。
「――んで。こうして、他人(ひと)の思惑も考えずに、やっぱりとっとと死んだ方がいいんじゃないかとか、被害をまかないだけごく潰しのが上等とか言ってる俺なわけですが」
「まだ言うかアンタは」
「これは、前置きというやつで」
「シャレになってねぇ」
「こんな俺でも、前途洋々かどうかはしんないけど、多分あるんじゃないかなーの若人を、自分から死にに行くとは何事だと殴る資格ってあるんですかねぇ」
 目をそらし、それでも限りなくいつものものに近い口調で尋ねられた言葉に、村雨は片方の眉をつりあげた。
 ちらりとその様子を窺った京也は、また、小さく口中でええとと呟く。
「なくはないんじゃねぇか? とりあえず、じゃあいっしょに練炭を買いに行こうっつーよりは、はるかにマシだろ」
「……けっこーマジな問いに、超誠意なく、どっかの児童相談員みたいにお答えしていても?」
「てめぇの気分はてめぇで解決すんだな。相手がどうかなんてのは、俺はそいつを知らないからわかるわけもない。ただ、一般的に、セオリーどおりの言葉が助けになる場合ってのは、確かにないわけじゃない。同時に、そんなのが役に立たないどころか、害悪になる場合もある。投げたのがうまくねぇと思えば、必死こいて訂正すりゃあいいさ」
「――村雨さんって、男前ですねぇ」
「おおよ。なんだったら、こっから二人で世界の高みを目指して旅立つか?」
 両手を広げ、芝居がかった仕草で言った村雨の言葉に、京也は情けなく笑った。
「どうも。ええと、ごめんなさい。それと、ありがとう」
 小声で、それでも視線を逸らすことなく言われた言葉に、村雨は笑みを浮かべた。もっとも、あいかわらず顔の上半分は、ぶあつく下ろした前髪で隠れている。
 つられたように、京也の口元にどこか繊細な笑みが漂う。いつもの、大げさなまでのカーブではなく、もっと密やかで、それでもはっきりとした笑みの表情だった。
 そして、病室の扉がノックされた。
 応えの後、私服姿の高見沢舞子が入ってくる。
「おひさしぶりぃ、ダーリン。村雨くんも」
 明るい笑みと甘い声に、二人の表情が先ほどとは違った意味で緩む。病室内の空気すら、柔らかくなり、温かみを増したような気がした。
「おいおい、俺はオマケかよ」
「ん、もう。すぐ、そういうこと言う。電話がかかってきた時は、ホントにびっくりしたんだからね。どうしたの? 一体」
「ええと」
 どこから話そうかと迷う様子の京也の横から、村雨がさらりと言った。
「ああ。ガクランで暴れて、倒れたんだ」
「あ、ちょっと村雨さんそこのところは」
「なんだぁ? アンタ、堂々と高校の制服姿で新宿から北区まで来ただろうが。俺ぁてっきり気にしてないのか、はたまた羞恥プレイ趣味ができたとばっかり」
 無精ひげをさすりながらの村雨の言葉を、大慌てで京也は遮った。
「来てませんって! 学校の近くだけって……」
「校則違反だなぁ、そりゃあ」
「……ダーリンって、確か……大学院で動物の遺伝子のお勉強、してるんじゃなかったの?」
 舞子の怪訝そうな言葉に、京也の声がオクターブで高くなる。
「ああああああ、村雨。てめぇ、もう喋るな!」
「冷たいねぇ、さっきまであんなに可愛かったってのに」
「だからもう喋るなっ!」
 眉を寄せ、首をかしげる舞子の様子に、京也は両の手をふりまわした。大慌てのその様子を眺めながら、面白そうに村雨は口中で笑う。
「その、若々しいセンセイを肴に、退院祝い兼新年会なんてのを考えてるんだが、一口のるかい? とりあえず、アン時の連中全員に声をかけるつもりだが」
「え? そんなんあるんすか?」
 一応は主役らしき京也が、驚いて目を見開いた。その様子に、大きく頷き、村雨は言った。
「ああ。だから、アンタの制服もしっかりクリーニングに」
「出すな!」
「嬉しいなぁ。久しぶりだよねぇ。日付が決まったら教えてねぇ。亜里沙ちゃんとか、皆に知らせるから」
 楽しそうにてのひらを打ち合わせる舞子の様子を、京也は複雑な表情で見つめた。


 賑やかなひと時を過ごし、村雨と舞子は病室を出た。
「今、どこに住んでんだ?」
 送ると言って、村雨は傍らの舞子を見た。
 高校時代となんら変わることのない、ほやんとした笑みを浮かべ、舞子はバスで二十分ほどの住所を知らせる。
 先に呼んであった車に彼女を促して乗り込ませる。
 同じように後席に落ち着き、村雨は息を吐いた。
「おつかれさまぁ。如月くんなら、壬生くんがちょっと先に連れて帰ったよ」
「ああ。院長を呼びに行った時に聞いた。アンタもホントはシフトじゃなかったんだろ? お疲れ」
「ううん、舞子は平気。それより、どうしたの? ホント」
「まぁなぁ。結構長い話になるんだか、今から聞くかい?」
「うん。あ、でも村雨くん、疲れてるんじゃないのぉ?」
「俺ぁ平気だが、アンタこそ大丈夫か? 結構な長丁場だったろう」
 舞子の応え確認すると、村雨は運転手に行き先の変更を告げた。かしこまりましたの声に頷き、暫し目を閉じる。
「――村雨くん?」
「詳しい話は店についてからにしようや。……なぁ。一つ頼みがある」
 クッションの効いた後席に背を預け、村雨は言った。
「どうしたの?」
「あのセンセイからなるべく目を離さないでくれ」
 舞子は、大きな目を瞬かせ、首をかしげた。
「平気そうな顔はしてるんだが――いや、普段もああなのか? あんなことを考えながら。ああ全く。今更だが若旦那の気持ちが分かるぜ、クソ。あれじゃあ、過保護なママンになるのも無理はねぇ」
 ただ自らの考えを整理するためだけのような村雨の言葉に、舞子は首をかしげる。だが、聞き返すことはせずに、続く言葉を待った。