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婚約者 [黒後家蜘蛛の会二次創作]

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婚約者(2) 尋問


 ヘンリーによってコーヒーとデザートが配られ始めると、ドレイクはスプーンでグラスを打ち鳴らした。
「諸君、これからわたしのゲストへの尋問に入る。トム、尋問官を引き受けてくれるかね」
 トランブルは顰め面を作ってうなずき、ゲストに向き直ると第一の質問を発した。
「ピアスンさん、あなたは何をもってご自身の存在を正当となさいますか?」
 ピアスンは驚いた顔をしたが、ややあって答えた。「合衆国の秩序が正しく行われることを助けることによってです」
「それはどのような方法で?」
「司法制度が市民生活にとっても企業活動にとっても不可欠なことは皆さん異論がないと思います。そしてこの司法制度は、わたしのような弁護士、それに裁判官、検察官、その他の関係者が誠実に任務をこなすことによってのみその信頼が担保されるのです。この信頼がなければこの世は荒野と選ぶところがなくなってしまいます」
 トランブルはうなずいた。「十分なお答えといたします。
では次の質問ですが、最近あなたは仕事の上で音楽家と接触を持たれたことがありますか?」
 ピアスンは息を飲んで言葉に詰まった。「それは……」
 トランブルは返答を促した。「わたしがこのような質問をするのは、先ほどあなたが音楽ないし音楽家に対して何か気がかりをお持ちのような様子を見せられたからです。ジム・ドレイクから前もって話があったと思いますが、本日の晩餐の代償はこの尋問に包み隠さずお答えいただくことです。
「お話しいただくのが他聞を憚る内容であろうことも理解しますが、この部屋で話された言葉は四方の壁を越えて外部に漏れることはありません。あらかじめ申し上げておきますが、この秘密厳守の規則はわれわれの尊敬措くあたわざる給仕のヘンリーもよく心得ております。お答えいただけますか」
 なおも声を発さないピアスンに、ドレイクは肩をすくめて言った。「だから言っただろう。なにを隠していても気取られることになるって。この連中は人の隠しごとを嗅ぎ出すことだけには長けてるんだからね。しかし何があったんだ?半月前に会った時は何も話してくれなかったじゃないか」
 ピアスンは落ち込んだ様子で言った。「つい一週間前のことでね」
 ゴンザロが言った。「気づまりに思っていることがあるのならば話してしまってはいかがですか。いくらか気が楽になるかもしれませんしね」
 ピアスンは力なく首を振った。「たしかに、私は現在音楽家のために……というより、音楽関係者のために頭を悩ましております。しかし、それは仕事ではありません。家庭でのことなのですよ」
「というと?」ドレイクが首をかしげて言った。
「娘のことでね。結婚話を持って来たんだ」
「ジェニファーがかい?よかったじゃないか」
「それがね……」ピアスンは言い淀み、そのまましばらく沈黙が続いた。
「なにか不都合なことがあったということか」ドレイクはうなずいて一座を見渡した。「どうかね、これはフランクの身内の事情というやつらしい。この質問はこれで打ち切りにして、別の質問にかかってはどうかね」
「いや、それはちょっと待ってくれ」ゴンザロがすかさず言った。「尋問の内容に制限はないということはひとまず措くとしても、確かめておきたいことがある」
 ゴンザロはピアスンに向き直って言った。「わたしたちも、家庭内のことをむやみにほじくり出そうとは思っていませんよ。しかしピアスンさん、お聞きしたいのですが、お悩みの件について何か腑に落ちないことはありませんか?理解できないこと、納得できないこと……つまりはミステリ、謎です」
 ピアスンは眉を上げ、ややあって言った。「そう言われますと……たしかに娘の態度などに納得のいかないところはあるとは言えますが……」
 ゴンザロはにったり笑って周囲を見まわし、もう一度ピアスンに向き直って言った。「その悩みはもしかしたら解消して差し上げられるかもしれませんよ。よろしければお話ししていただけませんか」
 アヴァロンが手を上げ、朗々たるバリトンを響かせて厳しく遮った。「安請け合いは禁物だぞ、マリオ」
 ピアスンに顔を向けられたドレイクは肩をすくめて言った。「まあ、以前にここで人の悩み事を解決したことがあったことは事実だな。とはいえ、必ず心配を解消できるとは請け合えかねるが、君さえよければ話してほしいとは思うね」
 なおもしばし逡巡した後、ピアスンはやっと言った。
「わかりました。皆さんがどうしてもということであればお話しいたしましょう。ゴンザロさんの言うとおり、確かに私にも割り切りれないものがありますし、話せば気が楽にならないとも限りませんから。
「……すまない、ウェイターさん。ブランデーのお代わりをもらえるかね?」
「はい、ただいま」
 ヘンリーがブランデーを注ぐのを見ながらピアスンは話しはじめた。
「ジェニファー、これが私の娘ですが、結婚すると先週言い出したのです。ジェニファーは当今珍しいことではありませんが、今年30でまだ未婚です。出版社で企画をしております。仕事で取材をした折に、この相手と知り合ったらしいのです」
 ピアスンはそこで言葉を切り、ブランデーを口に含んだ。「相手はオペラハウスの副支配人で……ここでの話は外には漏れないということなので本当の名前を出しますが、ジョン・イングラムといいます。
「今年40歳で、今度が3度目の結婚になるのです。最初の奥さんとの間に1人、次の奥さんとの間に1人子供がいます。上がたしか14か15歳、下はまだ1歳になったばかりです」
 アヴァロンが深い同情をこめてうなずいた。「なるほど、それは父親としてはご心配でしょうし、不満に思うこともおありでしょうな。しかし私も子供が二人おりますが、必ずしも親がいいと思う相手と結婚してくれるとは限らないものですよ。親子とはいえ所詮は別の人間ですし、それに……」
 ピアスンは力なく片手を上げてアヴァロンを遮った。「いや、再婚だろうと子供がいようとそれは問題ないのです。まあ、そう言えば多少は嘘が混じることにはなるでしょうが、アヴァロンさんの言うとおり所詮は別の人間なのですから、本人がいいと言えば親がどうこういう問題でありません。しかしそれだけではないのです」
 そこでまた言葉を切ってからピアスンは続けた。「このイングラムという男ですが、最初の奥さんとは4年前に死別しました。そして次の奥さんとは離婚したのですが、それはたった1カ月前のことなのです」ピアスンはまた言葉を切った。
「娘とは以前に一度イングラムと交際していた時期があったらしいのですよ。その時はひどいやり方で娘と別れたらしいのです。
「1年半ほど前になりますが、娘がひどくショックを受けて、電話をしても私たちとろくに口を利かなくなったことがありました。妻が後から聞いたのですが、それは男性と別れたせいでした。そして今回わかったのですが、その別れた男というのが今回結婚しようとしているイングラムだったのです」
 ドレイクが難しい顔で言った。「一度別れた男と結婚しようということかい」
 ピアスンは無言でうなずいた。
「手ひどく振られた男と?」
 ピアスンは無言でもう一度うなずいた。