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【腐向け】西ロマSS・7本セット

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10月のパンプキンパイ


 甘い甘いパンプキンフィリングを、たっぷり詰めたパンプキンパイ。サクサクのパイ生地にとろけるフィリングが堪らない一品が、オーブンの中でじっと出番を待っている。スペインが作ったパイの完成を待ちきれず、ロマーノはオーブンの前に陣取っていた。
(喜んでくれるのは、嬉しいんやけど)
 小さい体ながら物凄く食べる子供の為に焼いた、大きめのパイ。その命も焼き上がりと共に消えるのかと、お腹を鳴らして出来上がりを待っている子分を見て思う。そんなに好きなら、もうちょっと製作者を敬ってもいいのではないのか。そうお小言を言いたくなるが、気難しいロマーノの機嫌が取れることは少なく、嬉しそうな顔を曇らせたく無い。結局スペインは溜息を飲み込み、キッチンの片付けをしながら、楽しげにぴょこぴょこ動く子分の後頭部を眺めていた。
「スペイン! まだか?!」
 いい色になったと監視者ロマーノがいち早く報告し、それを受けてスペインが確認をする。オーブンの中のパイは食欲をそそる焼き色がしっかりついており、取り出せば部屋にいい香りが広がった。
「よし、もうええで。お茶の準備、しよか?」
「おうっ!」
 瞳を輝かせて返事をする子供の頭を撫で、二人で中庭に出る。暖かい太陽の降り注ぐ場所で皿を広げ、二人だけのお茶会が始まった。今日の出来はどうだろうか。そんな事を考えながらパイを切り分けると、中のパンプキンフィリングがとろけて震えた。
「ありゃ、ちょっと緩かったみたいやな」
 口に運ぼうとすると、柔らかいフィリングがこぼれそうになる。熱々のフィリングが垂れれば、火傷するかもしれない。気をつけるようにロマーノに注意しようと顔を向けると、ロマーノの皿は既にパイが消失していた。リスのように頬一杯に頬張る姿に、なんとも言えない気分になる。
(……ええけどね)
 幸せそうにパイを食べる姿に、怒りも沸かない。こっちはこっちでのんびり食べようとパイを手に取ると、やわらかいフィリングがこぼれて指に張り付いた。
「熱っ!」
 慌てて指を振れば、指についていたフィリングがあちこちに跳ねる。
「何やってんだ」
 指を冷たいおしぼりで抑えている姿に意地悪く笑いながら、ロマーノがもうひとつのおしぼりを持って寄って来た。そのまま手を伸ばし、髪についたフィリングをふき取ってくれる。
「ありがとさん」
 そっぽを向く子分にお礼を言ったら、鼻を鳴らして答えられた。照れている真っ赤な頬が、愛らしい。その仕草に頬を緩め、頭を撫でてやる。さらに顔を赤くするものの嫌がらないのをいいことに撫で続けていると、何かに気付いたロマーノがすぐ傍にやってきた。
「!?」
 頬に触れる、柔らかい感触。濡れた暖かいものを感じ、スペインは動きを止めた。
「頬にもついてんぞ、かっこ悪ぃ〜」
 馬鹿にするように笑うロマーノの声を聞きながら、思わず頬に手をやる。たぶん、いや、きっと、頬についたフィリングを舐められたのだろう。じわじわと頬に熱が篭っていくのを感じる。
(な、な、な……! なんちゅー、可愛いことすんねん!!)
 そっけない子分は、時折図ったかのようなタイミングで心臓をわし掴みにしていく。衝動のままに興味がパイに移ったロマーノの背中を抱きしめると、スペインは耐え切れなくなった声を辺りに大きく響かせる。
「かんわええええええええええええええ!!!!」
「ちぎーっ!? 何すんだ、この変態!」
 愛しさを溢れさせたハグの返答は、いつもより力強い頭突きだった。


「……って事を、このパイを焼くと思いだすんよ」
 頬をだらしなく緩ませ、パンプキンパイを手にスペインが昔話を締める。その顔をげんなり見ながら、ロマーノは大きく溜息をついた。先ほどまで美味しく頂いていたパイが、なんだか食べたくなくなる。
「と、いう訳で」
 スペインはパイのフィリングを指に取ると、自分の頬につけた。そのまま、期待に満ちた瞳でこちらを見てくる。目の前の元親分にパイを投げつけたい衝動を、食べ物を大切にする気持ちでなんとかやり過ごした。
(これはあれか、舐めろと言うのか)
 ふざけるなという叫びを飲み込み、殺意を込めて視線を投げるが、スペインは頬を染めたまま動じない。昔も独立した後も、いつまでも子供扱いを止めない男に溜息しか出なかった。一体この男は何処まで自分を見ないのだろうか。お前がそんなんじゃ、いつまで経っても好きと告げられない。親子ごっこはもう沢山だ。
「ああ、そうかよ!」
 今まで散々無視されたアピールの数々を思い出し、怒りのままにスペインに詰め寄る。手で驚くスペインの目を塞ぐと、望みのままに顔を近づけた。
「……!?」
「じゃあな、クソヤロー」
 スペインの唇についたフィリングを舐めとり、背を向け片手を振ってその場を後にする。触れた唇が酷く熱い。泣きたい気持ちとやってやったという達成感。自分の気持ちも分からなくなって、ロマーノは早く家に帰ろうと歩調を速めた。

 少しからかうだけのつもりだった。熱をもった唇に指で触れ、テーブルの上のパイを見つめる。昔の話でからかって、それでロマーノが怒って、自分が謝る。そんないつもの流れになると思っていた。
(ああ、なんて可愛らしい)
 頬に熱が一気に上がる。たぶん今の自分は、子分以上にトマトになっているだろう。口元がどんどん緩んでいくのがわかる。今も昔も可愛い、俺のロマーノ。相変わらず見事なまでの心臓わし掴みに、もう降参するしかない。止めを刺されたスペインは席を立ち上がると走り出し、去り行くロマーノの背中に飛びついた。


END