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肩越しの月

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 四木に連れられてきた部屋は高級なホテルの一室だった。
 本来の静雄であれば足を踏み入れる機会などないだろう。
 趣味のいいインテリアの並ぶその中央に置かれた大きなベッド。
 それを見て一瞬静雄の足がすくんだ。
 四木はそんな静雄に気づかないふりをして、後ろから声をかける。

「シャワーは先がいいですか」

 それとも一緒に入りますか、からかうような声音に静雄は頬を染める。
 それから何も言わずに浴室へと向かった。
 その後ろ姿を四木は見送ると、ソファに腰掛けた。
 ここまで来て逃げられはしないだろう、だが。
 彼はなぜあの男のためにそこまでするのか。わからない。
 四木の持っている情報では解析できない『何か』が、二人の間にはあるのか。
 それがどのような感情であっても。彼にとってそれは価値のあるものなのだろう。
 この自分と、寝てしまえるほどに。
 四木はくぐもった笑いをもらした。なんでだか異常におかしかった。
 あの二人の、拗れた関係に一石を投じる自分の滑稽さにあきれたのかもしれない。
 戻ってきた静雄は無言だった。ただおとなしく、その場で立ちすくんでいる。
 四木は小さく笑いをこぼすと、ソファに座らせた。自分はそのまま静雄の背後に立つ。
 それから胸ポケットから何か錠剤を取り出すと、静雄の目の前のテーブルに置いた。

「飲みなさい」
「・・・これは」
「ヤバい薬じゃないですよ。ただの」

 媚薬です、と四木はさらりと告げた。
 静雄は訝しげな顔で四木を見あげる。
 四木は薄く笑い、静雄を後ろから抱きよせるようにしながら、耳元で囁いた。

「全部薬のせいにしてしまえばいい」
「・・・四木、さん・・・?」
「あなたが誰を思いながら抱かれてもそれは自由ってことです」

 それだけ伝えると四木は離れてゆく。
 浴室の扉が閉まる音がして、静雄はその薬を口に含んだ。
 それから、窓の外に広がる夜景を見つめる。
 心の中はぐちゃぐちゃだった。
 これから行われることへの恐怖と後悔と諦めと、それから。
 自分はどうしてここへいるのか。
 どうして自分はここまでするのか。
 そんな答えの出ない問いかけ。
 言葉にしてしまえば簡単なことだろう。けれど。

「・・・くそっ」

 それを言葉にすることはどうしてもできなかった。
 どうしても。
 それは、その言葉は、確実に『何か』を壊すものだった。
 そしてそれが壊れた後、そこに何が残るのかわからなかった。
 何も残らないのかもしれない。だから。
 どうしてもそれを言葉にすることはできなかった。
 殺したいほど嫌いな相手なのに。
 どうして自分は。
 考えてもわからない。思考がまとまらなくなってきた。
 薬とやらが効いてきたのかもしれない。
 こんな自分にも効くのか、と少しだけ自嘲気味に思った。


 粘度の高い水音と、それから嬌声と。
 耳を塞ぎたくなるような、淫猥な音の中で。
 静雄は溺れていた。
 何も考えられなかった。
 四木の渡した薬の効果は思いのほか高かったようで、静雄は何をされても堪えきれずに声を上げる。声を抑えようとしてもできないほどの強い快楽。
 人にこんな風に触れられることすら初めての静雄にとって、与えられた快楽は強すぎた。
 痛みすら気持ちいい。完全に理性のタガは外れていた。
 そんな静雄を四木は楽しげに見つめている。
 誰もが羨望する『最強』を組み敷ける昏い優越感。それから。
 静雄の身体自体も魅力的だった。
 女と比べて柔らかみには欠けるが、それでも滑らかな肌や感度の高い身体は、悪くはない。男の中では極上と言っても差し支えないかもしれない。
 均整の取れた身体は意外と細く、この身体のどこからあんな力が出るのか四木は不思議に思いながら触れた。
 その肌をほのかに赤く染め、押し殺せない声で快楽を訴える姿は扇情的ですらあった。
 一度きり、だとわかってはいた。けれどこれでは。手離すのが惜しくなってしまう。
 年甲斐もない独占欲を感じて、静雄の身体に情痕を残した。
 ルール違反だとわかってはいたけれど、そうせずにはいられなかった。
 その痕を誰にも見せなければいい。密やかにずっと残ればいい。
 静雄の意外と甘い声を聞きながら、四木は少しだけそう思う。
 つながった部分を激しく揺さぶれば、静雄はこらえきれすに身体をしならせた。
 何度中に精を放っただろう。それはあふれて、シーツにしみを作っている。
 強すぎる快感のためか、静雄は力が入らないようだった。弱々しくシーツを握りしめていた。その指を握りこんで、耳元で囁く。

「静雄」
「・・・あ、ぁ、・・・んっ・・・は、あ」
「静雄」

 背後から犯していた体制を入れ替えると、四木は静雄を強く抱きかかえる。
 その眼は自分を映してはおらず、どこか違うものを見ているようだった。
 耳元に唇を寄せ、何度も名前を呼ぶ。戯れに愛の言葉を囁くように。
 静雄はまとまらない思考と強い快楽の中でただ、四木の肩越しの月を見つめていた。
 その唇が小さく違う男の名を呟いたことに、四木は気付かないふりをした。

作品名:肩越しの月 作家名:774