虹の作り方
突然切り出した話にも動じる事無く、ただ、閉じていた瞳をうっすらと開いたシャカは夢想しているかのように、とらえどころのないまま、「それで?」と話を促すのみ。ほんの少し、迷いながらもシュラは話を続けた。
「あの時は・・・聖域での暮らしを気に入っていたし、今も気に入っている・・・はずだと思った」
「なるほど。気に入っているのならば問題ないのではないのかね」
「―――気に入っているというわけでもなく、いや・・・やはり気に入っているんだろうか」
「君にしては歯切れが悪いな・・・。迷っているのかね?それとも―――気付いたのかね?」
静かに響く声が胸に降ってくるような感覚。
「気付いた・・・?」
「そう。真実の君の声に。無数にあった道標を・・・分岐していた道を見落としていたことに」
シャカの言葉に動揺する。うっすらと解っていていたこと。だが、それを認めまいとするプライドによって有耶無耶にしてきた。
「君にとってそれは・・・“苦痛”なのではないのかね。私が自らの存在意義に疑問を感じた時のように」
「それ以上・・・言うな・・・俺に気付かせるな、シャカ」
―――ただ、ひとつの道しかないと思っていた。
その道を極め、踏み外すことなく突き進むこと・・・それが何よりも尊ぶべきものだった。
だがそれによって何を得られたというのだろう。
失ったもののほうが・・・大きかった。
「君は気付いている。己の心は隠せはしないから・・・あとはそれを認める勇気だけ」
「認めれば―――認めたところで過去は変えられない。間違っていたとしても、今更変えようがない!」
聖闘士になったことも。
勅命という大義名分の下に人を殺めたことも。
目の前にいる相手を・・・この手にかけたことも。
聖闘士でなければ、
勅命でなければ、
ただの・・・殺人者なのだということを。