虹の作り方
含みのある言い方は、デスマスクがきっと聖闘士を辞めるはずがなかろうということを暗黙のうちに言っているのだろうと思う。邸の中に入り、シャカはデスマスクにチャイを用意した。
ここは拝んでおくべきか?と間抜けたことを思いながら、軽く礼を言う。
「それで?君はわたしに何を言いたいのだ?」
「回りくどい言い方はすきじゃねぇから、ずばり聞くが。・・・・何でまた急に聖闘士辞めたんだ?」
差し出されたチャイを一口飲み、窓辺に腰をかけながらシャカの返事を待つ。いつもならすぐに帰ってくるであろう返事はなく、長いことシャカは沈黙していた。
外を眺めていたシャカは蒼い瞳を伏せると、長い睫毛を揺らした。
「・・・存在意義がなくなった、とでも言えばいいか。わたしがあの場所にいる必要があるのか、わからなくなった」
「なんで?」
「聖戦は終わったのだよ。デスマスク」
「だからといって、いつ、何時、敵が攻めてくるかわからないだろうが?」
小さくシャカが首を横に振る。
「敵とはそもそも何だね?正義とは?・・・わたしがこのように生きていることは自然の法に反してはいまいか?その法を犯してまで生きていることは罪深きことではないのだろうか?聖闘士だけではなく・・・わたしなどよりも数多の人々の命の中で救うべき命があったのではないのだろうか。女神だからすべて行うことは許されるのだろうか?・・・・デスマスク、わたしにはわからないのだ」
静かに語るシャカは苦悩を吐露する人という風には見えない。
「俺にはそんな小難しいことを考えたりすることがなかったからな。そんなこと考え出したらキリが無いし、生きるのが嫌になりそうだ・・・・だからなのか?おまえが聖闘士を辞めたのは」
「―――そもそもわたしにはわたしの神仏があった。此度のことでより一層、その思いは強くなったのだ。神は・・・人に干渉すべきではない。人の命でさえも人のものだ。その権利を女神は無意識とはいえ奪われたのだ」
「しかし、それは・・・」
「わかっている。わたしたちを慮ってのことだ。けれども・・・わたしにはそのことが・・・許せないと思ってしまう。唯人として生きることも、死ぬことさえも許されぬのかと思ってしまったのだ。女神の聖闘士でありながら・・・な」