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【ヘタリア・仏&加】イヨマンテ(魂送り)

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 変な叫び声がイギリスの口から漏れ、傍にいたティンクは顔を真っ赤にしてそれをじっくり見た。
「うわぁ! 誰だお前!! ヘンタイか!?」
「?(何語だろう) 僕はカナダだよぉ〜。」
 イギリスの耳に届いたのは、“カナダ”の単語だった。
「カナっ、カナダ!?」
 オーマイガ! とイギリスは叫ぶ。そこにいる紛れもない成人男子の髪は、確かにフランスのように柔らかな猫っ毛で、似なくていいのに胸毛もぱちぱちと生えて、しかも股間にはバラがくるくると回っている。
「遅かった……! 精霊の住まう麗しの大地、カナダは、あのヘンタイヒゲ全裸野郎の文化を受けて、ヘンタイに成長しちまった後だった……! だがぁ?」
 イギリスはにやりと黒い笑みを浮かべる。そしてフラックコートを脱ぐと、古代ギリシャ神話のような白い布を一枚纏っただけの姿になった。
「フランスの今の力はもう無ぇに等しい! そう、そんな軽っちょろい成長なんざ、このブリタニアエンジェルの力を持ってすれば、容易く戻せるってわけだ!!!」
 ほぁた☆という例の掛け声とともに星型のステッキをその成人男子へと振り下ろす。
「うわぁ!」
 途端、その全裸成人男子の姿は、人畜無害な子供の全裸姿へと変身する。
「よし!」
 イギリスはさっそくその子供を脇に抱えると、自分の船へと颯爽と連れて戻った。


「さぁ〜、いい子だねぇ〜、カナダちゃんv 俺のおいしい料理をお食べ〜v」
 衣服を宛がわれ、席に案内されたカナダの前に出されたのは、よく分からない油だか水だかがびちゃびちゃに染みこんだ、黒い塊だった。
 ――これ、もしかして、食べるものなのかな?
 しかし、先ほどまでぐぅぐぅとなっていた腹の虫は一向に鳴りださない。身体は本能から、空腹を我慢している。
 カナダはぶるぶると震えながら、涙目でその何かをじっと見る。……見ていると、目に染みて涙がどんどん浮いてくる。
 ――これ、食べ物じゃないよ。絶対に違う。……でもそうしたら、これは一体なんなんだろう。
 シチュエーションは、フランスが船に招待してくれたあの時“食事”と一緒だったが、皿に乗っているのは全く別次元の物だ。
 ――フランスさん、フランスさん。
 カナダはぶるぶる震えながらその名を祈るように唱え、イギリスの様子をちらと伺う。
 イギリスは不安と心配な面持ちで、カナダを見守っていた。そしてそのイギリスの傍らには、一つの光球が漂っている。
“大丈夫よ、あなたの愛情はこの子に伝わるわ。”
 その光球の発した思考は、カナダの脳裏にも伝わった。カナダは驚いた。それは自分の知っている光球とは全く違っていた。それは独特の今も生きる生命の光で、優しい雰囲気を纏ってイギリスを勇気付けるように飛び回っている。
“あの子だって、不思議そうにだけど食べたじゃない。だから、大丈夫よ。”
 ――あの子? あの子って誰だろう?
 これって、食べ物なんだ。
 カナダはその光球とイギリスを交互に見る。イギリスは光球の言葉を噛み締めるように、うんうんと小さく頷いている。
 カナダはフォークを持つと、その黒い塊の欠片をけずりとり、その小さな口へと運んだ。
“やった!”
 わっと、光球とイギリスの喜ぶ気配が漂う。
 のを最後に、カナダはそのまま気を失った。
「かっカナっ、カナダー!?!?!?!」
 イギリスの顔面蒼白な顔が心配そうに自分をのぞきこんでいる。……のぞきこんでいるのはその一つじゃなく、先ほどの光球、耳の尖った小さな女性、優しそうな小さなおじいさん、角の生えた馬、と、初めて見る生き物達が、同じように心配そうに自分の顔を見つめていた。


「……あ?」
「気付いたか?」
 カナダが咳き込んで上体を起こせば、イギリスは水差しを差し出す。それを口に含んで口の中の異物の気配を、吐き出したかったが、カナダはそれを我慢して飲んだ。
 ――……えーと、ここ、どこだっけ? あれ? 僕は? ……この人は?
 先ほど口にしたものの味がものすごくて、カナダは一種の混乱に陥っていた。まだムカムカする胸元を押さえながら、カナダは水差しからの水をもう一口飲む。
 ――この金髪の人、誰だろう。……でも、親切な人だなぁ。
「しかしびっくりしたなぁ、一口食べた瞬間気を失うなんて……。お前どこか具合が悪かったのか?」
 イギリスはそう告げながら、身振り手振りで、ステイ、ガリオン、と伝える。そのイギリスの傍には、先ほどの初めて見る生物がそのまま沢山いて、彼らがそのイギリスの言葉を伝えてくれた。
“正直に言っちゃえよ! オマエの食べ物で気を失ったって! そんな優しくされたって、この混乱は収まらねぇぞって!”
“具合が戻るまでこの船に滞在していきなさいって言ってるのよ。ま、出る食事はアレしかないけど!”
“こら! 小さな客人を驚かせてどうする! ……あれはほんのジャブだぜ?”
 カナダは目をぱちくりさせたが、彼らがみんな、楽しませるつもりでそれを言っているのは理解した。そして目の前の人の形のこの行為も、自分を迎え入れようとしての持て成しだという事も……。
「そうだ、果物ならある、リンゴやら青リンゴやら……ちょっと待ってろ。」
 踵を返そうとしたイギリスの裾をカナダは掴む。そこには、自分を労わろうとするイギリスの好意を受け取る、笑顔があった。
「ジュテーム。」
「へぁ!? ば、ばかぁ! そんな気軽に愛してるなんて言うんじゃねぇよ!!!」
 イギリスは顔を真っ赤にすると、その小さな手を振り払って客室を出た。
 カナダは顔をびっくりさせて、部屋に残る妖精達にそれを問う。
“あ〜あ、知らないわよ?”
“いくらアーサーがフランスを嫌いだからって、その言葉の意味くらい、知ってるぜ。”
「え!? 何? 僕何か間違っちゃったの?」
 あの言葉って、すごく嬉しい時に贈る言葉なんでしょ? というカナダの問いに、妖精達は顔を見合わせてくすくすと笑う。
“なら間違っちゃいないな。”
“そうね、間違ってはいないわね。”
 妖精達は上機嫌に、すぅっとその姿を光球に戻し、マシューの周りを飛び回る。そしてマシューを歓待するように、とっておきのキスの雨を降らせ始めた。



「ちくしょー、なんなんだよあのガキ! ……アメリカといい、こっちの大陸にゃ、中身はもう大成してるヤツばかりなんじゃねーのか!?」
 イギリスはリンゴの置かれた倉庫の中で、リンゴのように真っ赤になった顔を鎮めるべく、なんどなんどもその頬を摩っていた。


 
 プロローグ。


 ――その一ヵ月後。リンゴと青リンゴによって体調を回復したカナダに連れられて、この大地に上陸したイギリスは、フランスの土地で見た事がある、そのノートルダム大聖堂の完璧な姿に愕然とした。
“そういや忘れてた、コイツ、初対面時にはもう完璧にフランスに影響を受けた大人の姿……全裸で胸毛ぱちぱちの、股間にバラくるくるっていう最悪のコンボを炸裂させていたじゃないか。”
 イギリスの手にはあの星型を先端に持つステッキが握られている。奇跡を使えば、このカナダを子供の姿に戻したように、このノートルダム大聖堂も無に戻す事ができる。だが。
「Cette place(こっち)」