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【ヘタリア・仏&加】イヨマンテ(魂送り)

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 フランシスは礼を言うと、その東屋に足を踏み込んだ。その内部には、所狭しと、色も形も多種多様な、上等な毛皮が無数にあった。
「おおおおこりゃすげええええええええ!!!!!!!!!!」
「全部、あげる。たましいはぶじに、天にのぼったから、もう、その形をここに残しておくひつようは、ないの。」
 “ジュテーム”と付け加えてにっこりと微笑むマシューをフランシスは抱き上げて、同じようにジュテームジュテームと繰り返しながら、ちゅっちゅちゅっちゅとその顔に口付けの嵐を落としてくるくると回った。



「面舵いっぱーい!!」
 フランシスは手に入れたばかりの特に上等な毛皮を素肌に纏い、上機嫌で本国への進路を取る。船に積載量最大に毛皮を積み込んだが、まだまだ毛皮はカナダの大地に残っている。
“あのね、この保存する家、まだまだあるの。”
 マシューの言葉を思い出し、フランスはによによとした笑顔を垂れ流す。
「これだけありゃ陛下も文句ないだろ〜! むしろ本国での俺の発言権も強くなるし、開拓援助も増えるぜ〜!」
「提督! イギリスの船が見えます!」
 通常ならば上機嫌を打ち砕くその知らせもそのフランシスの機嫌を砕かなかった。
「お、いいぜ〜? お兄さんがちょいといなしてやるよ!」
 フランシスは船室に入ると、拡声器の前に立つ。望遠鏡の向こうには、見覚えのある旗がはためいている。
「よ〜、坊ちゃん。アメリカ大陸育成のその後はどうだぁ? どうせお前のこったから、メシマズ大地になってるだろうけどよぉ!!」
 “あ〜! カワイソカワイソ! そんな大地から取れるものなんて、たかが知れてるっつーの! せっかくの資源も、そんなメシマズじゃ発掘する気概も起きねぇだろうよ〜!”と拡声器から流して、しばし待つ。だが、いつまで立っても眉毛からの反論はない。
 不審に思い甲板へと出れば、ぱんぱんと軽い花火がイギリスの船から上がる。それは煙球の一種で、青空に不愉快な太眉を作る。
 思わずフランシスが噴出せば、ようやくイギリスからの反論がきた。
「……お前バッカじゃねーの? こんな本国が危うい時にカナダなんぞにうつつを抜かしてさ!」
“本国に戻るまでの半年の間に、お前の国が残ってるといいな……!”
 イギリスは心底意地の悪い笑顔を浮かべると、中指を突き立ててフランスへと向ける。フランスも無言で中指を突き立てれば、両国の船は遠ざかり始める。
「……おい、急いで本国へ帰るぞ。あいつが親切に告げる時は、マジでまずい。」
 フランシスは下がった気持ちを落ち着けるように、マシューから譲りうけた毛皮を一つなでる。
「……良かったら、俺に力を授けてくれないか? そうすれば、お前達の大地をもっとよりよくする事ができるんだ。」
 フランシスのその珍しい弱気の発言に、部下は一つ唾を飲む。
 出立前の本国の状態は、あまり芳しくはなかった。部下は従事を静かに切ると、本国にあるノートルダム大聖堂にと祈りを向けた。



「クマ二郎さん。」
「ナンダ、マシュー。」
 二人はフランス式の小さな家の中で寝転がっている。マシューの傍らには、フランスの文化を伝える本が散乱している。
「僕、おとなになりたいんだ。……いいかなぁ。」
「イイモ何モ、オ前ノ好キニスレバイイ。」
 マシューははぁと赤くなった頬を両手で抑える。
「次にフランシスさんが来たくれたときには、あのたてものも完成させて、おとなの姿ででむかえたいんだ。おんなじせたけで、おはなしがしたい。フランシスさんが見ているものを、僕も見たい。」
 マシューはフランスの本を眺めながら、はぁと物憂げなため息を着く。
「……どうやっておとなになるんだろう。それもフランシスさんに聞けばよかったなぁ……。」
“アンナニ、成長ヲ、怖ガッテイタクセニ。“
 クマ二郎ははぁやれやれと呟くと、蹲るように眠ってしまった。いつしかマシューもつれられるように、すやすやと眠りにおちいった。
 



「ン……。」
 クマ二郎は空腹に眼が覚める。鮭を取りに行くかと、隣のマシューを起こそうとするが。」
「……!? オ前、誰ダ!?」
 子グマはぶるぶると震えて、その自分の隣で寝ていたはずの人の形に声を掛ける。
「……? どうしたの? クマ二郎さん。」
 その人の形は発した自分の声に違和感を感じて、ニ三度咳き込む。
「あれ? 風邪かな? ……くしゅん! あれ、服、無くなっちゃってる?」
 辺りを見渡せば、寝る前に自分が着ていた白のワンピースは、胸元で大きく裂けていた。
「……あれ?」
 おかしいなぁ……。その人の形は少し考えたが、寝起きのせいかあまり頭がまわっていないようだ。そして、ぐぅうと腹の虫がなる。
「あぁ、そういや鮭を取りに行く時間だね。」
“行こうか、クマ二郎さん。”とその人の形はクマ二郎を抱き上げるが、クマ二郎はすっかり怯えてその手から逃げる。そしてひょうっと、本棚の裏に隠れてしまった。
「えぇ? ……もう、いいよ。」
 人の形はふんと小さくふてくされる。そして自分の空腹を納めようと、よっこいしょと立ち上がった。
 ――あれ? なんか視界がおかしいな? ……いつの間にか家縮んじゃった??
 まぁいいか、お腹も空いたし鮭を捕ってこないとね。
 人の形はふんふんと鼻歌交じりに家を出て、いつもの川へと向かった。

「……ここがカナダか。」
 カナダに船をつけたイギリスは、その大地の名前を呼びながら、数ヶ月前にフランシスが連れていた光球、精霊を思い浮かべる。
「精霊のいる貴重な大地は、それを理解する者が支配するのがイイに決まってる! 精霊が見えない、理解しないヤツが、その国を治めるなんざ、彼らを迫害するようなもんだ! しかもそれがあのヒゲだなんて……! 精霊達を全裸にするようなもんだ!」
 イギリスの言葉に、彼の周りを回るティンカーベルはそうよそうよと同意する。
“でも変ね、この大地、精霊、御霊の気配が全くないよ。もしかするともうフランスが……。”
「だーいじょぶだって! フランスにはもう力がねぇんだから! 本国だって惨めなもんじゃねぇか! それまでの植民地もどんどん手放して……それをあのヒゲ、まだ気付いちゃいねぇんだから!」
 あははとイギリスは高らかに笑う。
「それに、歩いてるとこがお前らが大勢いる森じゃなくて、川伝いだからなだけだって! 人の形に出会ったらすぐ森も歩くって。こっちを歩いているのは、文明はいつだって川沿いに生まれる……そう、川沿いは人の形と出会える確立が高いからな。」
 “そうね、そうよね”とほっとするティンクとイギリスに、がささと、隣の林の中から何かが近づいてくる音がする。
「誰だ!?」
 “もしかして、カナダか!?”その言葉とともにイギリスの脳裏に浮かぶの、アメリカ大陸にいた小さな子供だ。カナダもまだ小さな子供に違いない、それならば先に手なずけてやる!
「そう、この俺の国自慢のスコーンでな!!!!!!!」
イギリスは懐からハンカチに包んだスコーンを取り出す。そしてその物音のする物陰へと走り寄った。
「カナダ!? カナダちゃーん!?」
 しかしそこに現れたのは、全裸で髪が緩くウェービーな成人男子の姿だった。