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【ヘタリア・仏&加】イヨマンテ(魂送り)

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「やだなぁ、僕はカナダだよ。」
 カナダは涙交じりに苦笑してそう返す。
 子グマはその“カナダ”と名乗った人の形にぺたぺたと触る。外見は同じだけれど、それはもう子グマの知った“カナダ”の形とは違っていた。
 カナダは気にせずひょいとその子グマを抱き上げる。
「……キミのお母さん、僕達が生きられる“お陰”となった、ぼくたちのお母さんを、天に送ろう。おいで。」
 子グマのかげから一つの光球ふっと現れる。それはカナダの抱える子グマを追うように漂った。


「来たか、カナダ。……いや、マシュー。」
 フランシスは船員を指揮して木材を運ばせる。
「フランシスさん。」
 マシューはその名前を嬉しげに呼ぶと、フランシスに近づく。フランスの前には、マシューに提供された土地が広がる。
 傍に流れる大きな川は、先の大きな湖が、母なる海へと繋がるためのものだ。
「ここはいい場所だ。空気が特に澄んでいる。そして、足元からもまだまだ新たな生命が生まれる予感が迸っている。あれを建てるには持ってこいだ。」
 その言葉にマシューは笑顔を綻ばせる。子グマは驚いたようにマシューの腕の中から飛び降りると、その大地を確かめるように踏みしめた。
「オ前、コノ場所ヲ コノ人ノ形ニ教エタノカ?」
「だいじょうぶ。フランシスさんは、この大地をもっとよくしてくれるだけだから。……今晩はあたらしい、はじめての儀式をするんだ。」
“もちろん、イヨマンテじゃない……いや、あたらしいイヨマンテかも。”と、マシューは子供の言葉でふにゃとした笑顔を表す。その様子に子グマは再び“オ前誰ダ?”と思わず尋ねる。
「いやだなぁ、カナダだよ。」
 その一人と一匹の会話に、フランスはふっと笑いながら二人を抱き上げる。
「さて、日没まで後数時間。お兄さんの料理を、今度はこの子グマちゃんも交えて、安心して楽しく食べようか。」
「はい!」
 カナダは子供らしい無垢な笑顔で、大きく返事をした。


 西に太陽が沈めば、東に金星が輝きだす。フランスは大地に花火を一つ埋め込むと、それに点火した。
 しゅっと、金色の火の玉が同色の尾をたなびかせながら天へと上る。濃紫色の空はその金色の線に左右を途中まで分かたれたが、ぱん、とその光が爆ぜた事で、分断は金の無数の光の包括へと転じる。
「それ!!」
 その光を合図に、準備していた船員は寝かせていたそれを一斉に起こした。白い大きな幕が立ち上がり、準備していた別の一組はその垂れ幕にその建物を映写する。
 それは左右に双子のような真四角の塔のある建物で、その半分程の高さである中央部、アーチ形の入り口の上には、フランス式の女性の像が飾られている。
その画像が浮かび上がったのを合図に、地中に埋め込まれていたほかの花火が一斉に火を噴きその建造物を彩りだす。
 紫色の大空には、次々に光の火の玉が打ちあがりだす。パーンパーンと大きく響く破裂音。砕けた火の玉は、無数の光球となって大空を彩る。
「コレハ……。」
 子グマは呆然としてその光景を見つめる。
「ノートルダム大聖堂っていってね、僕とフランシスさんとで、準備したんだ。これがあたらしい“イヨマンテ”……魂送りの儀式なんだよ。」
 “この光、”花火”って言うんだって。……僕達にそばにある、あれにすごく似てるよね“
 子グマは呆然とその空に散らばる火花を見る。……子グマの目には、花火の光の影に、あの光球の姿を見る。
「よーし! どんどん行くぞー!!!!」
 フランスの言葉に、金色の火の玉は次々に大地から発射される。それは一時真昼のような明るさをそこに作り出した。
 あまりの眩さに子グマは目を細める。再び開いた目に飛び込んできたのは、その打ち上げられた花火に誘われるように、この大地からこぽこぽと生まれだす光球だった。
 マシューは笑顔で、その目元には涙を滲ませて、大聖堂が映し出されたスクリーンと、その背後、空に瞬く光の粒を見る。
 パーンと、一段と大きな花火が砕け散る。ゆっくりと大地を落ちようとする火球と反対に、緩やかに上昇する光球の姿。まるで天と地とを行き交うようなその光の粒たちの幻想的な光景に、花火を打ち上げているフランスの船員達は、いよいよその花火の数を増やしていく。使うつもりのなかった隠しだまの花火にまだ着火し始める。
「最大級のヤツ行きますよ! 提督、下がっていてください!」
 船員の言葉に、フランシスはクマとマシューを抱え上げて、後方へと小走りに下がる。
 ドーンと、地面を揺るがす程の最大の火の玉がそのノートルダム聖堂の背後に迸った。それは放射線状に行く筋も拡がり、天中にまで上昇すると、大きな破裂を引き金に、連鎖的な連続と無数の破裂を繰り返す。既に真っ暗なはずの空は、大きく金色に輝いた。
 フランシス、マシュー、子グマの顔は、その金色の光に照らされている。マシューはただ嬉しそうにうんうんと頷き続けていた。今まで自分を取り巻いていたあの光球が、この打ち上げられた花火に惹かれるように、次々に天へと昇っていく様をずっと見続けていた。もう自分にも、この大地にも、あの光球は取り残されていない事を、マシューは勿論、子グマも感じとっていた。
「めぉ……メルシー。」
 カナダは涙声で、嬉しそうにそれをフランスに伝えた。
「違うぜマシュー、こういう時は、ジュテーム、だ。」
 マシューは素直にその言葉をフランスに繰り返す。フランスはにこにことその言葉を受け取ると、マシューのその頬にちゅっちゅと花火のような口付けを落とす。
「ほらマシュー、見てみろ。お前が産み育んだそれまでの命は、ああして天に無事昇ったぞ。」
 そこには、無数の星々が浮かび上がっていた。
 天を覆う程に煌めく、無数の昇華された魂。マシューが嬉しげに声を上げれば、フランシスはその身体をそっと下ろす。マシューは天を見上げたまま、嬉しそうに駆け出す。
「クマさん、クマ二郎さん、ほら! お母さん! お母さん達があんなにいるよ! これからはあそこから僕達を見守ってくれるんだ……!」
 クマ二郎と呼ばれた子グマは、四足でマシューの後を必死に追う。
 ――ヤレヤレ。俺ニモ名前ガ着イチマッタカ。
 デモ、悪クナイ。
 子グマはクマらしく、キューキューとないてカナダの周りを回る。その光景をフランシスは微笑を持って見つめる。
「あぁそうだ、お前を取り巻くのは、そいつみたいなちびクマがいい。お前さんの傍にいるのは、生きている命が一番だ。」
 花火を打ち上げ終えた船員達は、火薬の匂いをまとってフランシスの元へとやってくる。その両手には、酒瓶を皆携えてにっと大きく笑っていた。
 フランシスも同じような笑いを作ると、その酒瓶の口を開け、この生命を包括する大空に対し、祝福、そして感謝するように、高らかな乾杯を捧げた。




 フランシスはマシューを抱えて歩いている。フランシスは既にその場所をわかっていたが、マシューの教える通りにその道のりを歩いた。
 ついた場所は、小さな東屋。だがそれは東屋というにはしっかりした、家と呼ぶには頼りない建物だった。
 マシューを下ろせば、たたたとその東屋に駆け寄り、ドアの無い入り口を案内する。
「ジュテーム。」