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魔法少女ほむら☆マギカ -その後の世界-

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 その声に導かれるように背後を振り返ったほむらは、クラスメイトが指差した、いかにも上品という様子が見て取れる少女の姿をその視界に収めた。その隣には、自己紹介の際に視線がかち当たった、ショートカットの少女の姿も見える。
 「仁美さん、保険委員だよね?」
 続けて、クラスメイトの一人がそう言った。少し離れた場所にいる仁美に向けて、少し大きく、張りのある声で。その響きに対して、仁美は突然の指名に驚いた様子で、状況を理解しようとばかりに、ただ瞳を瞬きさせている。
 「ほむらちゃん、体調悪いんだって。保健室に連れていってあげて?」
 続けて、言葉を補足するように、クラスメイトは仁美に向かってそう言った。
 「それは大変ですわ。」
 ようやく、仁美がクラスメイトに向かってそう言った。そのやりとりをぼんやりと耳に収めながら、ほむらはもう一度、誰かを探すように、さほど広くはない教室の全域に向かって、視線を彷徨わせた。誰か、とても大切な人を。なのに、それが誰なのか、全くわからない。いいえ、違う、思い出せない。もう一度視線が交錯した相手は先日度と同じ、ショートカットの少女だけであった。その少女は、ほむらと視線が合うと何かを嫌がるように視線を逸らし、ほむらに向けて歩き出した仁美を一度呼び止めると、彼女の耳元で小さく、何事かを囁いた。その内容を聞き取ることは無論ほむらでも不可能ではあったが、ショートカットの少女の表情から察して、必ずしも良い内容ではないことは簡単に理解できる。
 「大丈夫ですの?」
 密談を終了させた後で、ほむらの座席を訪れた仁美はスパイスを効かせたような、少しつんとした口調でそう言った。初対面の人間に対して警戒心を持つ性格なのだろうか、とほむらはぼんやりと考える。
「少しだけ、気分が。」
「でしたら、保健室にご案内致しますわ。」
中学生とはとても思えない、訓練された言葉遣いに却って息を飲みながら、それでもほむらは小さく頷くと、ゆっくりとした動作で立ち上がった。どうして保健室に行こうと考えたのか、その理由はわからない。ただ、悪意はないが少しうるさくも感じるクラスメイトから離れるには、都合の良い言い訳であるようにも感じる。
 「少し、お疲れになったのかしら?」
 教室を出て、廊下に出ると、仁美は前を歩いたまま、ほむらに向かってそう訊ねた。
 「・・そうね。」
 小さく、ほむらはそう答える。疲れたと言えば、疲れたのかのしれない。そのまま、会話も途切れ、二人の足音だけが廊下に響く。休み時間にざわつく他の生徒たちからは浮き上がるような、奇妙な沈黙であった。
 「さやかさんに、何か?」
 しばらくして、意を決した様子で、仁美はほむらに向かって口を開いた。
 「さやか?」
 心当たりがあるような、無いような。またしても心に引っかかりを残す名前であった。
 「私の親友の・・ショートカットの子ですわ。」
 説明を付け加えた仁美に対して、ほむらは納得したように頷いた。続けて、こう答える。
 「特に、何も。」
 「でしたらいいのですが。」
 未だに警戒心をとかない、という様子で仁美はほむらから視線をそらすと、後ろ手にその華奢な両手を組みながら、言葉を続ける。
 「さやかさんがほむらさんに、睨まれた、と恐れていたので。」
 「・・別に。」
 言われてみれば視線を、さやかと言うらしいショートカットの少女と交わした記憶はあるが、睨みつけた覚えはない。自分の視線が他人よりは厳しいのだろう、という自覚は有してはいたけれど。
 「なら、構いませんわ。」
 ほむらに対して、仁美はさらりとした様子でそう言った。
 
 その後の授業も退屈だった。教師から問われる問題には、たとえどんな難問であっても淀みなく回答することが出来る。体育の授業でこなせない競技種目など存在していない。ただ、人と関わることだけは億劫だと感じていた。一人でいる方が気楽。いままでも、私はこうしていたのだから。
 それも、何度も。
 そう考えた瞬間、ほむらははっ、としたように瞳を瞬かせた。今と同じことを、過去に繰り返したことがあるような気分に襲われたのである。そう考えて、ほむらは小さく首を横に振った。続けて、自身を納得させるように、既視感の一種だろう、と考える。なのに、違和感が消えない。何か、大切なことを忘れている。或いは、思い出せない?その気配は強く強く、ほむらの心を揺さぶりかけた。わからない。
 気付けば、ほむらはその手に、今日目覚めたときに握り締めていたリボンを手にしていた。赤い赤い、可愛らしいリボン。このリボンが、心のつまりの原因であるような、そんな気分に陥る。眺めながら、考える。必死に、心の奥底へと沈下していくように、深く深く。何かが、その奥に閉ざされているような気が、した。扉さえ開けられれば次に進めるのに、どうやらその扉を開ける鍵は構造として何かが不足しているか、それとも何処かに置き忘れてしまっているのか。
 結局、ほむらはどうしても、このリボンの出処を思い起こすことができなかったのである。

 「今日は瘴気が濃いね。」
 日が暮れる頃、ほむらの元を訪れたキュゥべえはそう言いながら、四肢を愛らしく、そして軽快に動かしながらほむらの足元へと駆け寄ってきた。見滝原市の中心部、高層ビルが立ち並ぶ、物流と経済、そして人の中心地である。
 「そうね。」
 キュゥべぇに対して短く、ほむらはそう答えると夜風に任せるように、その腰元にまで届く見事な黒髪をたなびかせた。場所はとあるビルの屋上階である。無論、周りに人の姿は見えない。たった一人、ほむらは仁王立ちのままで眼下に広がる街の景色を眺め回すと、呆れるように一つ、小さな溜息を漏らした。存在する人が多ければ多いほど、人が根源的に持つ恨みや憎しみのような負の感情もまた、同じように蓄積されてゆく。まるでダムの底に貯まるヘドロのように。その感情を食い物にする存在。それが魔獣であった。その魔獣が放つ瘴気が、今日はいつも以上に濃い。
 「ソウルジェムは問題ないかい?」
 居心地が悪くなるほどの正円に象られた、無表情にしか見えない、ルビーの如く赤く輝く眼球を持ち上げながら、キュゥべえはほむらに向かってそう訊ねた。小動物サイズのキュゥべえに向かって視線を移すことに煩わしさを感じながら、ほむらはその掌に紫色の結晶体、即ちほむらの精神の源であるソウルジェムを取り出した。
 「大丈夫よ。」
 ソウルジェムの輝きはまるで磨きたてのように透き通っている。これならば十分な魔法を使用することも出来るだろう。そのほむらの回答に安堵したようにキュゥべえは軽く真っ白な尻尾を振りかざすと、とん、と跳躍してほむらの右肩にその位置を移した。
 「じゃあ、行こうか、ほむら。」
 キュゥべえの言葉にほむらは一つ頷くと、軽いステップでビルから飛び降りた。途端に身体が軽くなり、浮遊するような感覚を味わう。瞬時に迫る地面を確認しながら、ほむらは使い慣れた様子で魔法を使用すると、まるで舞いのように緩やかに、コンクリート造りの地面の上でステップを踏んだ。
 敵は、もう目の前に存在していた。人型の、ただし顔を無残に崩した異形の存在。魔獣である。