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魔法少女ほむら☆マギカ -その後の世界-

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 その重たい緊張感を破った声は、マミの優しげな、そして落ち着いた声であった。ほむらよりも一つ年齢が高いだけであるのに、彼女にはほむらですらも頼りがいのある、妙な安心感がある。その態度は、そしてさやかにも伝わったらしい。安堵するようにさやかはその硬い表情を緩めると、マミに向かってこう言った。
 「はい、と言っても、さっき魔法少女になったばかりですけど。」
 さやかがそう言った時である。どこから現れたものか、白い体の小動物が一行の前に現れた。キュゥべえであった。
 「やあ、君達も来ていたのかい?」
 「キュゥべえ、あなた一体いままでどこに?」
 驚いた様子で、声を上げたのはマミである。その声にキュゥべえは心なしか楽しげに、軽く頭部を、愛らしく振りながら答えた。
 「さやかと契約をしていたんだよ。」
 そのまま、続ける。
 「さやか、魔獣を退治したら、これを僕に頂戴。」
 ぱくり、と床に落ちた魔獣のコアを咥えながら、キュゥべえはさやかにそう言った。そのまま、顔を上に振り上げ、口から離して魔獣のコアを空中に浮かせる。そのまま、予測された落下地点で背中を開くと、その中へとコアを収納させた。
 「うぇ、食べちゃった!」
 驚くようにさやかはそう言った。ほむらにとってはすでに見飽きたとも言えるキュゥべえの行動ではあったが、今日が初陣であるらしいさやかにとっては衝撃的な行為であったらしい。
 「暁美さんは、美樹さん・・よね、お知り合いなのかしら?」
 物珍しそうにキュゥべえの背中を観察し続けるさやかを見つめながら、マミがほむらに向かってそう訊ねた。その言葉にほむらは小さく頷くと、続けて答える。
 「クラスメイトよ。」
 尤も、これまでの交流は殆ど無いに等しいものであったけれど。
 「なら、私の後輩なのね。」
 そういうことに、一応なるのだろう。ほむらがそう考え、頷いて同意を示すと、マミはさやかに向かってこう言った。
 「よろしくね、美樹さん。私は巴マミ。あなたと同じ魔法少女で、同じ見滝原中学校の三年生よ。」
 「よろしくお願いします!」
 ほむらに対する態度とは異なり、元気良く、そして愛想良くさやかはマミに向かってそう答えた。
 
 「嬉しいわ。」
 陶器同士が触れ合う、小さく小気味の良い音と共に手にしていた紅茶を白磁のソーサーへと戻しながら、マミは感慨深そうにそう言った。さやかとほむらの二人を連れて、マミが誘った先は彼女の自宅であった。
 「嬉しい、ですか?」
 マミ自ら調理したという紅茶のシフォンケーキを心から堪能していたさやかが、ふとフォークの手を止めて、そう訊ねる。その言葉に、マミは小さく頷くと、こう答えた。
 「魔法少女が、もう三人も。」
 過去を懐かしむように、マミはその形の良い唇を開いた。そのまま、続ける。
 「今まで、私はずっと一人だったから。」
 つ、とほむらもそれまで手にしていたフォークをケーキの置かれた小皿へと導く。私も、ずっと一人だった。大切な人とも離れて、ずっと一人で。香りの良い、紅茶がマミらしい、洒落た室内に緩やかに、そして温かく広がってゆく。その気高い香りと共に、静かでしめやかな空気があたりを包み込んだ。
 「大丈夫ですよ、マミさん!」
 しんみりとした空気を打ち消すように、そう言ったのはさやかであった。ガッツポーズでもするように右腕を軽く曲げ、テーブルの上に軽く身を乗り出しながら、言葉を続ける。
 「これからは、私と、あと転校生も一緒ですから!」
 その言葉に、ほむらは微かにその形の良い眉を潜めさせた。確かに転校してから二週間程度の時間しか経過はしていないが、そろそろ転校生呼ばわりにも飽きを感じてくる。第一、私が必要としているのは貴女ではなくて。
 誰、なのだろう。
 ふと、ほむらはそう考えた。大切な誰かのことを、いまこの瞬間も、私は思い出すことが出来ない。
 「ふふ、そうね。」
 そのほむらの思考を打ち切るように、マミが軽くその瞳を華奢な指先で抑えながら、そう言った。そのまま、言葉を続ける。
 「これからも、宜しくね、ほむらさん、それに、さやかさん。」
 「勿論ですよ、マミさん!」
 さやかが、筒抜けに明るい声でそう言った。その言葉に、ほむらも倣うように軽く頷く。その二人に向かって、ありがとう、と小さく答えたマミが、何かを思い出すように、一言述べた。
 「そういえば。」
 手を伸ばして掴んだティーカップを空に浮かせながら、言葉を続ける。
 「あの子は今、何をしているのかしら。」
 「あの子、ですか?」
 さやかがそう訊ねた。その言葉にマミは一つ頷くと、こう答えた。
 「昔一度だけ、一緒に戦ったことがある魔法少女がいるの。長いポニーテールをした、槍の得意な子だったわ。」
 懐かしむように、マミはそう言った。そのまま、紅茶を一口、含む。
 「どうしたんですか、その子は?」
 続けて、さやかがそう訊ねる。
 「隣町の子だったから、一緒に戦ったのは一度だけなの。名前は、確か、佐倉杏子。」
 杏子。その名前を耳にした瞬間、ほむらはもう一度、深層心理が暴れだすような感覚をその身に覚えることになった。やはりどこかで、耳にしたことがあるような、そんな気分を覚えたのである。

 その杏子と出会うのに、大幅な時間は必要とされてはいなかった。マミの家で紅茶とケーキをご馳走になってから数日後、いつものように魔獣の気配を追っていたほむらは、街外れにある一角で、刃を勝ち合わせている魔法少女の姿を目撃したのである。人気の無い路地裏に響く、文字通り火花を散らす金属音に気付いて駆けつけたほむらの眼前に現れた人物は二人。その内の一人は先日魔法少女になったばかりの美樹さやか。そしてもう一人は、ほむらの見知らぬ魔法少女であった。赤い、赤く光る衣装を身に付けた少女が、高く跳躍する。腰元まで届く長く、ボリュームのあるポニーテールが風に流され、空を舞う。手にするものは彼女の背丈以上の長さを持つ十文字槍であった。月光に穂先が輝き、急降下、さやかに向けて直線距離で刃を突き出して行く。さやかは真正面から受け止めるつもりなのか、慣れない手つきで刀を正眼に構えた。無理だ、あの速度で、あれだけ鋭利な刃を受け止めるだけの技量をさやかはまだ有していない。ほむらは瞬時にそう判断し、側面から中央に飛び出すと、威嚇射撃とばかりに弓矢を放った。忽然と現れた刃に槍を構えた少女は、僅かな動きで穂先を左右に揺らし、鏃をあらぬ方向へと弾き飛ばす。だがそれでも、さやかへの攻撃機会を失わせる効果は十分であった。
 「てめぇ、何しやがる!」
 やむを得ず、という様子でさやかから離れて着地した少女は、続いて穂先をほむらに向けると、怒気の含んだ声でそう言った。その言葉に対して、ほむらは冷静に応える。
 「別に。無駄な争いは必要ないわ。」
 弓を手にしたまま、いつでも放てるように構えながら答えたほむらの言葉に対して、槍を手にした少女の行動は単純であった。
 「邪魔するな!」