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魔法少女ほむら☆マギカ -その後の世界-

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 そのまま、ステップを踏んだ。まるで低空で獲物を掠め取る鷹のような勢いで、突き出した槍とともにほむらに迫る。その動きに対して、少女が至近距離に迫った瞬間、ほむらは横に向けてステップを踏んだ。お互いの身体がすれ違う瞬間、空間すらも切り裂く刃の風がほむらへと襲い掛かる。
 「やるねぇ。」
 槍を構え直しながら、ほむらを逃したことに素直に感心するようにその少女はそう言った。
 「でも、次は外さない。」
 その少女が、にやり、とした笑みを漏らしながら口を開き、そして飛び出そうとした瞬間。
 「杏子、何をしているの?」
 凛とした、正義感に満ちた声が周囲を包み込んだ。その場にいた三人が、一斉に路地裏の一点に視線を送る。マミであった。
 「こりゃ・・久しぶりだね、マミ。」
 マミの姿を確認すると、先程までの殺気は何処に行ったのか、寧ろ何かを恥ずかしがるように、杏子と呼ばれたその少女は軽く頭を掻いた。そのまま、十文字槍の構えを解くと、とん、と槍の柄を右肩に載せて、ゆったりとした姿勢を保つ。
 「マミさん、もしかして、こいつが、佐倉杏子?」
 相当の魔力を消耗したのか、ぜいぜいと肩で呼吸を整えながら、さやかがそう言った。警戒を解かないように、未だに刀を構えたままで。
 「そうよ。この子が、佐倉杏子。」
 さやかを宥めるように、普段以上にゆっくりとした言葉で、マミはそう言った。続けて、拗ねるように腰に軽くこぶしを握った右手を当てながら、もう一度口を開く。
 「それで、どうしてこんなところで喧嘩をしていたのかしら?」
 「喧嘩っていうか、その。」
 杏子はマミに対して、途端に返答に給したように言葉を失った。その杏子に追い討ちをかけるように、マミが更に杏子へと詰め寄る。
 「その、じゃないわ。話してごらんなさい。」
 「そいつが、邪魔してきたんです。」
 まだ怒りが収まらない、という様子で口を開いたのはさやかであった。剣を片手に掴んだまま、つかつかとマミと杏子へと近付き、そのまま続ける。
 「魔獣退治に、私じゃ力不足だと突っかかってきて、結局取り逃がしてしまいました。」
 「あんな小物に本気出しても、魔力の無駄だろ、って言ってるんだよ!」
 きっ、と瞳を見開いて、杏子が言った。さやかに対しては、あくまで対抗するつもりらしい。
 「小物でも、誰かが被害にあうかも知れないじゃない!」
 負けじとばかりに、さやかがそう言い返す。
 「ただの喧嘩にしては、大げさだったわね。」
 止まることを知らない二人の口論に、呆れたように肩をすくめたマミに変わって、ほむらは一歩を踏み出すと、そう言った。それに大して、マミが訊ねる。
 「大げさ?」
 「殺し合い、と言ったほうが妥当だわ。」
 ほむらの言葉に、マミはいよいよその可愛らしい瞳をしかめさせた。そして、訊ねる。
 「どういうことかしら、杏子、それにさやかさん?」
 少し怖い、と思ったのはほむらだけではなかったらしい。その言葉に、ぐ、と杏子は唸り、さやかはまるで飼い主に叱られた子犬のようにその頭を項垂れさせた。そのまま、二人とも気まずそうな沈黙を保つ。
 「まあ、いいわ。」
 二人とも口を開こうとしない状況を見て、マミは何かを諦めたように、溜息交じりでそう言った。
 「とにかく、同じ魔法少女同士なのだから、これから先は喧嘩はしないこと。わかったわね?」
 凄みのある口調でマミはそう言った。それに対して、杏子とさやかは神妙に、そして同じタイミングで、わかった、とだけ答えた。

 そんな出会いをした杏子とさやかではあったが、それから一週間も経過する頃には、どうやら何か打ち解けるところがあったらしい。近接攻撃を得意とする杏子とさやかはいつしか連携した戦闘を行うようになっており、自然の内にほむらとマミが後方支援を、杏子とさやかが前線攻撃をするような戦闘スタイルが四人の中で普遍化するようになっていた。
 「あいつも、昔色々、あったみたいだからね。」
 唐突にその仲を深めた二人の関係を訝しんだほむらの問いに対して、さやかはそう言って照れくさそうな笑みを見せた。いずれにせよ、仲間同士で傷つけあうような事態にならなかったことをほむらは心から安堵し、そして考えた。
 あの子が今の私達を見たら、どう思うのだろう。
 ふと、そう考えて、ほむらはその瞳を大きく見開いた。あの子。そう、私はあの子の為に、これまで戦い続けていたはずだった。なのに。顔も、名前も、何もかもを、私は思い出すことが出来ない。本当にそんな人間が存在していたのか、それすらも疑いたくなるような状況のなかでほむらはただ、呆然と、ただ川の流れに身を任すほか処置の仕方もない木の葉のように、不安定にふわりふわりと、戦い続けていた。そんなもむらであったが、このまま、四人でずっと過ごせて行ければいい。その様に、他人との距離を置きたがるほむらですらもそう考えるようになった頃、その事件は起こった。

 「最悪の魔獣、といえばいいかしら?」
 見滝原市の中心部から少し離れた場所、老朽化の為に立ち入り禁止となっているビルの入り口に集合したほむらたちに向かって、マミが緊張を隠さないままでそう言った。ざわり、と夜の空気が鳴る。照明が無いための暗闇なのか、それともこの先に待ち受ける魔獣が放つ瘴気が余りにも濃すぎるのか。経験の長いほむらであっても、背筋を走る悪寒を隠し切ることが出来ないほどの、強い魔力。それだけの魔獣が待ち受けている。
 「仕方ねぇよ、やるしか無いんだからさ。」
 杏子がそれまで咥えていた団子から串を抜き取って投げ捨てると、務めて余裕を見せるようにそう答えた。さやかはただ、神経を集中させるように僅かに瞳を閉じている。このまま、ここで待っていても仕方が無い。ほむらはそう考えると、小さく、だが緊張を隠さないままで、こう言った。
 「行きましょう。」
 そして、一歩を踏み出す。踏み出しながら、闇の奥からの奇襲を警戒したが、その用意は敵にはなかったらしい。逆に言えば、余裕ということなのだろうか。続けて、杏子とさやか、そしてマミも廃ビルへと進入を果たす。何かが錆びた、つんとする臭気が嫌にほむらの鼻腔を突いた。
 「この奥ね。」
 周囲を見渡して敵の姿が無いことを確認したマミがそう言った。その言葉に、四人がほぼ同じ歩調で廃ビルの深部へと向けて歩き出す。一階には魔獣の気配がない。そのまま、二階、三階へとビルを登ったとき、そいつは現れた。唐突に、ぬらりとした液体のように。その魔獣は、それまでのほむらの常識を覆すに十分な姿格好をしていた。通常の魔獣よりも、身長だけでも数倍は大きい。それだけではない。そいつは、人型ですらなかった。複数の頭部が存在しており、その数は丁度八つ。ヤマタノオロチといえば理解し易いのかも知れなかったが、その頭部は全て、人と同じ形。しかも、それぞれに異なる表情を持っていた。身体は一つだが、足は四つ。手も、なぜか四本存在していた。何より、その魔力。それまで出会った魔獣の数百倍は巨大だろう魔力の渦が、ほむらたちを圧迫するように蠢いていた。
 「こいつは、強敵だな。」