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魔法少女ほむら☆マギカ -その後の世界-

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 額に一筋の汗を流した杏子が、それでも普段通りに、慣れた手つきで愛用の十文字槍を構えた。それに合わせてほむらが弓を構えた直後。
 魔獣が、吼えた。人の声に近いような、だが違う。野獣の雄叫びと鳥類の全ての鳴き声を混ぜ合わせて一色に、そして混沌と混ぜ合わせたような、怪音波にも近い、鼓膜を破りかねない、強く、そして不快な金切り声。その叫びが終わった直後、魔獣が動いた。その巨体からは信じられないような、杏子の突撃に勝るとも劣らない速度で、瞬時に魔獣が迫る。杏子がその動きに合わせて、横に飛んだ。その隙を見て、ほむらが弓を引き絞る。ひゅ、と風を切って襲う鏃に対して、魔獣は力任せに腕の一つを横に振った。電流が弾けたような音と共に、ほむらの矢が霧散し、消滅する。続けて放たれたマミの弾丸もまた、魔獣にとっては五月蝿い小蝿程度の存在でしかなかったらしい。弾丸ごとその魔力で消滅させた魔獣は、左に交わそうとしたさやかの身体を軽々と吹き飛ばした。逃げ切れなかったさやかが、空に舞う。
 「さやか!」
 杏子がそう叫ぶと、コンクリート製の壁を蹴り上げてさやかへと向けて飛んだ。直後に、杏子がさやかの身体を抱きとめる。そのまま、両腕にさやかを抱き締めた杏子が重力に任せるままに、重たい音を響かせながら着地した。自身の身体を回復させながら、さやかが杏子に支えられるように立ち上がった。直後、魔獣がもう一度、吼える。ただし今度は、その八つの口腔から魔力の込められた弾と同時に。人の頭と同程度の大きさを持つ魔弾が四人へと目掛けて襲い掛かる。ほむらとマミが身体を横飛びにそらしながら、矢継ぎ早に矢と弾を魔弾に向けて放った。ほむらとマミ、それぞれの魔法と魔弾が真正面から衝突し、焦げるような臭みと共にその力を相殺させる。その隙に魔獣へと飛び込んだのは杏子だった。自身の頭上で十文字槍を威勢良く回転させた杏子は、その遠心力をそのままに魔獣へと振り下ろす。魔獣の右側、一つの手が吹き飛んだ。続けて、さやかが今度は左側から刃を真正面から縦一門に振り下ろす。魔獣の腕を吹き飛ばすまでは届かなかったものの、切り裂かれた魔獣の皮膚からどす黒い、血と言うよりは闇そのものと表現すべき液体があふれ出した。だが、その攻撃は魔獣をより怒らせる効果しか持ち合わせていなかったらしい。ろくろ首のように長く伸びる八つの頭を振りかざした魔獣は、歯をむき出しに杏子へと、そしてさやかへとその首を伸ばした。がちり、と噛み付かれたものは杏子の槍。そのまま力任せに、魔獣は杏子の身体を床へと向けて叩き付けた。瓦礫が舞い、杏子の身体から血液が毀れだす。ほむらが駆けつけながら、無差別に弓を引き絞り、矢を放った。上空ではふわりと待ったマミの背後に現れた数百門のマスケット銃が一斉に火を噴き、魔獣に襲い掛かる。ところどころ打ち抜かれた魔獣は悶えるように吼えたが、それだけだった。杏子と同じように吹き飛ばされたさやかが、自身の回復を行いながら立ち上がる。刀を杖代わりにしなければ立ち上がれない様子を見ると、さやかのダメージも相当に大きい。杏子は身体中に負傷を追いながらも、気力だけで立ち上がる。まずい、とほむらは心中に焦りを覚え、今一度弓を引き絞ろうとした。その時である。
 魔獣が、飛んだ。軽々しく、まるで羽でも生えているのかと錯覚させる程度に。そのまま、ほむら目掛けて落下してくる。四つある巨大な足の裏に踏み潰そうとばかりに。思わずほむらが右手を伸ばした先は、左手の肘辺り。だが、ここには何もない。そう、以前にもあった。あれはマミと初めて出会ったとき。いや、そうじゃない。私は、かつて、この場所に、魔法具が。
 「馬鹿野郎!」
 突き刺すような声と共に、ほむらは側面へと突き飛ばされていた。何が起こったのか理解できないまま、突き飛ばされた衝撃で倒れ込んだ顔を持ち上げたその場所には、厳しい表情をした杏子の姿。その奥には、着地を終えたばかりであるらしい魔獣の姿。
 「戦いの途中で、ぼんやりするな!」
 続けて、杏子がそう叫んだ。その言葉にほむらは一つ頷きながら、震える足を叱咤するように立ち上がる。その間にも、目標をはずして更に怒りを高めたらしい魔獣が杏子とほむら目掛けて突進を開始した。ほむらが弓を構え、杏子が衝撃に供えるように槍を斜めに構える。 
 「ティロ・フィナーレ!」
 タイミング良く、隙だらけであった魔獣の側面が、花火を爆ぜたかのように爆裂した。マミの必殺技が炸裂したのである。その攻撃にはさすがの魔獣もそれなりのダメージを受けたらしい。八つの頭部をそれぞれに苦悶の表情を浮かべ、地団駄を踏むように足を止めた。その隙に、ほむらが渾身の力を込めて矢を放った。直撃を受けた頭部の一つが、首元から吹き飛び、長い首だけが力なく地へと倒れ込んだ。杏子が走り、魔獣の首をもう一つ、叩き落す。地上からはさやかが魔獣の脚に切りかかり、魔獣から更なる鮮血を奪い取る。いける、誰もがそう考えた。このまま、攻撃を加え続けていれば、必ず勝てる。そう考えた。だが。
 もう一度、魔獣が吼えた。残された三本の腕を真正面に構えて現れたものは、先程とは比べ物にならないほどの巨大な魔弾。その禍々しい気配に、ほむらは息を呑み、そして恐怖した。直後、鉛球を投擲するように魔獣は腕を振り上げ、魔弾を無造作に投げつけた。全員ともに、直撃からは身をかわした。だが、魔弾の直撃を受けたビルの床は瞬間に木っ端微塵に砕け、その階層を丸ごと失う。二階へと向けて全員が落下しながら、それでも遠距離攻撃が可能なほむらとマミは執拗なまでの攻撃を加え続けた。だが、魔獣の体力が減っているような様子はまるで見えない。
 「参ったな・・。」
 ぽつり、とそう呟いたのは杏子だろうか、或いはさやかだろうか。
 「こんな化け物が、表に出たら・・。」
 「見滝原市が、壊滅する・・。」
 最悪の事態を想像して呟いたほむらは、直後に身体全体に悪寒が走ることを自覚した。そう、あの時も、私は奴に勝てなかった。今とは違う姿をした、それでも変わらぬ程度に強大な敵に。その結果、大切な人と離れ離れになった。街は滅び去り、多くの人が被害にあった。何度も何度も、私は戦い、そしてその度に敗れた。強くなったはずなのに。ほむらは、そう考えた。なのに、また、私は敗れるのだろうか。
 「仕方、無いよね。」
 さやかが、そう言った。何かを決意したような、澄み渡る青空のような声で。
 「みんな、バイバイ。」
 何をするつもり、と開きかけたほむらの言葉はしかし、さやかに届くことは無かった。さやかは取り出したソウルジェムを蒼く、まるで生まれたばかりの恒星のように輝かせながら、魔獣に向けて飛び掛った。彼女自身が、鋭利な刃と化したかの様に。その蒼い光はただ直線に、魔獣の胸元へと直撃した。そのまま、魔獣の身体を貫き、そして爆ぜる。目もくらむような光の中で、さやかは魔獣と共に、消滅して行くように見えた。
 「さやか!」
 ほむらが悲鳴にも似た声で絶叫した。その言葉が光の中に溶け込もうとした時。
 『さやかちゃん、お疲れ様。』
 声が、響いた。懐かしい、そして温かい声。
 『ほむらちゃんも、久しぶりだね。』