二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・上

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「うん。世間では、DNA=遺伝子というふうに思われているみたいだけど、その表現は正しくないわ。なぜなら、DNAというのは私たちの染色体に含まれている化学物質のこと。そのDNAにはA, T, G, Cという4つのタイプがあって、それらがたくさん繋ぎ合わさることで、長いひも状の形を作っているの。で、そのA, T, G, Cの配列というのは、暗号にもなっていて、長いDNA分子の一部は、私たちの身体を構成するタンパク質をつくるための設計図になっている。それが遺伝子。つまり、正確にはDNAの一部に遺伝子となる配列が含まれている、というわけ」
「なるほど」
 とムギはひとつ手を打った。
 和は続ける。
「でも、DNAの中でも、タンパク質の設計図となっている配列はごくごく一部なの。で、残りの大部分はそれ以外の領域、ということになるんだけど、それらの配列にもさまざまな特徴のものがあるわ。例えば、同じパターンの配列が数百、数千も続いている反復配列と呼ばれるものなんかはそのひとつね。じゃあ、それら遺伝子以外の領域は一体どんな役割をしているのか。以前は、ジャンクDNAといって、意味をなさない領域という風に云われていた時期もあったけれど、最近ではそのうちの大部分は別の重要な機能をもっていると云われるようになってきたわ。一例をあげると、染色体の構造や核内局在に関わる因子の目印になったり、遺伝子の働きを調節したりなどね。例えば、DNAのある領域にとあるタンパク質が結合すると、それが引き金となって、ある領域の遺伝子の活動が活発になったり、逆に活動が抑えられたりする、というわけ」
 和は顔を上げ、周りを見渡した。そうして、みんなが話について来れているかどうか確認してから、話を進めた。
「また、DNA配列は、私たちひとりひとり若干の違いがあるの。なぜなら、私たちは別々の両親、先祖からのDNAを受け継いでいるから。私たちの姿かたちや人間性の違い、いわゆる個性というのは、端を発せばそういうところから来ているのね。まあ、もちろん家庭環境などの要因も十分にあるから、まったくそればっかりってわけじゃないけど」
 話を聞いているみんなは、互いの顔を見合わせた。私たちの外見や性格が違うのは、DNAの並び方がわずかに違うからだという。
「で、話を戻すけど、SDR領域というのは、この世の大部分の人は持っていないDNA領域で、ごくごく一部の家系の人しか持っていない。たまたま唯の家系がそのひとつだったというわけ。因みにSDRとは、Spiritual-world Diving, Repetitiveの略。すなわち、SDR領域とは『精神世界にダイブするための反復配列をもった領域』ということになるわ」
 ここまで話したところで、律が口をはさんだ。
「ちょ、ちょっと…。さっきから云ってる、精神世界っていったい何なんだ?」
「それは後で話すわ。先にSDR領域に関する話を終わらせましょう。このSDR領域には同じような配列が数百も続いている。そして、立花さんが持っていた紙切れに書き込まれていたように、そこにはAGTGという並びの配列が複数存在するわ」
 姫子はあの紙切れに書かれていたアルファベットの暗号を思い返してみた。“GCAGTGCATAGTGATCAGTGCCCTA”という羅列のうち、たしかに“AGTG”と並んでいる三つの箇所が、丸で囲まれていた。
  和は続ける。
「実は、この配列は、SDR因子というタンパク質が認識してDNAに結合するのに重要な配列なの。で、DNAにSDR因子が結合すると、それが引き金となって、普段はたらいていない遺伝子が活性化されて、タンパク質を合成するわ。そのタンパク質がSW1 (Spiritual-World 1) と呼ばれるものなの。さらに、そのSW1は別のSW1 recognized region、つまり『SW1認識領域』に結合する…。このようなプロセスによって、最終的には普段ははたらいていない複数の遺伝子が活性化して、複数のタンパク質が合成されるわ。論文によると、それらのタンパク質が、私がさっきから云ってる、精神世界へのダイブに必要になる、ということらしいの」
「で、その“精神世界へのダイブ”ってどういうことなんですか?」
 今度は梓が発言した。
「うん…。ここからはちょっと信じがたい話になるんだけれど…」
 和はそう云って咳払いした。そして、話を続けた。
「実は、石山教授の説によると、世界には、私たちのいるこの現実世界以外に、私たちの心が作り出した、広大な精神世界があるらしいの。その精神世界は、私たちの意思や感情によって、その様相を変えながら、どんどん大きくなっているみたい。けれど、その世界は私たちによって作られるだけじゃない、実は精神世界がこの現実世界にフィードバックして、この世界の行く末を決めてしまうこともあるらしいの」
「何だそりゃ…?」
 まず、ネガティブの口火を切ったのは律だった。律の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、和は続ける。
「例えば、私たちの中で心から幸せと思った人がたくさんいたとするわね。そうしたら、精神世界も喜びの感情で構成されていくわ。そうすると、それが現実にフィードバックされて、この世界もプラスの方向に動く。一方で、憎しみや悲しみの感情を持つ人が多くなったら、その感情で精神世界は満たされる。すると、それがまた現実にフィードバックされて、世界はマイナスの方向に動く。場合によっては、災害や戦争なんかが起きて、私たちの生活や存亡が脅かされるかも知れない」
「何、そのオカルトじみた話…」
 梓も唖然とした顔で呟いた。
「大昔には、実際に精神世界に行って、その世界が悪い方向に行きかけてるのを食い止めることで、現実世界の破滅を防いでる人がいたらしいわ。日本ではシャーマンといわれた人の一部には、実際にはそういうことをしていた人もいた、という話らしいけれど。けれど、そこから何百年、何千年も経って、そのような能力を持った人はいなくなってしまった。ある遺伝子がはたらくなることで、精神世界にダイブするために必要な経路が破綻してしまったのね」
「具体的にどのような部分が破綻したのかな?」
 憂は聞いた。
「察するに、SDR因子の合成のところね。SDR因子が作られなくなったから、以下の経路が進まなくなって、能力を失ってしまった。だから、石山教授は実験で唯にSDR因子を投与したんだと思う」
 ここまで云い終わると、澪がためらいがちに口を出した。
「和…、悪いんだけど、その話はちょっと私には信じられない」
 さらに、ムギもが
「ごめんなさい、私も」
と云いだした。
 澪、律、ムギ、梓の4人は、眉をひそめて煮え切らない顔をしている。仕方のないことだ。こういう反応が返ってくるのは、和自身も予想していた。自分も論文を読んだとき、あまりに荒唐無稽に感じて、意味を取り違えているのではないかと、何度も読み返した。おかげで内容を理解しながらすべて読み終わるのに、まる一日かかってしまった。唯に会ったら、「あんたのせいで一日潰して論文を読むハメになったわよ」と皮肉を云ってやりたいくらいだ。
「真鍋さん、私は信じるよ!」