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【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・下

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「そう。いうなれば精神世界は私たちの辿ってきた進化の歴史をファイリングし、その中で生まれてきた私たちの思想や感情で膨らませた世界。それが今私たちがいる現実世界にフィードバックして、私たちの未来に影響を与える。なら、そのファイリングした内容や、インプットされた感情の性質を変換してしまえば、私たちの未来は変わるはず。あ、これ石山先生の受け売りだけどね」
「唯ちゃん」
今度はムギが手を挙げた。
「それじゃあ、前にバーで見せたあの力は何?唯ちゃんの力は精神世界に行くっていうものでしょ?それなのに現実世界であのような力が出せたのはどうして?」
「それは、多分超能力者と同じ理屈だと思う。彼らは、精神世界とリンクして、その世界での情報を現実世界に反映させる。私もあの時、夢の中で行っていたことを、衝動的に起こしてしまった。つまり、夢での事象をこの世界に転換させたんだと思う。ただ危険なのは、その力は衝動的なもので、やった瞬間は自覚ないし、理性でコントロールすることもできないの。だから、石山先生にも凜くんにも、この世界では力は絶対使うなと云われた」
 姫子は思いだした。バーの中で凜が云っていた言葉を。
『少しは力が出るようになってきたじゃないか。だが、まだまだだな。もっと訓練をする必要がある』
 どうやらあの言葉の意味は、『もっと強い力を出せるようになれ』という意味ではなく、『力を衝動的に使わないように自分をコントロールしろ』ということだったらしい。
 次に梓がふと気づいたように云った。
「あ、そういえば、唯先輩にSDR配列があるってことは、憂にもあるってことよね?」
 みんなは憂の方を見た。確かにそうだ。姉の唯がSDR配列をもっているならば、妹である憂も持っているというのはごく自然なことではないか、とみんなは思った。
「そうだな。姉妹ってことは、憂ちゃんも持ってるんじゃないか?」
 律が梓の意見に賛同する。
 唯もその質問に関しては、「え、えっと…」と云って、答えられなかった。
「唯、そうとは限らないんじゃないの?」
 そう云ったのは和だ。
「ヒトの染色体って46本あるものなんだけど、それは両親の染色体23本の染色体を2セット組み合わせたものなの。で、子供ができるときは、親のもつ2本の同種染色体のうち、どちらか一方がランダムに選ばれて遺伝するわけ。ここで、唯と憂のお父さん、お母さん、どちらがSDRの配列を持っていたか分からないけれど、仮にお父さんが持っていたとするわね。でもおそらく、SDR領域を持つ人間の割合が少ないことから考えて、お父さんが両親から受け継いだ染色体の両方にSDR配列があったとは考えにくいわ。おそらく、ホモ (ある遺伝子が同種染色体の双方にある状態) ではなく、ヘテロ (ある遺伝子が2本の同種染色体のうちの一方にしかない状態) であると考えられるわね。すると、SDR領域を含んでいる染色体が憂に遺伝する可能性は、半々ということになるわ。そうね、唯?」
「う、うん。さすが和ちゃん!」
「それでも二分の一はあるってことだな」
 澪が訊いた。
「そうね」
次に律が尋ねた。
「…でも、今までどうしてこのことを私たちに黙ってたんだよ。しかも、突然姿を消したりして」
「みんなに心配をかけたくなかったから。あと、私たちみたいな人間でなくても、ヘタに関わっちゃうと、あっちの世界に呑み込まれてしまうことがあるの。昨日の憂みたいに。場合によっては、あっちの世界に心の一部を置いて行ってしまったり、魂が戻ってこれなくなることもある。そんな危険があるところへ、みんなを誘い込みたくなかった」
「…でも唯、お前がひとりで苦しんでいる姿を見るのは、もっとつらかったんだぞ」
 澪が云った。
「そうよ、唯ちゃん。もうひとりで抱え込まないで。私たちにできることなら、何でもするから」
 ムギがそれに続く。
「ありがとう。もうみんな関わってしまったから、後戻りはできない。だから、これからは私がみんなのことを守ってあげる!」
 唯は似合わないドヤ顔で力強く宣言したものだから、みんなは可笑しくなってしまった。
「…よく云うよ」
 苦笑いを浮かべて律が云った。これまでの緊張がほぐれ、場の雰囲気は急に和やかになった。
 と、唯の身体が急にピクリと動いた。表情も急にこわばった。
「どうしたの、唯ちゃん」
 ムギの問いに、唯は顔をこわばらせたままで答えた。
「感じる。凜くんが来る」
 唯は急に立ちあがって、玄関の方へ駆けていった。
 玄関の鍵を開けて、ドアを開く。
 目の前には、凜の姿があった。


 6


 夜、みんなで晩ごはんを済ませ、各々が後片づけに取り掛かっていた。
 そんな中、凜だけがリビング窓際に座り、庭の方にずっと目をやっている。
 唯を連れ戻しに来た凜を、家に連れ込んだのは唯だった。もちろん、バーでの一件があるので、他のメンバーは凜の姿を見て決していい顔をしなかった。
だが、唯が彼を連れ込んだのは、ここにいる全員が自分の仲間であり友人であるという意識があったためであったし仲間たちも唯のそういう性格は分かっていたので、彼女たちは凜に対していい顔はしなかったものの、唯に「なぜ連れ込んだの?」と問いただしたり、彼に敵意をむき出しにしたりすることはなかった。
 凜は凜で彼女らの態度には無関心であるように見えた。むしろ、唯の云われるままに家に上がっただけであり、特に目的もないようであった。或いは、唯を迎えにきたものの、無理やり連れて行くのは抵抗があり、どうしたらいいのか分からなかったのかも知れない。
 唯は凜に、ここにいるみんなはもうこの件に関わってしまったから、放っていくわけにはいかないと告げた。凜はメンバーに、覚悟はあるのか、と訊き、メンバーひとりひとりに立ち向かう意思があることが分かると、そうか、とだけ云って、そのまま部屋の窓際の方に座ってしまった。
 凜の一見異様な行動に一同戸惑ったが、どうするにも策がない。そのうち夜も遅くなり、憂が晩ご飯の用意をしてきたが、凜は手をつけず、同じ場所にずっと座って、窓の外ばかり眺めていた。
 和がリビングに入ってきた。凜はずっとその体勢のままだ。
「賭里須先輩」
 和が声をかけると、凜は首だけ回して和の方を見た。邪念も欲望も、どんな感情も映さないような漆黒の瞳が、和の方を見つめた。
「私、あなたのことを許せません。自分たちの目的のために、唯を危険に巻き込んで」
 和がそう云っても、凜の瞳の色は変わらない。
「でも、今の唯を本当に守れるのはあなたしかいません。どうか、唯を守ってあげて下さい。お願いします」
 和はそう云って、頭を下げた。
 凜は同じ瞳のままで、ゆっくりとした口調で答えた。
「もとからそのつもりだ。石山教授の研究の手伝いが僕の役目だが、その一番の仕事があの子のサポートだからね。自分の仕事をないがしろにするようなことはしない」
 和はさらに質問を重ねた。
「もうひとつ訊きたいんです。私が唯の抱えているものを解き明かせるように仕向けたのは、賭里須先輩、あなたじゃないんですか」
「どうしてそう思う?」