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【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・下

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「ずっと気になってたんです。あまりに手がかりが掴みやすいことに。特に石山先生のデスクに、唯のSDR配列を検出した実験ノートや精神世界に関する学術論文が置いてあったのが大きな疑問でした。石山先生はこの件を関係ない人間にはあまり教えたくないはず。なのに、デスクの上にデータや論文が無造作に置かれていた。ここに大きな矛盾を感じてるんです。もしかして、私が唯の部屋で実験データを見つけたのを知ってて、誰かが教授のデスクに手がかりとなるようなものを置いていったんじゃないか、そう思えてならないんです。そして、それができる人は私が知る限り賭里須先輩、あなたしかいません」
 凜は窓の方へ向き直った。そして、窓の外を見ながら云った。
「僕のいちばんの役目はあの子を守ることだ。どんなことをしてでも、その目的は達しなきゃいけない。たとえ、他の人間を危険に巻き込んでも、あの子が望まないようなことになっても。そして僕が見る限り、自分ひとりで抱え込むことは、あの子にはできなさそうだ。あの子が信頼できる誰かが必要だと感じたんだ」
「そのために、私たちを巻き込んだんですね」
「そうだ。まぁ、これだけ多くの人数が巻き込まれるとは予想外だったけどね。本当は、君とあの子の妹だけでよかった」
「あと、もうひとつ教えてもらえませんか。石山先生は何を考えているんです。精神世界は一見非現実的ですし、解明しようにも現在の科学では、十分にその存在を示すような解析ができるとも思えません。それなのに、なぜ石山先生はこの研究に手を出したんですか。もっと解明しやすい謎はこの世にゴマンとありそうなのに。私は、先生がこの分野に手を出す動機には、単なる研究者としての興味以外の目的があるような気がしてならないんです。どうなんですか、賭里須先輩」
 凜はフン、と鼻で笑った。
「それを知って一体どうするんだ。君たちのすべきことは唯の心の支えになることだ。それ以外のことは知ってもあまり意味がないと思うんだが」
 和は反論した。
「自分の都合で他人は利用する、自分の手の内は相手には見せない。これで安定したパートナーシップが築けるとは思いません」
「…たしかに一理あるな。けれど、悪いが僕も石山教授が何を考えているのかは知らない。君の期待するような回答はできない」
 和は凜を鋭い目で見下ろしていたが、凜は相変わらず外を見たままだった。これ以上会話は続きそうにない。

 そんなふたりの光景を廊下からこっそり見ていた人物がいた。


 7


 姫子が廊下からリビングの方をじっと見ているのを、唯たちは見つけた。
「あれ、姫子ちゃん何やってるの?」
「えっ?」
 姫子は慌てて、唯たちの方を向いた。
「何、何かあるの?」
 と唯は姫子の傍までやってきて、ドアの隙間からリビングの方を見た。リビングで和と凜が話している。
「中に入ったらいいのに。別に凜くんは怖い人じゃないよ?」
「あ、いや、そうじゃなくて…」
 姫子はしどろもどろになった。
「もしかして、彼に興味があるとか…?」
 ムギが云った。姫子はドキリとする。
「え、本当に?そういや、前から凜くんのこと気にしてたしね」
 唯が驚いた声を出す。
 姫子はうつむいて顔を赤らめた。この様子を見ていると、まんざらでもないらしい。
 唯は姫子の手をとって云った。
「ダメだよ、しりごみしてちゃ。ふたりっきりにしてあげるから、話してきなよ。あ、そうだ、憂、お酒持ってきて」
「え!?お、お酒?」
「そう。お父さんとお母さんが旅行で買ってきたおみやげにあったでしょ」
「うーん、あることはあるけど…、勝手に開けて怒られないかな?」
「大丈夫だよきっと。早く早く!」
 憂はキッチンで両親がドイツに行った際に買ってきたというワインのボトルをあけ、日本のワイングラスとともに持ってきた。唯はボトルとグラスを憂から受け取って、
「これ持って、凜くんに話しに行ってきなよ」
と、姫子に渡そうとする。
「え、で、でも…」
「いいからいいから」
 唯はそう云って、半ば無理やり姫子にボトルとグラスを持たせた。
「男女のシチュエーションって初めてかもー」
「ムギは好きだなぁ。こういうの」
 他のメンバーもまんざら興味がなさそうな感じではない。
 姫子としてはとんでもない話だ。周りに面白がられて、嬉しいはずもない。だが、周りはもう許してくれそうにない。凜と自分を引き合わせる段取りが着々と進められているのだ。

 外がガヤガヤと騒がしいので、和は廊下の方を振り返った。ややすると、唯がドアの隙間から顔を出し、手でコッチコッチと合図する。
 何よもう、と和は唯たちの方へ向かう。唯はそばまでやってきた和の手をとって、強引に廊下へと引きずり出した。
「何なのよ、一体」
 声をあげる和に、唯は「しーっ」といって、ヒソヒソ声で話した。
「今から姫子ちゃんと凜くんをふたりっきりにするから」
 つられて和も小さな声になる。
「えっ、何で?」
「いいからいいから。さぁ、姫子ちゃん、行っておいで」
「えっ」と戸惑う姫子を、唯とムギが強引にリビングへ押し込んだ。
 その途端、バタンとドアが閉まった。文字通りこの空間は、姫子と凜のみになった。
 まったく、唯たちの強引さにも困ったものだ。だが、確かにこれは親密になるチャンスかも知れない。
 すると、凜がこちらを向いた。姫子は一瞬ドキリとした。
 気を強く持て、と自分に云い聞かせ、ぎこちない笑顔を浮かべながら、ワインを持った手を少しあげて、「ど、どうですか?お酒でも」と話しかけた。
 姫子はグラスを置いて、自分も凜の横に座った。そして、凜の方に置いたグラスにワインを注ぐ。次いで自分の側に置いたグラスにも注いだ。
「ど、どうぞ、よかったら」
 凜は外を見つめたまま、グラスにも姫子にも視線をやろうとはしない。そのままで、凜は姫子に云った。
「僕に何か用?」
「…あ、いや、少しお話したいかな、って」
「僕と?どんな話をしたいっていうのかな」
 姫子は困ってしまった。ノープランだ。
「あ、えーっと…。ワインはお好き?」
 苦しまぎれにそんなことを訊いてみた。
「ワインは嫌いじゃないな。美味いと思うときもある。けれど、ブランドによっては酸味が強すぎたりして、口に合わないと思うこともある」
 凜がそこまで云い終わると、また部屋にはしばし沈黙が訪れた。
 姫子はあわてて次の話題を探す。
「へ、へぇ~。お酒はよく飲むの?」
「まったく飲まないことはないかな。ただ、酔い心地が気持ちいいと思うときもあれば、邪魔だと思うときとがあるから、そんな頻繁に飲むわけじゃない」
 またもや静寂。姫子は別の話題を探した。
「…そういえば、私のお店にいつも来てくれてましたね」
「…ああ」
「あの辺で、何か用事があったんですか?」
「…まあね」
 会話が続かない。凜は相変わらず窓の外を見たままだ。ワインにも手をつけていないし、一度だってこっちの方を見ていない。
「君は何が云いたいんだ」
「えっ」
「聞く限りどうでもいい話ばかりで、何か明確に云いたいことや訊きたいことがあるわけでもなさそうだ。どういうつもりなのか、僕には理解できない」