【けいおん!小説】 水の螺旋 (第四章・真理) ・上
『そう、キーワードは“科学”です!』
ここから、宇宙やDNAをイメージした壮大な映像とともに、詳しい内容がナレーションされた。ビデオは30分程度と長いものだったが、内容をまとめるとこんな感じになる。
―科学とは、我々が世界のしくみを理解するための最高のアイテムである。科学によって、我々は宇宙の誕生と終焉、この世に起こる化学反応のしくみ、生命の神秘などをひも解くことができる。しかしながら、ヒトの頭脳やたかだか4万年という短い歴史から考えると、解明できたことはごくごく一部であり、この世界のしくみすべてを理解するなど途方もないことである。したがって、ここで科学を人が解明できた (あるいはし得る) ものと、解明できないものも含めた絶対的な宇宙の真理に大別する。前者の方を“人智科学”、後者の方を“絶対科学”と呼称する。
つまり、この世の本質である絶対科学に、できる限り人智科学を近づけることで、我々はより多くの真理を手に入れることができるのである。
しかし、いかに人智科学を掘り下げたとしても、絶対科学には到底及ばない。我々の知識・理解で及ばない部分においては、その存在を信じ、感じるしかない。解明できないからと無関心になるのではダメだ。知識的理解とは別のところで、その真理を体感することが重要なのだ。
つまり、真理に近づくためには、我々の手に届く科学を掘り下げつつも、絶対的な宇宙の真理を頭で理解するのでなく感じる、この二本柱が必要になってくるということだ。
では、そのような視点で考えると、我々はなぜこの地球に生を受けたのか。今から46億年前、太陽系の第三惑星として原始地球は誕生した。初め灼熱地獄だった地球だが、強烈な上昇気流に伴って、何度も雨が降り、すぐ蒸発してはまた雨が降り、を繰り返し、徐々にその温度が下げられていった。そして、降り続いた雨によって海ができた。そして、そのような長い年月をかけた地球の様態の変化の中で、何種類かの高分子有機化合物ができた。糖類、核酸、タンパク質。やがて、核酸の一種であるデオキシリボ核酸 (DNA) を媒介し自己複製することができる物体が誕生した。生命の誕生だ。
生命は、糖類をエネルギー源、タンパク質を身体の構成要素、DNAを遺伝物質として、徐々に増殖を続け、活動範囲を広げていった。やがて、二酸化炭素を吸収して生体エネルギーを作り出し副産物として酸素を放出する生物や、その酸素を吸収してより効率的に生体エネルギーを作り出すような生物が誕生した。それらは、より大型の生物にエンドサイトーシスによって取り込まれ、それぞれ葉緑体やミトコンドリアとなった。
このようにして光合成、好気呼吸を手に入れた生命は、さらにその勢力を広げていった。これまで単細胞だった生物が、複数の細胞によって構成された多細胞生物となり、表皮・筋肉・骨格など、細胞によって役割分担をするようにもなった。消化器系が発達し、食道・胃・腸ができ、循環器系が発達して心臓ができた。さらに、脳髄がふくらみ、簡単な状況判断や本能行動もできるようになった。そうして劇的な進化をとげた生物は、これまで海の中で生活せざるを得なかったのが、徐々に、地上へと出始めた。地上へ出た動植物はさらに進化を続けた。地上には森ができ、大型の恐竜がわが物顔でのし歩いた。しかし、急激な気象変化によって恐竜は絶滅。その後は鳥類や哺乳類といった小型・中型の恒温動物が栄え始め、ゴリラやサルが誕生し、そして4万年前、ついにヒトの元祖であるアウストラロピテクスがアフリカで誕生した。
ヒトはこれまでの生物とは違い、二足歩行で手先が器用であり、さらに猛獣から身を守るための火をもっていた。さらに、手先の運動によって脳は鍛えられ、他の動物とはずば抜けた思考力を手にすることとなった。そうして、人類は発展を続け、文明をもち、文化をもち、たかだか数万年の間に劇的な歴史を刻みながら、現在に至るのである。
このように、長い長い進化の中で誕生した生命、そして我々ヒトだが、その実は絶えず連綿と受け継がれてきた遺伝子・DNAによって誕生し得たのである。そして、海で誕生した生命が徐々に進化を遂げたように、DNAもさまざまな進化を遂げた。環状だったのが線状になって生命の寿命は有限となり、さらに、自身の長さや遺伝情報の内容も刻々と変わっている。しかし、この数十億年の間変わらず、生命の証となるものはDNAである。ということは、アメリカのとある生物学者が記した著書に示されているように、たしかに遺伝子・DNAこそが生命の本質であり、我々の身体はただDNAにとってのビークル (乗り物) にすぎないのかも知れない。
では、生命の本質であるDNAはなぜ誕生したのか。DNA本体には意志があり、何か目的があるのだろうか。否、単なる化学物質であるDNAにはおそらく、我々ヒトのような高次的な認識力や複雑な思考力はない。とすれば、そのDNAを生み出したのは、広大な宇宙の意志に違いない。つまり、我々は宇宙の真理のもとに誕生したということになる。
ではその意志は宇宙のどこから来るのか。我々が存在するこの宇宙とはまた別の宇宙から来るのだ。宇宙は互いに、ワームホールを通じてつながっている。それら別の宇宙の中に、意志・感情などを司る世界であり、スピリチュアル・ワールド (精神世界) と呼ばれるものがある。そのスピリチュアル・ワールドは全宇宙の根幹であり、究極的には我々の宇宙を統治し、我々の心までをも動かしている。ただし、そのスピリチュアル・ワールドのもつ意志は常に同じというわけではない。時によって、変化をしている。その大きな理由は、我々のもつ心がスピリチュアル・ワールドとリンクしており、我々の心によって世界の様相が変わるためだ。つまり、スピリチュアル・ワールドの意志、すなわち真理を知り、その中で自分がどのように思い、行動すればいいのかを知ることこそが、自分の人生を幸福にするもっとも重要な一歩である。
信じられるだろうか。このような話は信じられないと、耳を貸そうとしない人は多いかも知れない。しかし、よく考えてもらいたい。我々ヒトは、その論理的思考からこの世の真理を知るのにとても恵まれた生き物であると同時に、感情の面から、頑なになったりして真実を受け入れられない弱みも持っている。そして、その弱みによって、あなたの心の目は閉ざされてしまっているのだ。“疑う”ことは科学の本質だが、“受け入れない”のとは違う。むしろ“疑いの目”を向けながらも、本当の真実を見極めていくのが科学なのだ。そして、上記のように、我々の幸せも科学で叶えることができる。
ぜひ、大きな力、『絶対科学』の存在を否定しないで欲しい。そして、絶対的な真理の中で正しく生き、幸せな人生を掴んで欲しい。―
ビデオの上映が終わり、さわ子は息をついた。大量の情報を頭にたたきつけられたようで、疲労度がすごい。裏を返せば、それだけ引き込まれる内容だったということだ。
しばらくして、幹部らしき人が壇上に立った。
作品名:【けいおん!小説】 水の螺旋 (第四章・真理) ・上 作家名:竹中 友一