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【けいおん!小説】 水の螺旋 (第四章・真理) ・上

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「みなさん、わが“コスモライフ教”の集会へようこそいらっしゃいました。世界には、多くの宗教がございます。キリスト教、イスラム教、仏教、その他にも、さまざまな教えをもった新興宗教など、その数は数えきれないほどです。しかし、我々コスモライフ教の教えは、それらの宗教とは一線を画しております。それは、サイエンス・科学を基盤として、我々の真理を解き明かそうということです。キリスト教の開祖であるイエスは、絶対的な神の前に人間は平等なのだと説きました。仏教の祖である釈尊は、煩悩にとらわれない生き方こそが、真理なのだと説きました。おそらく、どちらの教えも人が正しい道を生きるという意味では理にかなっており、だからこそ、2000年以上にわたって、全世界で愛されているのだろうと思います。しかし、惜しいかな、彼らは大きな真理を見落としています。それは、この世はサイエンスを基に成り立っているということです。無理もありません。彼らが生きた時代はまだ文明も浅く、サイエンスについて触れる機会がなかったであろうからです。しかし、今は科学の時代です。つまり、今だからこそ、私たちは宇宙の真理に触れることができる。我々はとても恵まれた時代に生まれてきたのだ。そう確信しております」
 この幹部らしき人はひと呼吸おいて、話を続けた。
「幸いなことに、わが教団は多くの優秀な科学の専門家によって支持されています。物理学、化学、地学、生物学、さまざまな分野の大学教授や企業研究者が当教団に入信して下さっています。もちろん、教団のほうも、これらの研究者の研究の援助をしております。特に、今一番力を入れて支援をしている分野は、生物学の分野です。その理由は、生物学は私たちにとって、もっとも身近な学問だからです。もちろん、他の物理・化学・地学といった分野も、とても重要ですから、そちらの援助も決して怠っているわけではありません」
 優秀な学者が支持?さわ子は意外に思った。何となく先入観で、科学と宗教とは相反するものだと思っていた。だが、ここは自らが“科学による真理追究”を唱えているだけではなく、その道の専門家たちさえ支持をしている教団らしい。
「また、今日は集会にはおいでになっていませんが、私の同期の幹部で、優秀な先生がおられます。彼は国立K大学の教授であり、自らの分子細胞生物学の知識・技術を駆使して、なんと精神世界へのリンクを試みておられます。それについての論文もすでに発表され、真実の探求とこの教団の発展に、尽力を尽くしておられます。」
 K大学?K大といえば、私がおとどし受け持った生徒が行ったところじゃないか。当時、わが校から現役でK大に合格したのは、自分が受け持ったその生徒ひとりだけだった。その大学の教授がこの教団の幹部という。さわ子は急に運命めいたものを感じた。
「もちろん、みなさんがわが教えを理解し消化するにあたって、大層に考えていただく必要はありません。当然、宇宙の真理を説いていますから、大きな志を持たれる方にも有効なのは云うまでもありませんが、身近なところにも役立ててもらえればいいのです。日々の生活、夢や目標、恋愛…、このようなものの成功にも、宇宙の真理は関わっています。ですから、大層に考えず、日常生活の些細な悩みを持たれている方も、ぜひこの教えに従っていただければ、きっと成功するはずです!」
 この幹部の人は、最後にこう締めくくった。
「みなさん、偉大な宇宙の真理を感じましょう。そして、前途のある素晴らしい人生を歩みましょう!」
 会場から、割れんばかりの拍手が起こった。集会に集まった人数は、それほど多いわけではない。それなのに、これだけの大きな拍手からして、信者たちの熱心な信仰がうかがえる。
 次にその幹部の号令で、参加者全員でのお祈りが行われた。そのお祈りのポーズは、左右の手をそれぞれ逆の方の肩にあてて腕をクロスさせ、そのまま腰を曲げてかがみこむ、というとても独特なものだった。
 さわ子も他の人々をまねて同じようなポーズをとった。
「絶対なる科学の真理を司る精神世界の意志よ。ここにいる私たちに、安全で希望に満ちた生活を与えたまえ。そして、世界中の人々がひとりでも多く、この宇宙の真理にたどり着けるように…」

 祈りが終わり、会は終了となった。
 さわ子と純は会場の外へ出た。
「どうでした?面白かったでしょ」
 純がさわ子に話しかけた。
「え、ええ。そうね…」
「特にあのお祈りのポーズ。初めて見た時、思わず笑っちゃいましたよ」
 純はへらへらと笑ってみせる。どうやら彼女は、教団に敬意を払う気持ちはないらしい。
「今度はどうするの。また来るつもり?」
「いえ、もういいです。興味本位で来てただけですし。それにああいう小難しい話は、性に合わなくて…」
 純はこれみよがしにあくびをしてみせた。
「サークルの先輩には、丁重にお断りしておきますよ。…あ、先生はどうするんですか?また来ようかと考えてるんですか?」
「私?そ、そうね…。私ももう来ないかな~…?」
「ですよね~。あ、でも次の会には憂を行かせてあげようかな?」
「憂ちゃん?」
「あ、そうか。先生は知らなかったのか。実は憂、唯先輩のことで今ひどく悩んでて」
「え、唯ちゃんのことで?」
「ええ。何かつまらないことなんですけどね。前に1日音信不通になったことがあったらしくて。すぐ帰ってきたし、それ以降何も変なことはないのに、憂ったらそのことをひどく気にしちゃって。『そんなに悩む必要ないじゃん』とも話したんですけど、ずっと落ち込んだままなんですよね」
 さわ子は唯たちが高校1年の頃から軽音部の顧問をしていることもあって、憂とも知り合ってからかれこれ4年になるが、唯のことを支え続ける献身的な妹であった。そんな憂ちゃんが姉のことで心を痛めているなんて、悲しい話だ。
「だから、この集会に憂を勧めてあげようかな、と。気分転換になるかも知れないし。あ、でも今の状態だったら、のめりこんじゃう可能性もあるな。それはちょっとマズいかな…」
 そんな話の後で、ふたりは互いに別々の帰途へついた。
 純にはああ云ったが、さわ子は今回の集会がとても印象深く、また興味深く思えた。
 この世のすべてのことは、宇宙の真理を司る精神世界の意志のもとに成り立っている。そして、今の自分の悩みも、科学的に解決できるかも知れないのだ。


 2


 ゴールデンウィークがあけた翌週の月曜日、和は石山教授の研究室に赴いた。
 研究室の扉ごしに凜を覗くと、彼は自分の研究机で作業中であった。和は扉を開け、凜のもとへ近づいた。凜はマイクロピペットを使って、スライドグラスに少量の液体をスポットしているところだった。近づいてはみたが、実験中の人間に話しかけるのは何だか忍びない気もする。どうしようか迷っていると、
「真鍋くんか」
 実験机のほうに目をやったまま、凜の方から話しかけてきた。
「はい」
「ちょっと待ってくれ。この作業だけやってしまうから」
 凜はそう云って、作業を黙々と始めた。和はその場で凜の作業が終わるのを待った。