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【けいおん!小説】 水の螺旋 (第四章・真理) ・上

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 人の生活を豊かにするために生まれたはずの科学は、時として暴走し人を犠牲にすることもある。今回のケースも、それにあたるような気がしてならない。
 もし、唯に何かあったら…。和はそう思うと、不安で仕方なくなった。
 自ら足を踏み入れた石山教授や凜が危険にさらされるのは、自己責任の問題だ。だが、本来何の関係もないはずの唯を巻き込んだというのを考えると、やはり和は彼らを許せないと思うのであった。


 3


 ゴールデンウィークの翌週、さわ子はまた例の集会場へ来た。
 純には「もう来ない」と云っていたが、どうにも興味を抑えることはできなかった。
 先週と同じように受付を済ませ、集会場へ向かう。集会場の前で、前回と同じスタッフに会った。
「おや、あなたは」
 そのスタッフはさわ子を見てそう云った。多くの信者がいるのに、たった一度来ただけの一般人を一目で判別できるとはすごいな、とさわ子は純粋に感心した。
「また来て下さったということは、この教団に興味がおありなんですね」
「ええ、まあ…」
「それはよかった。どうぞ中へ」
 さわ子はスタッフに誘導されて中に集会室に入った。そして、また前の方の席へ誘導される。さわ子が席へつくと、スタッフは話しかけてきた。
「そうだ。もしよろしければ、後で幹部の人とお話してみませんか?」
 さわ子は驚いてスタッフのほうを見た。
「え、いいんですか。よろしいんでしたら、ぜひお話をうかがってみたいわ」
 さわ子は即答する。
「分かりました。では、幹部の方に伝えておきます」
 スタッフは穏やかな笑顔で会釈をして、去って行った。

 集会が終わった。内容は先週とほぼ同じようなものだったが、ビデオの中身が違っていた。今回のビデオの内容は、スピリチュアル・ワールドの存在を予言し、なおかつその存在を科学的に実証しようと試みるとある生物学研究者の研究実績についての話だった。
集会の後、さっきのスタッフがまたさわ子のもとへやって来た。
「この後、別室で幹部とお話していただきます。こちらへ」
 さわ子はスタッフに案内され、彼の後について歩く。階段を上り、廊下をまっすぐ歩く。つきあたりの部屋でスタッフは止まった。
彼はノックをして、部屋のドアを開ける。「どうぞ」という言葉に誘導されて、さわ子は中に入った。中には、ふたりの男性がいた。ふたりとも、年は同じくらいで初老だが、よくよく見れば、片方の男性は先週・そして今週の集会で、壇上に立っていた男だ。
「この方々がこの教団の幹部の方々です」
 ふたりの男性は、各々の名を名乗った。
「石山です」
「どうも、二葉です。よろしく」
 ひとりは石山、そしてもうひとり、壇上に立っていた男は二葉という名前だという。
「実はこちらの石山さんが、今日のビデオの内容だった、スピリチュアル・ワールドを予言したその人なんですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
 スタッフの言葉に、さわ子は驚きの声をあげる。
「いやいや、僕はあの世界の存在をこの目で確かめようとしているだけだ。あの世界の存在を予言したのは、むしろ二葉くんのほうだよ」
「そんな。私は空想の中のお話くらいに思っていただけだから。はっきり存在するのでは云いだしたのは、やっぱり君のほうだよ」
 ふたりは互いに謙遜を始めた。いずれにせよ、この教団の核となる概念は、このふたりによって提唱されたらしい。ということは、彼らがこの教団の創始者ということになるのだろうか。
「では、私は失礼いたしますので、ごゆっくりとお話ください」
 スタッフはそう云って、ドアを閉めた。
 さわ子は、石山と二葉に勧められて、ソファに座った。石山と二葉は、さわ子と向かいのソファに腰をかける。
「さて、何から話そうかな」
「そうですね。あなたの方から聞きたいことって何かございますか」
「いえ、何も考えていなかったんですけれど」
「そうか。まぁ、そうでしょうねぇ」
「普段は、お仕事は何をされているんですか」
「高校で音楽教師をやっております」
「ほう、先生ですか。実はこの石山くんも先生でね。K大の医学部と理学部の教授を兼任でやっているんですよ。因みに、私、二葉は某献血センターの所長です」
「大学の教授とセンター所長、すごいですね!」
 さわ子は感嘆の声をあげる。
「いやいや、頭脳では石山くんにはかなわないから」
「何をおっしゃいますやら。学生時代、天才の名前を欲しいままにした二葉くんが。あ、我々は大学時代の同期なんですよ」
「まあ、そうなんですね。あ、ところでおふたりがスピリチュアル・ワールドの存在を予言したということは、おふたりのどちらかが教祖さまになるんですか?」
 さわ子の質問に、二葉が腕を左右に振って答える。
「いえいえ。実はね、他の教団と違って、この教団には教祖という立場の人間はいないんですよ。というのは、この教団は我々を含めてスピリチュアル・ワールドの存在を信じ、またそれが世の真理であると確信した人間が数人集まって、幹部として活動をしているものでね。ひとりの絶対的な人間が、すべてを支配する。そういう教団じゃない。ひとりの人間を信仰するのではなく、むしろ信ずるべきは大宇宙の真理であって、それを我々幹部が一丸となって、人々に伝える。そういうスタンスをとっています。だから、教団の方針自体も、ひとりの人間が取り仕切って決めるわけではなく、合議制です」
 次に石山が二葉に続いて説明を加えた。
「そのほうが、公平な布教活動ができますしね。教団の絶対権利者を作ってしまうと、ワンマンになってしまってどうしても教団の方針にかたよりができてしまう。正しい布教でなく、営利の方にも走りやすくもなる。現に、この世界にある殆どの宗教は、本来の教えをないがしろにし、特定の人間の利潤ばかり追求している傾向がありますからね。そうなるのを防ぐ目的もあるわけです」
「なるほど。確かにその方が合理的ではありますね」
 さわ子は感心した。純粋に布教活動に力を入れているように思えたからだ。
 二葉は微笑みながら云う。
「さて、他に話すことは。そうだ、石山くん、君のスピリチュアル・ワールドの研究成果についてお話されてはどうかな。今日の集会での上映の内容でもあったことだし」
「そうだねぇ。そうしようか。それでもよろしいかな」
 石山はさわ子に確認した。さわ子は「ええ」と答えた。
「実はね、先ほどもお話ししたが、あの世界について最初に云いだしたのは、二葉くんなんですよ。この世界とは違う、何か別の世界があるのではないか、とね。はじめも私は半信半疑だったのだが、調べていくうちに、もしかしたらそうかもしれないと思えるようなデータが多く出てきた。それで、本格的に調べてみることにしたんです。その大きな理由のひとつは、意外にもこのテーマに、私の専門である進化学や分子生物学的なアプローチで解明できる部分が多かったということです」