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【Secretシリーズ 7 】 Sunshine ↓

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2章 ドラコの後悔



翌日の早朝、まだ太陽も昇りきっていないうちに、そっと階下へと降りてきたドラコは、大広間のチェアーに座り込んでいるハーマイオニーを見つけて、少し驚いた声を出した。
「―――えっ?ハーマイオニーなのかい?ハリーがここにいると思ったんだけど……」
その声に今までチェアーに座り、ぼんやりと頬杖をついていた彼女は、その泣きはらした瞳で相手を見つめた。

「……ドラコ……」
口の端を上に上げて、一生懸命にハーマイオニーは微笑もうとしていた。
「ハリーがいなくてごめんなさいね。もうハリーはこの家にはいないわ。出て行ってしまったの。また仕事が入ったから、夜遅くに出かけていったわ」
ハーマイオニーはすまなさそうに、ドラコを見つめる。

「本当なの?だって、ハリーは夜中に帰ってきたばかりだったし……」
「ええ、残念だけど事実よ。この部屋で寝ようとしていた所に、わたしが入ってきたの」
「それで?」
「デスイーターに襲われそうな家族のことを話したら、そのあとすぐ休息も取らずに出発したわ」
サバサバとした口調でドラコに心配をかけないように話してはいるが、その語尾は悲しみに震えていた。

ドラコの顔が少し不機嫌になり、相手を少し責めるようなきつい口調になる。
「どうして疲れて帰ってきたばかりのハリーに行かせたんだい?」
ハリーのことを心配するドラコの心中を思って、彼女はうなだれた。
「どうしてって、……仕方がなかったの。潜伏先の家がばれるのは時間の問題だったから、一刻の猶予もなかったわ。それにあの闇の陣営と互角に戦えるのは、ハリーしかいなかったから……、だから彼が行ったの」
また泣きはらしたハーマイオニーの瞳から涙が零れ落ちた。

「――わたしがその場所を教えたから、ハリーは出発したわ……」
後悔が彼女の全身を包んでいる。
「ああ、わたしが言わなければよかった。――でもそれだったらあの家族は……」
ハーマイオニーは自分が決断してしまったことを迷い、ポロポロと涙をこぼした。

「ハリー……、ハリー。本当にごめんなさい」
その震える肩は細くて、あらゆる責任を負わされるのには、あまりにも華奢な姿にドラコはいたたまれない気持ちになる。
涙をこぼし続ける彼女の横に座ると、ハーマイオニーの両手を握り、そっとやさしく囁きかけた。
「どうかお願いだ。泣かないでくれ、ハーマイオニー。君は後悔しなくてもいいんだ。もし僕が君と同じ立場だとしたら、やはりハリーに頼むだろう。ハリーにしか出来ないことは、やはりハリーにしか頼めないからね」
その言葉にうなずくハーマイオニーは涙をいっぱい浮かべた瞳で、ドラコに真剣に言った。

「……わたしやロンはいつも思っていたの……」
長いまつげをふせて、搾り出すような声でハーマイオニーはつぶやく。
「『もうハリーに会えないかもしれない。生きて帰ってきたのは、万に一つの偶然の繰り返しかもしれない。――今度はその偶然や奇跡が起こらないかもしれない』って、いつも恐れていたの」
彼女の細い指先がガクガクと震えた。
その言葉を聞いた途端、ドラコの顔も戸惑ったようにも引きつる。

「……ハリーはね、いつも『僕は英雄なんかになりたいわけじゃない!』と何度も言っていたわ。怒った顔で何度も、わたしやロンに漏らしていたの」
長いあいだいっしょに過ごしてきた親友たちにだけ、ハリーは心の中の弱い部分をさらしていた。

「有名になることも、名を上げることも、ましてや英雄になることなんか、何一つも望んでいないのに、誰かが助け呼べば、どんな危険な場所にも躊躇せずに、自分から進んで向かっていったわ。学生の頃からずっとハリーは、命がいくつあっても足りないような危険な状況から奇跡のように、生徒や魔法界を救っていたけど―――、いったしそれが何になるっていうの!」
彼女は感情を抑えきれずに、泣き伏してしまった。

「いつでもハリーは、疲れたからだを引きずって、たとえ腕が折れていても、やみくもにただ黙々と前に進んでいくの。もう前にしか進めないような顔で、切羽詰った表情で、傷つき血を流しながらでも、前進していったわ。ついて回る栄光は迷惑そうに振り払って、ただ前だけを見て進むの。がむしゃらに──」
ハーマイオニーは苦悶するように眉を寄せた。
「危険な場所へと向かうハリーを、わたしたちだって何度も止めようとしたけど、ハリーはガンとして聞き入れないの、一度だって………」
ハーマイオニーのハリーを思う気持ちは、ドラコにも痛いほど伝わってくる。

「いつもボロボロの傷だらけの死にかけた姿で勝利したって、その先に何もあるはずがないのに。苦痛のほうが遥かに大きいのに。それでも誰かがハリーを呼べば、彼はいつも全力で戦ったの」
彼女はため息とともに呟く。

「『僕はそういうことでしか誰も、自分のことを求めてはくれないから』って、そう言ったの。ハリーは悲しいくらい、自分のことをそう思い込んでいるの」
ポツリとハーマイオニーはつぶやいた。

「ハリーはとてもかわいそうな人なの……」
彼女の瞳から、ポトリとまた涙が零れ落ちる。

「とてもとても悲しい人なの……」


ほほの涙を拭いながら、言葉を続けた。
「わたしたちみんな、ハリーの幸せを願っていたの。誰よりも孤独なハリーのことを思って、いつも心から願っていたの。『どうか、ハリーを幸せにして下さい』って。そのハリーが選んだのがあなただったわ」
泣きながら、笑いながら、ハーマイオニーはドラコの手をぎゅっと握り返して、何度も何度も頭を下げた。

「ありがとう、ドラコ。本当にありがとう。ハリーのことを好きになってくれて、本当にありがとう。私たちはあなたのことをとても感謝しているの。ハリーがあんな満ち足りた顔で笑うなんて、知らなかったわ」
フフフと彼女はくすぐったそうに笑う。

「――別にそんなに感謝されることはないよ。たまたまの偶然が重なって、好きになったのがハリーだった。ただそれだけのことさ。どこにでもある単純な出来事だよ」
ドラコは彼女を安心させるために、ぎこちなく軽い笑みを浮かべた。
そして自分の中に、無理に作った笑顔とは裏腹の、石のように重たくて硬い感情が湧き上がってくる。
ハリーや仲間のことを思うと、とてもじゃないがここにいてはいけないような気分になった。

(自分はなんて愚かな人間なんだろう……)
そう思った途端、ドラコは真っ青になった。

「朝もまだ早いから、ハーマイオニーもまた休むといいよ。僕も部屋に戻るから……」
そう呟くように告げると、ドラコは彼女に背を向けて部屋を出ていく。
ドラコは貧血を起こしかけたような真っ青な顔のまま、階段をゆっくりと昇っていった。