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蠱毒

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「うわ、ドカタ焼けしとるやん」
 勝呂がカッコワル…と小さく舌打ちしながら、半そでを肩まで捲り上げる。午前中のわずかな時間で、Tシャツから覗いていた腕が真っ赤になっている。
「それ、ちゃんと冷やさないと後で痛いわよ」
「あ?」
「日焼けよ。真っ赤じゃない。要は火傷してんのと同じよ?」
 出雲が腕を指差しながら言う。
「大丈夫や、たいしたことあれへん」
 スポーツ飲料を半分飲み干して、残った冷たさをおでこに当てながら勝呂が笑う。
「女と違《ちご》うて、男は日焼けがどーのこーの気にせんからな」
 頭の真ん中だけ金髪に染めた髪の毛をタオルで巻き直す。その首もとには銀のチャームがついたチョーカー、両耳にはたくさんのピアスがつけられている。あごに髭を生やして、目つきの悪い強面の顔と相まって悪そうな外見だが、笑うと普通の少年だった。鼻の頭と頬骨の上が真っ赤だ。そしてタオルを巻いていた額の真ん中くらいから色が違うのは指摘してやるべきだろうか。
「あ、そ。軍手の下は焼けないわね」
 出雲の指摘に、勝呂は慌てて軍手を取る。時すでに遅く、手首から先は面白いほどに真っ白だった。休み時間には取るかぁ、とがっかりした様子で勝呂が呟く。
「使い魔にばっかやっとらんで、お前も飲んどきや」
 出雲が思わず噴き出したのを、聞きとがめた勝呂が釘をさす。
「判ってるわよ」
 グレープフルーツのような、レモンのような、そうでないような味の飲み物を一口嚥下すると、渇きを堪えていた分止まらなくなって、一気に半分ほど空けてしまった。そんな出雲を見ながら俺には判っていた、と言わんばかりの勝呂の表情が憎たらしかった。
「あまっ」
 いかにも気に食わない、と言わんばかりの表情をしてやる。完全な八つ当たりだ。
「味が判らんかったら、もう危ないんや。判って良かったやないか」
 少し眉を顰めるような顔になって勝呂が諫める。ここで「なんやと!」とか言い返してくれれば良いのだが、余程機嫌が悪い時以外は、大抵普通に返されて肩透かしを食らう。見た目と違って真面目でもある。
「ふん。ま、一応感謝しとくわ」
 自分だけがつっかかるのもバカらしくなり、一応は礼を言わねばと思うが、口をつくのは素直でない言葉ばかりだ。
 もう少しくれ、とねだる白狐たちに答えて少し注いでやる。
「どういたしまして、や」
 馬鹿にした顔なのかと思えば、案外真面目な顔で受けられて、出雲は何を言ったらいいか判らなくなった。
「……アンタも日陰入ったら。わざわざ暑いところに居なくたって良いでしょ」
「おう、せやな」

 妙に押し黙った小休憩の後、昼までひとしきり作業をする。勝呂が刈った草を再び猫車に乗せて指定の集積所まで運んで行くと、騎士團が用意した弁当を持ち帰ってきた。
 どうやら今回の「メンテナンス《草むしり》」は、ここ正十字学園町にある日本支部全体で行われているようだ。道理で飲み物や弁当が用意されている訳である。
 鎮守の森の木陰で弁当を食べ終わり、昼休憩に朴からのメールに返事を打っていた出雲は、猫の鳴き声であたりを見回す。
 再び猫の鳴き声が聞こえると、すぐ脇の茂みが揺れて小さな猫が顔を覗かせた。薄汚れていたが、毛並みはぽわぽわした黒、左右の目が青と金色をした猫だった。
 思わず手を伸ばしかけて、素早く勝呂の方を伺う。出雲は猫やかわいいものが大好きだが、構っている所を見られるのはイヤだったからだ。
 勝呂は空き地に近い辺りの木の下に座り込み、ポータブルプレイヤーのイヤホンを耳に付けて、なにやら冊子をめくっている。詠唱騎士《アリア》を目指す少年のことだ。おそらく暗記ノートと自身が吹き込んだ聖書か真言だろう。
 暫くはこちらに気づかないだろう、と判断して、にーにーと鳴く猫に恐る恐る手を出す。
「こわくないでちゅよ~。おいで~」
 猫が差し出した出雲の指に、こわごわながら臭いを嗅ぎに近づいてくる。ひとしきり害がないと判断したのか、ちろり、と指を舐めた。
「キミはどこの子でちゅか~?一人でお散歩でちか?」
 そろそろと猫の顎の下を掻いてやると、ゴロゴロとのどを鳴らし始める。飼い猫にしては首輪もなく汚れすぎだ。しかしノラにしてはずいぶんと警戒心がない。だが、それが嬉しかった。
 ひとしきり撫でてやると、すっかり気を許したのか腹を仰向けにして、撫でろと要求してくる。
「ふあふあ。ふあふあね」
 腹の柔らかい毛を引っかくように撫でてやる。すると、一カ所毛が禿げて地肌が見えている所があった。
「おや、怪我でもしたんでちゅか?」
 よく見れば、あちこちに怪我の跡が見つかる。
 ――縄張り争い…?
 その怪我の部位をさわられるのを嫌ってか、大人しかった猫が、一声威嚇するような声を上げると、するりと出雲の手から逃れた。とてとてと勝呂の方へ近づくと、まるで何か文句でも言うようにけたたましく、にゃーっ!と鳴いて雑草の中へ走り込んでいった。
「なんや、猫居たんか」
 いきなり猫に文句を言われた勝呂は、びっくりしたようにぼそりと呟いて、腕時計を見た。
「そろそろ始めよか」
 午後の日差しは更に暑く痛いほどで、地面からの照り返しで止めどなく汗が滴り落ちる。日焼けを嫌った出雲はジャージの長袖を身に着けている。それが良かったのか悪かったのか。むせ返るような暑さだった。
「なぁ、神木。ちょぉ、見てくれへん」
「え?ナニよ?」
 勝呂がただならぬ様子で手招きをする。彼がしゃがみ込んでいる場所まで見に行くと、雑草を根っこから抜いた跡で少し地面が抉られていた。その周りの土も勢いでめくれたのだろう。少し奥まった所に、明らかな人工物が覗いていた。
「これって…」
 勝呂が鎌を器用に使って、周りの土をどけていく。上部が完全に姿を表すと、地面に埋まった壷と知れる。少し艶のある黒い陶器の丸い肩口が見えていた。口のところが厳重に封がされ、土と経年でボロボロになった紙か何かが貼られて居たようだ。わずかに残った字から出雲は壷の正体を知る。
「蠱毒《こどく》…」
「やっぱり、そんなとこか」
 勝呂が苦々しげに呟く。
 蠱毒は古代に行われた呪法の一つだ。壷の中に虫やは虫類、両生類、それこそ猫、犬、狐などを入れて互いに食い合わせる。その結果生き残った一匹を呪法の要として使う。
「見たところ随分古そうだわ。誰かが呪法を作るのに壷を埋めたまま忘れたのかも…」
「埋め戻すわけにもいかん。かて、単に捨てればエエってもんでもないなぁ」
 蠱毒の壷だけでは呪は完成していない。何が入っていたかは判らないが、おそらく全て死んでしまっているだろう。しかし、行われた手法が凄惨なだけに質の悪い悪魔が憑いていないとも限らない。
「悪いけど誰ぞ先生方に知らせてんか」
 巫女の血筋である神木、そして祓魔専門の明陀宗の宗家の血筋に生まれた勝呂。自分たちには、習った以上の多少の知識がある。しかし、これは自分たちの生半可な知識と力で何とかして良い状況とは思えなかった。明らかな被害が見あたらない今であれば、本部や他の祓魔師達に知らせて、きちんと適切な対処をするべきだった。
「アタシが残るわよ。アンタの方が早いでしょ」
作品名:蠱毒 作家名:せんり