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蠱毒

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「お前の方が知識あるやろ。少なくとも仏教系の俺よりは用意やなんかで役に立つはずや」
「キモっ!アンタがそんなこと言うなんて、何の前触れ…」
「この事態にそんなこと言うとる場合か、アホぅ!…エエから頼むわ」
 反論しかけた出雲の勢いが削がれる。一瞬、頼む、と言われた言葉に応えたくなったのだ。だがすぐに意地っ張りの面が首をもたげて来る。上手く操られたようで気に食わない。だが、と思い直す。今は一刻を争っている場合ではなかった。
 乗せられたフリをしといてやるわよ。
「判った。片方残してく。保食《ウケ》頼んだわよ!」
「はいはい~」
 動かなくて良くなった白狐は嬉々として答えた。
 じゃあ、我も…と言って残ろうとする御饌津《ミケ》を一睨みする。
「じゃが、何やら先ほどから気配がおかしいぞ。我ら残った方が良いのではないか」
 一瞬迷った出雲を、勝呂が大丈夫だと言う。
「お前も念のため一匹連れて行きや。こっちが手ぇ出さんかったら、向こうも暫くは悪させんやろ。何ぞあっても自分のこと位は何とかしたるわ」
 勝呂がジャージのポケットからいつも持ち歩いている数珠を取り出して手首にかける。
 さすがに祓魔塾でも成績が優秀なだけある。自分が見つけてしまったものが何なのか、的確に理解している。そして、自分が出来ること出来ないことの判断も。
「あ…、アンタも十分気をつけなさいよ。見たところ封印が外れてる。外に出てるかも知れない」
 勝呂が一つ頷いたのを見て、出雲は空き地から走り出した。
「汝《うぬ》、我らが言ったこと、忘れておろう」
「なに!?」
 出雲の傍らを走る狐が息も切らさず言う。首の周りに巻かれた布が、はたはたと翻る。自分の荒い息づかいがうるさかった。白いキャンバス地に正十字騎士團と書かれたテントがぽつりと見えた。
 今日は正十字学園町のあちこちにこうしたテントが中継所として立てられ、その近辺に散らばって「草むしり」をさせられている皆に飲み物を配ったり、弁当を手配したり、いろいろ連絡伝達を行っている。その最寄りのテントまで駆けてきたはずだが、意外に遠い。
「なに、ではない。今朝方あそこはおかしな気配があると言ったであろう」
 言われてみれば確かにそんなことを言われたような気がする。使い魔の癖に自分が動くのが嫌いな狐が言い訳しているとしか考えていなかったのだ。
「気配が強まっておる。早く戻らねばあの少年、危ないやも知れんぞ」
 したり顔で忠告する狐の言葉に、なにやら含みを感じて出雲は苛立つ。保食《ウケ》の方はもう少し単純と言うか、御饌津《ミケ》に引きずられるお調子者で、一匹では命令に反論したりしない。だが、御饌津《ミケ》の方は反抗的で腹の底で何を思っているか、いまいち掴みづらい使い魔だった。
 にやり、と白狐が笑う。
「あの少年、なかなか肝が据わっておる。気に入った」
 前にも奥村燐や、その弟であり祓魔師の講師でもある奥村雪男、果ては三輪子猫丸についても、なにやら含みのある発言を繰り返している。それに対して出雲は同じ返答をしているのに、全く学習していない。
「あ、そう。気に入ったんなら、あんたが先に行って事情説明してきなさいよ」
 悪魔と言えど、そこまで頭が良い訳ではないと言うことか。出雲の反論が想定外だったのか、びっくりした顔をしている。
「いや、我はな…」
「アンタが気に入ったんなら、アンタが急を知らせるべきでしょ?」
「あ、いや…」
「さっさと行け!」
 きゃ、と叫んで使い魔が弾かれたように走り去っていく。
 出雲は御饌津《ミケ》の言った懸念を心配しつつ、心の中で悪態を吐いた。

 にゃー、と猫の鳴き声がする。
 それと共に、風が吹いてくる。ざわりざわりと鎮守の森の枝葉を揺らす。見る間にあれだけ晴れていた空に重い雲が掛かっていく。
「いやな風やな…」
 勝呂がそう呟いて空き地を見回す。
「変なのがいるよ」
 保食《ウケ》と名乗った使い魔が、勝呂の足下に身をすり寄せる。
「変なの?」
 思考を遮るように、足下でにゃーと鳴き声があがる。
「なんや、さっきの猫やないか」
 黒の毛糸の固まりのような小さい猫が、青と金色のまなざしで勝呂を見上げる。
 脅かさないようにそろりとしゃがみ込んで、勝呂はちょっちょっ、と呼びながらゆっくりと手を出す。マイ猫じゃらしを常に持っている子猫丸ほどではないが、勝呂も猫を構うのは好きだった。ふんふんと鼻をひくつかせて、興味深げに勝呂の指の匂いを嗅ごうと猫が近づいてくる。
 ふと反対の手を地面に突こうと手を伸ばした勝呂の腕が、保食《ウケ》の逆立った毛並みに触れた。白狐は毛を逆立てたまま、固まってしまったかのように座り込んでいる。
「なんや、お前どうしたんや?」
 大丈夫か?と白狐の方に気を取られていると、猫の方に伸ばしていた指先に痛みを感じた。
「イテっ…」
 反射的に手を引く。見れば、指先に薄く筋が走ってぷつぷつと血が滲んできた。爪で引っかかれたようだ。使い魔がガタガタと震えながら呟く。
「コイツだ…」
「何が」
「へんなの」
「!」
 直ぐに勝呂は数珠を手に、真言を唱え始める。猫が威嚇するようなシャーっと言う鳴き声をあげると同時に、強烈な瘴気が押し寄せる。が、間一髪で『被申護身《ひこうごしん》の印』が跳ね返した。

「ちょっと!ナニぼけっとしてんの!先に知らせろって言ったでしょ?」
 中継所である正十字騎士團のテントまで後少し、と言う所で御饌津《ミケ》が固まったように動かない。しかも、全身の毛が逆立っている。
「あやつ、なかなか手強いぞ。保食《ウケ》がひどく怯えておる。早う戻らねば危ない」
 がたがたと震えながら、片割れが呟く。
「ああ、もうっ!」
 出雲がテントへ走り込んでいく。都合の良いことに奥村雪男が居た。
「奥村先生!」
 ただならぬ出雲の気配に振り向いた雪男に事情を説明する。
「それはマズイですね」
「使い魔が怯えていますので、残留思念に悪魔が憑いている可能性は高いと思います。霊《ゴースト》か屍《グール》か…。そもそもが残虐な手法ですから…」
 もっと格上の悪魔がそれに惹かれてきてもおかしくなかった。
 神木の訴えに、雪男はたまたまテントに居た祓魔師達と相談を始める。出雲は焦りのあまり地団駄を踏みたい気持ちだったが、ぐっと堪える。仮にも相手はプロの祓魔師だ。それでも、現場に残してきた勝呂と使い魔が心配だった。
「よし。仁科さん、総本部に緊急事態《スクランブル》、援護隊の召集と派遣要請を願います。念のため第二級装備で。できれば陰陽系の祓魔師を最優先して集めてください。橘さんは他の中継所から人手を募って、敷地の半径2kmまでの封鎖と一般人の避難誘導を願います。増子さんは封鎖地点に医工騎士《ドクター》を待機させてください。僕は先に現場に行きます」
 てきぱきと指示を出した雪男は、いつも携帯している銃への装弾と予備を確認すると、こう言う事態を多少想定していたのか、聖水入り手榴弾などの細々とした道具の入った袋を背負った。
「さ、行きましょう」
 二人は走り出す。その前を先導するように、白狐が滑るように駆ける。
「嫌な空になってきましたね…」
作品名:蠱毒 作家名:せんり