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泡沫の恋 前編

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 それとも、と静雄は考える。
 自分たちは気持ちのベクトルをずっと間違えていただけだったのだろうか。
 この10年というもの。ずっと? ずっと。
 だけど、と静雄は思う。
 きっとそれは大事な10年だったのだろう。
 その時間があったからこそ、今ここにこうしていられるような気がする。

「俺」
「・・・・・・」

 静雄は小さくつぶやく。
 臨也は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、静雄の隣に座りなおした。

「まだ言ってないよな」

 何を、と臨也は聞かなかった。問いかける声ももうなかったけれど。
 静雄もカフェオレを置くと、臨也のほうに向きなおる。

「俺、は」
「・・・・・・」
「正直言って、まだよく・・・わかんねーんだ」

 そう言って俯く静雄の手を、臨也はそっと握る。
 臨也は何も言わない。言葉の続きを促すようなことはしなかった。
 静雄は少し黙って、それから臨也のほうを向いた。

「悪ぃ・・・だって、こういうの、初めてだ」
「・・・・・・」
「でも、今、こうしてると・・・なんかすげえ、幸せだって」

 これが。
 この気持ちが、恋だというのならば。

「好き、とか。良くわかんねーし・・・う、うまく言えねーけど」
「・・・・・・」

 そう言って静雄はまた視線を下げた。
 臨也が触れている場所は温かくて心地よい。
 ずっとこうしていたい、と思った。

「お、俺は・・・臨也、」
「・・・・・・」

 その唇を臨也が遮った。触れるだけのキスをして離れていく。
 無理に言わなくていいよ、と言われている気がした。
 静雄はそれに流されてしまいたいと思った。
 好き、とか。そんな気持ちはわからなかった。
 幼いころにほのかに恋心を抱いたことはある。
 けれど、これはそんなあまやかで淡い気持ではなかった。
 激しい。
 泣きそうなほど幸せで、苦しいほど切ない。
 悪いことをした、臨也に対して。声を取り上げるなんて。
 そう思う気持ちはあるのに、そう思っているのに。その気持ちは嘘じゃないのに。
 それを嬉しいと感じる黒い自分もいる。昏い黒い優越感。
 こんな。こんな汚れた気持ちでいいのか。
 恋とは、もっと優しいものではなかったのか。
 それでもこの気持ちが恋だというのならば。
 自分は、伝えなければいけない。

「好き、」
「・・・・・・」
「・・・だと、思う」

 何とも曖昧な言葉になってしまった。けれどこれが限界だった。
 自分で自分が分からない。恋の意味も知らない。
 わからないけれど、何かを臨也に伝えたかった。

「・・・・・・」

 臨也はありがとう、と静雄に伝えた。伝わった。
 それからふわりと笑う。綺麗な顔をしていたんだな、と静雄は初めてそう思った。

作品名:泡沫の恋 前編 作家名:774