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ファーストネイション(北米兄弟)

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 俺と同じ姿なのに、というアメリカのカナダを見る顔は、興味深げなによによとするものだ。
「そうだな、キミになら、見せてあげてもいいかな。」
 アメリカは勝手に話を進めると、ダイニングにも入りこむ。そしてテーブルの上のホットケーキに、ワオ! と喜びの声を上げると、カナダが座っていた椅子に着いて、食べかけだったそれを口に運ぶ。
「おいしい! これはすんごい“おいしい”じゃないか!!」
 大きく喜ばれてカナダは驚いたが、喜ばれて悪い気のする者はいない。
「そ、そう?」
 カナダは嬉しそうに返事をすると、もっと食べるかい? とアメリカに聞く。返事はもちろんイエスだ。
 カナダはどんどんパンケーキを焼いていく。それは5段、7段と増えて行くが、それ以上のスピードでアメリカは食べて、3段、1段と減らしていく。
「うん、もう大満足だ、食べられないんだぞ。」
 小さなお腹を満月のようにこんもりと膨らまして告げる。カナダは慌てて焼くのを中止したが、アメリカの食べるスピードに合わせていたので、それでもパンケーキは7つも残る事になってしまった。
「うん、これはもってこいだ。残りは包んでくれないか? 今晩はこれも持って行こう。」
「今晩? 一体どこに行くって言うのさ。」
 アメリカは片眼をつむり、しー、と唇の前に指を一本立たせる。
「俺んトコの大地の“源”さ。」


 

 月が中天に差し掛かる頃、それまでごろごろしていたアメリカは突然、本を読もうとしていたカナダの腕を引いて、玄関から出た。彼が訪れた時には気付かなかったが、玄関脇には大きな牙が生えて鼻息も荒そうな、茶色い大きなバッファローが二頭ゆったりと寝そべっていた。
「これ、昼間食べていた生き物じゃないか!?」
「あぁ、そうさ!」
 カナダの言葉にアメリカは得意げ胸を反らす。
「乗り物にもなるし、食物にもなる。とても有意義にこの大地を繋げる生き物、“聖牛”さ。」
 アメリカはそのバッファローに近づくと、その大きな背に積んでいた薄い荷物を解く。中は衣服らしく、それをカナダに渡した。
「これ、どうやって着るんだい?」
 広げれば台形の形をした真っ白な布で、底辺の裾には赤と緑の刺繍が施されている。見れば、アメリカもそれを手にしており、被りだしていた。カナダも同じように被れば、アメリカはうんうんと満足げに頷く。
「さぁ、キミはそっちに乗るといい。」
 アメリカは荷物の乗っていたバッファローに跨る。
「クマ二郎さんもいいかな?」
「クマ?」
 アメリカは直ぐに、あの真っ白な神の使いか、と返事をする。
「勿論だよ。俺の大地を理解できる者は、大歓迎だ!」
 カナダは家に入り、子クマを抱えると、ついでにフランスから贈られたゴーグルを掴んで、それは衣服の下に隠れるように首から提げた。
「よし、準備はできたな。出発するぞ。」
 アメリカの言葉に二頭の聖牛は身体を起こす。のしのしと、北極星と北斗七星を背にして歩き出した。


 季節は初夏のはずだったが、いつしかひんやりとした空気が頬と髪を撫でていく。しかしそれは嫌なものではなく、昼間遊んだ熱を心地よく冷ますようなものだった。それを感じるのは頭部だけで、衣服越しには全くそのひんやりさは感じない。
「これはそこに行く為の聖なる衣服だからね。影響を全く受けないんだ。」
 カナダの無言の疑問に、アメリカは得意げにそれを言う。
 続いて薄い霧が二人を囲い込みだす。それは徐々に濃くなり視界を奪い、ついには乗る牛の頭さえ見えなくなったが、二人が乗る聖牛の足取りは、全く迷いが生じられない。その濃霧の中から再びアメリカの声がする。視覚がない事も手伝って、それはふわふわと奇妙に響いていきた。
「大丈夫大丈夫。こいつに任せて乗っていれば、どこにも魂を置いていきやしない。ちゃんと大地を感じながら、一緒に進む事ができる。」
 アメリカはなんとも不思議な事を言うが、カナダにはそれが“馬車とは違う”と理解した。
 昼間に乗った馬車はとても速かった。そう、カナダの中身がついてこれないくらいに。
 カナダはその跨る聖牛に意識を張ろうと試みる。だがそれよりも先に、地面から這い上がるような強い気配が、聖牛を通して自分の中へと流れ込んでくる。すると目ではなく“感覚”で、この濃霧の中が見えてきた。
 前方は右側にアメリカと聖牛が見えてくる。そのアメリカの髪は金色ではなく、黒く、たゆたうような長さになり、頭には、白い羽が扇のように何本も連なり拡がる、不思議な飾りを着けている。首には銀細工の首飾りが彼を守るように垂れ、着る衣服も白ではなく、明るい黄土色になり、裾の模様も変化しながらふわふわと浮かび上がって、そこからは、この大地の歴史を記した、一大叙事詩が薄らと読み取れる。そしてその裾には細かな銀細工が鈴のように連なっており、聖牛の歩みと共にそれはしゃらしゃらと、涼やかな音色を辺りに響かせる。
『オイ、コッチノえねるぎーは、桁外レダゾ。』
 子グマは初めて感じる強い力に、武者震いのような興奮の震えを現わしだす。
 カナダはちり、火花のような熱を眉間に感じて、そこをパシンと手のひらで叩いた。大きな虫がいるみたい、と眼を護るために、胸に隠していたゴーグルを着けた。
 目の前には、濃いオレンジ色の、小さな半透明のトカゲが飛翔していた。その尻尾は黒く煤けていて、それはカナダと目が合った事に驚くと、ひょうっと飛び消えた。
「サラマンダーだよ。火竜さ。」
 アメリカは振り返り、それを告げる。濃霧に関わらず、彼もまたカナダが見えているらしい。そのアメリカの顔は、陽をたくさん浴びたような淡い小麦色で、赤と白の化粧が施されていた。そしてその瞳は、青じゃなく、赤みを帯びている。
“キミにももう付いてるよ。仕上げでキミが叩いたから、ちょっと潰れているけどね。”と言われ、驚いて叩いた手を見れば、おしろいのような粉がついていた。ひょっとして、と懐の子グマの顔を見れば、彼の顔には、鼻を中心に太陽のような絵が描かれ、そこから迸り揺れるような放射の線が、その顔周りに彩られている。
『……念ノ為ニ聞クガ、オ前誰ダ?』
 子グマはカナダを見つめ返してそう聞いてくる。まじまじとその子グマの瞳を見つめれば、そこには瞳こそ紫だが、アメリカと同じに頭髪は黒く、肌も小麦色で、彩られた顔が映っていた。
「カナダだよ、……多分。」


 濃霧の中に、より密度の高い白い物、煙が混ざりだす。それが孕む甘い匂いは、カナダは初めて嗅ぐもので、思わずくしゃみをして俯けば、聖牛の足元、すぐ脇を小さく白い“揺らぎ”がふよふよと行列して一緒に歩いているのに気づく。それは反対側もで、二人の歩きを守るように、またその道を表すように、ずっと続いて行進しているようだった。
「この大地に生きていた炎なんだぞ。」
 アメリカは言葉を続ける。
“さっきのサラマンダーのように形があるのは、相当強いか消えたばかりのもので、多くはこうして元始の小さな炎に戻る。普段は隠れているけど、今日は僕の片割れが来たから、喜んで出迎えてくれてるんだぞ。“と。
「普段はアーサーに気づかれないように、僕が彼らを隠しているんだ。」