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ファーストネイション(北米兄弟)

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 こうやってね。とアメリカは目の前にきたその光の玉を、パン! と手を打合せて潰してしまう。光の玉は弾け、ぱらと細かな火花を散らす。
「あのイギリス人、この大地で形を持つ生き物を、野蛮で乱暴だって言うんだよ! そりゃ初めての時、彼の炎に俺んトコのが飛びついたさ。でもそれをショットガンで撃ち抜くなんて、ないと思わないか?」
“皆生きている。食い、食われるのは自然の流れだ。その流れを、あんな自然物ではないもので乱すなんて、最悪だ!”
 アメリカはぽこぽこと怒っている。気づけば両脇の“揺らぎ”は、低く唸る四足のコヨーテや、ワニ、大きなコモドドラゴンなどの、一般的には“恐ろしい”とされる生き物の姿に代わっていた。
「もうすぐスエットロッジに着く。そこに着く前にはみんな、こっちの世界で生きた姿になる。」
 最も、その姿になりたいとそれが望んでいる場合に限るけどね。と、その両脇を歩く生き物達に、アメリカは恐れる事無く、微笑みを向けた。


 着いた場所は不思議な場所だった。そこは洞窟の入り口で、そこからは、この周りとは比べ物にならない濃い霧……水蒸気が、そこから噴霧していた。
 まずアメリカが、恐れることなくその中へと進む。カナダはゴーグルを付け直して、寝そべるように聖牛の首にしっかりと腕を回すと、首を縮こませてその水蒸気を覚悟した。
 ――うわ!
 視界ゼロの、湿った熱風が自分と子グマへと吹きつける。目を凝らせば、黒や赤の、嫌な気配のする煙が、すごい勢いで横をすっとんでいく。カナダからも、重たくべっとりとした、嫌な何かが、ずるりと抜けて後ろへすっ飛んでいく。
『コレハ凄イゾ、垢落トシダ。』
 懐の子グマからそんな意識が飛んでくる。カナダは目を凝らして先を見たが、やはり大量の水蒸気で何もみえない。それは薬草を梳いているのか、とても爽やかな香りが自分に吹き付けるのを感じた。
「やぁいらっしゃい。ここがその場所さ。」
 一足先についたアメリカの髪は、つやつやと濡れて、少し長くなっている。肌も同じようにつやつやふっくらとしているのに、あの不思議な衣服は全く湿っていないようだ。
 そこは円形のドーム型で相当広く、回りの岩壁と地面の境目からは、さっきの水蒸気がすごい勢いで吹き出し続け、その壁に沿って上へ上へと昇っている。天井の真上だけは大きくぽっかり空いており、そこから水蒸気は逃げて、中央は紺碧の空と共に、大きな丸い、金色の月が、この場所を照らしていた。
「本当は太陽が昇る頃が一番いんだけど、あのイギリス人に見つかっちゃうからなぁ。」
 アメリカは聖牛から降りると、一番奥へと歩く。水蒸気の壁際には、列にいた生き物達と、見た事もない不思議な生き物……イギリスの“妖精”と一部似通った生き物達もが、険しいとも取れる真面目な顔立ちで、石像のように身じろぎもせず座っている。
 ぴんと張られた気配。場は厳粛さが漂っており、吠えるものも、唸るものもいない。草食のウサギと肉食のコンドルが隣り合って座っている。
「早くカナダも来るんだぞ。」
 曇ったゴーグルを拭いながら付け直し、カナダは聖牛を降りる。
『ココ、山ノ上ダゾ』
 懐の子グマの言葉に、カナダは頷く。
 アメリカが座る一番奥の、その先の上座には、一際大きなゆらぐ塊が鎮座していた。相当強い光を放っているのがゴーグル越しにもわかる。
 恐る恐る進み出て、アメリカの隣に座る。アメリカは、自分のテリトリー内である事も手伝って、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべている。
 気付けば、通ってきた中央の地面には、沢山の小皿が、色々なものを乗せて置かれていた。アメリカはそのうちの一つ、黄色い粒の乗った皿を取ると、カナダに渡した。
「食べるといい。この大地で取れたものだ。トウモロコシ、って言って、太陽と大地の恵みで育った物で、口にする事でその力を得られる。」
 カナダは一粒摘まんで口に運ぶ。仄かに甘みがあって美味しい。カナダはそれを子グマにも食べさせる。子グマはうんうんと頷いて咀嚼する。気付けばアメリカは細長いパイプを手にし、カナダの食べる様をにこにこと見ていた。
 カナダがそれを食べ終わったのを見て、空いた片手を、地面に置かれた沢山の皿を自慢するように手を広げる。そして懐に手を入れると、カナダの焼いたパンケーキを取り出した。すると、先ほどのサラマンダーがアメリカの背中から表れる。それはするするとアメリカの腕を歩き、パンケーキを一口かじった。サラマンダーは美味しいというように、口から小さな炎を吐いた。
 アメリカはうんと一つ頷くと、カナダから空いた皿を受取り、それを乗せて地面に置く。この場に用意された物の一つにした。
「大小様々で色も形も様々だけど、全部が食べ物なワケじゃないん。たとえばこれ。」
 アメリカの手にした皿は、黒い水の入った皿だった。
「これは、燃える水、さ。」
 サラマンダーはそれを察して、尻尾の先を皿の中の水に浸した。するとその皿はごぉっと燃え上がった。
「HAHAHA! 面白いだろう? これは、彼らと、この大地の血さ。」
 


「俺達は死ぬ、必ず死ぬ。」
 そう言ってアメリカは、パイプの先から煙をくゆらせながら、膝に移った小さなサラマンダーの背中を指先で撫でる。
「けれど、俺自身は死なない。そう、俺はこの大地自身だから。カナダは俺の言ってる意味、当然わかるよね?」
 カナダは子グマを抱いてこくこくと頷く。
「そう、今俺達の周りに集ってくれている仲間は、元はかの方と、」
 アメリカは一番上座にいる白い光の固まりをちらと見て微笑む。
「同じ姿……ううん、この塊の一つだったんだ。だが、ある事が起きて、最初に俺がかの方から分かたれた。
 かの方は、それを悲しむ事もなく、”俺”の形成を手伝って下さった。その為にかの方は、他のあまたも自ら分かち、俺よりも先に彼らが希望する形を形成した。それが、ここに集まっている彼らさ。」
 さぁこれを食べてくれ、と出された皿には、昼間に食べたバッファローとは違う、別の生き物の、火の通った白い肉が乗っている。
「ご名答、これは俺達に、食べられる、を選んで成った生き物だ。」
「た、食べられる!?」
 カナダの素っ頓狂な声に、アメリカはHAHAHAと又笑う。
「そうさ、彼はわざわざ僕達に食べられる為に、その形を望んだんだ。」
 “彼の思いをムダにしてはいけない。”とアメリカは姿勢を正して、まずは自分からその肉を口へと一つ運ぶ。カナダもおそるおそると言った風に、それを一つ口へ運んだ。
 バッファローとは違う歯ごたえとうま味。柔らかく、噛むと、脳にじんとしみるような、独特の甘みが広がった。
「……こっちのが柔らかくて、おいしい。臭みもないね。」
 昼間家に帰ったとき、クマ二郎が「くさい」と言った事に納得する。昼間に食べた肉は、塩と胡椒で味覚を目くらまししていたが、食べたからだからは、その匂いが立っていた事に気づいた。