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ファーストネイション(北米兄弟)

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 新しい光とその温み、輝きを身体中に感じて、マシューはいよいよ夢中に、アルの大地の命を次々と飲み込む。それを一つたりともこぼさぬように、パイプをゆっくり、そして大きく吸いこみだす。
「ま、マシュー、マシュー!」
 懐の子グマは、自分の知る“カナダ”が自分の知らぬ形を取り出そうとする事に、未知への恐れを感じ始める。事実、カナダの肌には褐色が沈着しはじめ、まだ子供のはずの肌は、ぴんと張りを持った少年のものへと成長していく。柔らかい髪も、アルフレッドと同じような、芯のある硬いしっかりとしたものになりだしている。
「マ、ムグ!」
「子グマ、ちょっとうるさいんだぞ。」
 アルは子グマの口を塞いだ。アメリカのこの行為はクマ二郎は、カナダに対してこれはいい事ではないのでは、と決定を下した。
 ――アノダメナ時期ヲ乗リ越エル為ニ、ましゅーヲ魂ノ預ケ処ニシヨウトシテイル……!?
 クマ二郎がいよいよ本気で暴れる前に、アルはクマ二郎をマシューの懐からひょいと取り上げた。マシューは自分の懐がぽっかり空いても、それに気付かず、恍惚とパイプを吸い続けている。
「むっごー! むっごー!:
 クマ二郎は暴れるが、それ以上の力で、アルはクマ二郎を抱きしめる。
 “ましゅー!!”
 クマ二郎は心を使って叫ぶが、マシューは心を返さない。変わらない顔つきから、届いているかさえも疑問だ。
 マシューの吸うパイプの先からでるゆらぎと煌めきは、徐々に少なく、薄くなっている。けれどアルは慌てる事なく、むしろその様を嬉しそうに見守っている。掬ったあの塊、この大地の全てのゆらぎを、マシューが飲み終えようとしているのがわかった。
 “ましゅー!!”
 クマ二郎の叫びと同時に、大きな地響きが背後を中心に起きた。それと同時にアルの力がふっと抜ける。クマ二郎は身をよじらせて後ろの大きな揺らぎへと振り返れば、それは根元に大きな何かが突き刺さり、真っ二つに裂けていた。湯気さえ割るように、その岩壁に突き刺さるものは、大きな五角形の黄色い……?
「おおらぁ! 夜まで起きでる悪い子はいねがぁ!!」
 泥酔のおかしな鷹揚、半ば呂律の回っていない言葉。
「最悪なんだぞ……!」
 アルは、アメリカは青ざめる。クマ二郎は懐から飛び出て、カナダのくわえる、揺らぎの細くなったパイプを叩き落した。
 アメリカはshit!と叫んでそのパイプを拾い上げる。褐色の肌になったカナダとは反対に、アメリカの外見は、元の金髪碧眼で、髪も短く、肌も薄い赤みを帯びるまっ白な肌に戻っている。
「お前……アメリカぁ……夜は早く寝ろっつったろぉ……!」
 現れたのは、焦点の合わない瞳で、半裸というかむしろ全裸に近い、太い眉も印象的な、イギリスの姿だ。
「いねぇと思ったら、こんな山の天辺でキャンプファイヤーか! そういう時は俺も混ぜろって、いや、保護者抜きですんなっつったろうが!!」
 半裸のイギリス紳士の手には、五角形の黄色い星?が先につく、細身のステッキが握られている。彼はそれを大きく振りあげ、ほあた☆と不思議な掛け声とともにそれを横へと薙ぎ払った。
 そこから生じた衝撃波が、岩壁を登る水蒸気を横一閃に切り裂いた。
 クマ二郎は身を伏せおろおろとしつつも、まだ恍惚とするマシューの裾を引っ張り身を伏せさせる。
「ん、お前誰だ? 見かけない子だな。……もしかして、新しい大地か!??!?!」
 イギリスは酒臭い息を嬉しそうに荒く吐くと、クマ二郎とマシューへと近づいてくる。
「起キロ! 起キロ! ましゅー!」
 クマ二郎はびびびとその頬を叩くが、カナダは体に溢れるあまたの命の膨らみと輝きに、満足げなとろんとした表情のまま、げっぷを出しただけだ
「んだぁ? お前、何か食ったのか??」
 半裸の紳士はゆらりとカナダに近づくと、その胴体をひょいと持ち上げて顔を向かせる。カナダの肌はまだ小麦色で、顔の模様も消えていない。
「?? もしかして、カナダか??」
 そこで紳士はアハッハッハっー! と高笑いをする。
「イカした模様じゃねぇか! そうか、今日はここで仮装パーティーか!!!!!!」
 イギリスはまた杖を振り上げようとする。アメリカは急いでパイプの中に違う石炭を入れて、サラマンダーへと向けた。
「! こらぁ! 俺のスコーンをそン中に入れてんじゃねぇぞぉ! ばかぁ!!」
 イギリスは杖をアメリカへと振り下した。
“ほぁた★”はパイプへと走り、中の石炭に直撃すると、その石炭はもりもりと、分裂し始める。アメリカはそれを落としそうになるが、なんとか落とさずに済んだ。
「増えただけなら、チャンスなんだぞ!」
 サラマンダーがその石炭に尻尾を向けた。アルは一気に空気を吸い込み燃焼を試みたが、アルの肺腑に入ってきたのは、黒こげスコーンの息吹だった!
「ぶっは! なな、なんだっこれっ!!」
「あったりめぇだ! スコーンは喫むもんじゃなく、食べるもんだ!」
 イギリスはアメリカからパイプを取り上げると、火の灯った真っ赤な石炭を躊躇することなく鷲掴む、じゅう、と肉の焼ける嫌な匂いと音が立つが、イギリスはものともせず、それにがりと歯をたてる。
 ごりっごりっという、岩を食べているとしか思えない咀嚼音。
「うん、うまい! やはりスコーンはイギリスが誇る最高の茶菓子だな!」
 その光景にサラマンダーはぶるぶると震えて、岩壁の隙間に逃げ込んだ。気付けば、全ての生き物達はとうに煙のように消えており、この場には、アメリカとカナダ、子グマに、イギリスだけが残っている。
「さてと、アメリカ……あんなにタバコはダメって言ってんのに、又喫煙しやがってたなぁ……?」
「う……、も、もうお尻ぺんぺんなんて食らわないんだぞ!!」
 アメリカは膝に残っていたバジリスクを強く掴むと、その口から出る液体をイギリスに吐き付けた。
 イギリスの右顔に、べっとりと粘度の高い、白く濁った液体が掛かる。
「うわぁ!?」
「バジリスクの唾液は猛毒なんだぞ! 治療薬が欲しかったら、とりあえずこの神聖な場所から出るんだな!」
 イギリスはふんと顔を横に振る。するとその粘液質の猛毒は、スライム状のままべとっと、2m先の横壁に吹っ飛んだ。
「な……!?」
「お前……ガキのいたずらにしても、やっていい事と悪い事があんぞぉ……!?!?!?!」
 イギリスは酒で赤くなった顔を憤怒でいよいよ赤くして、高速でぶんぶんと、腕も見えない速さでステッキの素振りを行いながら、一歩、また一歩とアメリカに近づく。
「う、うわああああ! ごめっごめんなさっ……!」
 そのイギリスの様子にバジリスクも恐怖に脂汗を分泌し、アメリカの手からぬるりと逃げる。アメリカも後ろへと下がり逃げよるが、その足は恐怖に震え、思うように動かない。
「お尻ぺんぺんじゃー!!!!!」
「う、うわあああ!!」
 顔から出る体液を全部出すアメリカの衣服を掴み、持ち上げると、片膝をついてそこに乗せ、衣服の裾を捲り上げて、尻をパシィンパシィンと叩き始める。
「ごめ、ごめんなさぁぁぁい!!!」