泡沫の恋 後編
その気持ちに嘘はなかった。
けれどもう、一緒にはいられない。
不信や裏切りや、それとも他の何かで離れてしまったというのならば。
自分はどんなことでもするだろう。どんなことをしてもこの手に静雄を取り戻す。
けれど。
静雄の中で『なかったこと』になってしまったというのならば、もう足掻きようはないのだ。
今の自分に選べる道は二つだ。そう臨也は思う。
ひとつは臨也の心の中の『静雄』を殺して、今までの『日常』に帰ること。
もうひとつは、この恋心を抱いたまま、『静雄』の前から消えてしまうこと。
どちらも選べない、選びたくはない。けれど。
もう『日常』には戻れない。それだけは知っていた。
静雄との時間を、『なかったこと』になんてできなかった。
だから臨也は、もうひとつのほうしか選べなかった。
静雄と過ごした時間を忘れられないのなら、静雄の前から消えるしかない。
もう、静雄との『日常』に、傷つけ合い憎み合う『日常』には戻れないのだから。
自分がその『日常』より、消えるほかはない。
さよなら、シズちゃん。
そう臨也は囁くと、静雄の部屋の扉を閉めた。