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泡沫の恋 後編

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 その気持ちに嘘はなかった。
 けれどもう、一緒にはいられない。
 不信や裏切りや、それとも他の何かで離れてしまったというのならば。
 自分はどんなことでもするだろう。どんなことをしてもこの手に静雄を取り戻す。
 けれど。
 静雄の中で『なかったこと』になってしまったというのならば、もう足掻きようはないのだ。
 今の自分に選べる道は二つだ。そう臨也は思う。

 ひとつは臨也の心の中の『静雄』を殺して、今までの『日常』に帰ること。
 もうひとつは、この恋心を抱いたまま、『静雄』の前から消えてしまうこと。
 
 どちらも選べない、選びたくはない。けれど。
 もう『日常』には戻れない。それだけは知っていた。
 静雄との時間を、『なかったこと』になんてできなかった。
 だから臨也は、もうひとつのほうしか選べなかった。
 静雄と過ごした時間を忘れられないのなら、静雄の前から消えるしかない。
 もう、静雄との『日常』に、傷つけ合い憎み合う『日常』には戻れないのだから。
 自分がその『日常』より、消えるほかはない。

 さよなら、シズちゃん。

 そう臨也は囁くと、静雄の部屋の扉を閉めた。

作品名:泡沫の恋 後編 作家名:774