Who?
そうして広い屋敷での二人きりの生活が始まった。
二人が行動する場所はなんとか綺麗に保たれているが、
空き部屋や、使わない部屋は見事にホコリだらけになっていった。
食事も以前のような豪華なものではなく、簡単な料理ばかり。
それでも二人で協力して作るご飯は格別に美味しく、
そんな日々に二人とも幸せを感じていた。
レイルとロイは同じ部屋で寝るようになり、ロイの言葉使いもいつの間にか敬語ではなくなった。
二人の距離は日に日に近づいていった。
だが、そんなある晩、
屋敷に電話の呼び出し音が鳴り響く。
「もしもし、どちら・・・
「元気でやってそうじゃねーか。」
「!!!」
「久しぶりだな。」
電話の主は、ヒューズだった。
ロイの顔から血の気が引いていく。
「ヒュー・・ズ・・・」
「お前にしてはえらく長く時間かけてるから気になってな。」
「・・・・。」
「情でも移ったか?」
「・・・・。」
「1週間で決めろ。」
「なっ!!??」
「じゃなっ――――
プーーープーーープーーー…
受話器を持つ手から力が抜ける。
無情に鳴り響く機械音が警告音のようだった。
ロイはヒューズの声を聞いて、やっと当初の目的を思い出した。
ロイは殺し屋。
ターゲットはレイル。
だが、今のロイにレイルを殺すことなんて到底出来そうになかった。
『1週間で決めろ』これは1週間のうちに殺せということ。
「くそっ!!!!!」
ガチャンッ
ロイは受話器を乱暴に戻し、レイルの居る部屋へ向かった。
扉を開けるとレイルが振り返った。
そのレイルの顔を見たら、殺すなんてことは不可能だと感じた。
それどころか、自分の穢れた手でレイルに触れることも罪な気がして苦しくなった。
「…ロイ、大丈夫か?」
「…あっあぁ、大丈夫だ。」
「顔が真っ青だ。 もう部屋行って休もう。」
「そう・・・だな。」
ロイは全てレイルに話すべきだと思った。
だが、この縮まった距離が離れてしまうかもしれないと思うと声が出なかった。
(俺はいつからこんな弱くなったんだ…)
もう二度とエドワードを失いたくなかった。
たとえそれがエドワードによく似ただけの少年でも…
そうこうしているうちにヒューズの電話から6日が経ってしまった。
ロイはまだ決断できずにいた。
もし自分がレイルを殺さずにいても依頼主によって他の殺し屋が雇われ、きっとレイルは狙われるに違いない。
俺にレイルを守り続けることが出来るだろうか…
ロイは自信を失っていた。
エドワードの時もロイはいつだって守ってきたつもりだった。
エドワードに気付かれないようにさりげなく、傷つけないように。
西の戦いの地も、戦いはほぼアメストリスの勝利で落ち着いていた。
戦地ではなく、戦地になった場所と言っても過言ではなかった。
そしてエドワードの任務は、その場所の錬金術師を派遣した場合の復興までの期間を決めるための視察だったのだ。
そのためロイは視察の許可を出した。
だが、エドワードは殺された。
そのことをロイはひきづっていた。
レイルのことも守りきれないんじゃないかという恐怖に支配されていた。
「だったらいっそ…」
ロイの体は震えていた。