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【けいおん!続編】 水の螺旋 (第五章) ・中

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 すると、客席から「いいよー!」という声が聴こえてきた。続いて、「応援するー!」「唯、がんばれー!」という声が次々とあがった。ステージのメンバーは客たちの反応に、胸から何かが込み上げるような感動を覚えた。
「それで、今日は唯はステージにいないんですけど、代わりに私たちの後輩であり、大切な仲間でもある梓にリードギターを担当してもらいます」
 澪がそう云うと、梓は「よろしくお願いします」と云って頭を下げた。観客の方から、「梓頑張れー!」と声が上がった。
「では次の曲聴いて下さい!」
 澪が勢いよく云った。観客の方から大きな拍手が起こった。それからカウントが始まるまでのほんのわずかな時間、梓は目を閉じて思った。
(唯先輩、聴こえてますか。みんな応援してくれてますよ……)

 診察室の中へ誰かが入ってきた。和と姫子だ。
「これは千客万来だな」
 石山は驚いたふうでもなく、さらりとそう云った。むしろ、石山からして“客”の立場である憂が、ふたりの急な登場に少々驚いたようであった。
「石山教授、あなた、唯を、どうするつもりなんですか…?」
 和は怒りを含んだ瞳で、一語一語区切るようにして云った。石山は、対照的に面白そうな表情を浮かべ、彼女の方を見ている。

 和と姫子、このふたりがなぜここに来たかといえば、今回の一連の出来事の裏に隠れた衝撃的な事実を推理したからである。もともと、和は凜から聞いた実験室でのSDRマウスの結果に疑問を持ち、独自であれこれ仮説を考えていた。しかし、どの考えも納得いくものではなく、路頭に迷っていた。そんな時、ふと何気に自宅のパソコンでインターネットを見ていた際に、偶然面白い記事を見つけた。それは、100年近くも前の出来事だったが、中東のとある国で、超能力者としてあがめられていた男が、急に周りの住民から反感を買い、火あぶりの刑に処せられたというものだった。和はその記事に興味をもち、他のサイトにもこのニュースが転がっていないか調べてみた。すると、若干であるがそのニュースについて取り扱ったサイトがヒットした他、さらなる情報が入手できた。まず、その超能力者が刑に処せられる直前に、病におかされていたということ。そして、その病は今でいう癌であったと考えられていること。さらには、この出来事以外にも、世界各国で超能力者や新興宗教の教祖など、超越的な意味合いで崇められていたりおそれられていた人間が、癌に罹ったのを境に人々から反感を買い、逆に刑に処せられたりした実例がいくつか存在しているということであった。
 和はここから、がん化が人々の不満を爆発させるトリガーになったのではないかと考えた。そして、マウスの例についても考えてみた。SDRマウスを入れた3つのケージのうち、ひとつのケージのみ、SDRマウスが他のマウスからなぶり殺しに遭っていた。もし、そのSDRマウスが癌におかされていたとしたら…。インターネットに書かれていたニュースと同じ状況が引き起こされたと考えても不自然ではない。無論、それはニュースに書かれていた超能力者や教祖が、SDR経路によって力を発動させていたという前提での話であるが。
 和はその仮説を姫子に話した。警察官になるための専門学校に通っている姫子が、学校の卒業生で、現警察官である知り合いに頼んで調べてもらったところ、日本でもあまり知られていないだけで、似たような事件が数多くあることが分かった。
 和はこのことを受け、マウスに起こった結果について次のような推理をした。あのSDRマウスは、故意にがん化させられたのだ。おそらく、餌に癌誘発物質を混ぜたのだろう。そして、それをやった人間は石山教授だ。石山はがん化がSDR導入マウスに違った結果をもたらすことを予期していたのだろう。そのことを確かめるため、凜にも内緒で、ひとつのケージのマウスにのみ、癌誘発物質を混入した餌を与え続けたのだ。SDRマウスは通常のマウスを押しやって、餌をほぼ独占する。結果的に、SDRマウスは通常のマウスに比べて、はるかに高確率でがん細胞が発生する。そして、SDRマウスの生体にがん細胞が発生した途端、通常マウスたちの反逆が起こり、SDRマウスはなぶり殺しにされた…。
 もし、石山がそのことを本当に実験的に示したとしたら、今度はそれを人体で再現したいと思うかも知れない。つまり、唯や凜に被害が及ぶ可能性がある。和はそう考えた。そこで、姫子とともに石山や唯、凜がいる病院に行きたいと思った。だが、生憎具体的な所在を知らない。それで、唯の話に聞いていたおおまかな場所や建物の様子を頼りに、捜し回ってようやく目的地の病院へたどり着いたのである。

 和は石山に自分の推理を披露した。「…違いますか?」と問う和に対し、石山は不敵な笑みを浮かべて云った。
「実に興味深い推理だ。だが、いささか感情的になりすぎて、重要なポイントをいくつか逃している」
 石山は指を一本立てて続けた。
「ひとつめ。そのSDRマウスに癌が発症していたということを、君は確かめたのか?あのマウスは、原形をとどめないくらい身体も組織もめちゃくちゃになって殺されていた。そのような状態で、がん細胞が発見できるかどうか。さらには、私が癌誘発物質を飼料に混ぜたという根拠はあるのかい?あのケージの生き残ったマウスたちが、この先高確率で癌を発症したとすれば、その可能性は高まるだろう。だが、少なくともそれを今確認するのは不可能だろうな。観察できるまであと数週間はかかるだろう」
 和は口ごもった。石山の指摘した通りだったからだ。石山はさらに続ける。
「まあ、それは仮説ということでよしとしよう。問題は経過ではなく、最終的に起こる結果だからね。しかし、ここでふたつめのポイントだ。私は、ここにいる賭里須くんや平沢くんに、いったい何をしようとしていたというんだい?」
「それは……」と和は云ったきり、言葉が出なかった。確かに感情論に走りすぎ、その辺のツメが甘かったのは、云い訳しようのない事実だ。
「癌を発症させるか?だが、人にがん細胞が発生させるには、年単位の時間が必要だ。今この場所でできるようなことではない。或いは、それ以外の何かをやろうとしていたというのか。では、それは一体何だ?」
 最後の方では、石山の笑みは消え、彼は強い目で和を睨んでいた。しばらくして、石山は小さくため息をついた。
「どうやら君たちは、私のことを必要以上に危険な思想をもつ人間だと考えているようだ。確かに、私の興味は科学の追求にあり、賭里須くんも平沢くんも、そのための実験材料だと考えている。真理の追究に必要であれば、この子たちを犠牲にすることも厭わないだろう。だが、そのような犠牲は必要最低限に抑えたい。第一、しきりに人の命を粗末にするほど、私は愚かな人間ではない」
 石山はひと呼吸おいて、さらに続けた。