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ジェラシーの行方2

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 虎徹と同じ能力のバーナビーも、もしかしたらぜんぜんかなわないかもしれない。
 けれどこの戦いはバーナビーのいわば私怨の部分も大きい、だから命をかける理由がある。
 むろん、虎徹にだってシュテルンビルトの市民の安全のためという理由はあるが、それは虎徹一人が負うべき責任ではない。
 だからもっと早く降参してもよかったのだ。
 死んでしまったらどうするんですか・・・・・・
 故郷には、大切な娘さんだって待っているのに。
 バーナビーは静かに出動の時を待った。


 やはり、ジェイクは強い。
 おじさんは重傷で病院に担ぎ込まれたと聞いた。
 だから心配だったのだ。
 あの人は無茶をするから・・・・・・
 そして僕も、やはりジェイクに一撃たりとも与えることができてない。
 まだハンドレットパワーを使ってはいないが、使ったところで当たらなければ意味がない。
 憎い宿敵に、ただいいようにやられるだけで、時間が過ぎていく。
 もう、どうしたらいいかわからない。
 目の前にいるのに。
 両親を殺した人物が、そこにいるのに。
 ハンドレットパワーを発動したが、やはりかなわなかった。
 知らず涙があふれてくる。
 このまま負けて、むざむざ終わるわけにはいかない。
 絶望の中、
 精も根も付き果てようとしたとき、そっと背を支えてくれた手があった。
 びっくりして飛びのくと、病院にいるはずの虎徹さんが平然と笑って立っていた。
「おじさんっ!?」
 なんでこんなところに、無茶もいいところだ。
「また僕の邪魔をする気ですかっ?!」
 混乱したまま、口は相変わらず小憎たらしいことしか言わない。
 虎徹さんは、なんだかよくわからないジェイクの能力を説明したあと必勝のアイテムとやらを無理やり僕の手の中に押し込んだ。
 相変わらず、他人の事ばかり心配して・・・・・・
 こんな危ない所に生身でノコノコとっ!
 心配のあまり、助けなどいらないと拒絶して踵を返したが、ふと今貰った球を見て思わず目を見開いた。
 真っ赤な血がべっとり付着していたのだ。
 たぶん傷が開いたのだろう。
 あたりまえだ、かなりの重症だったと聞いている。
 振り向くと、虎徹は脇腹を押えて呻いた。
 よく見ると、ひどい顔色である。
 次の瞬間、ジェイクの攻撃によって二人は引き離された。
 下に落とされてすぐ、屋根を仰ぎ見ると虎徹さんがそこに立っていた。
 まっすぐにバーナビーを見詰めている。
 ふらふらな筈なのに、おそらく根性だけで立っているのだ。
 ――もう、やるしかない。
 僕の為に…、いや虎徹さんのことだからシュテルンビルト全市民の為もあるかもしれないが、ともかく無理をしてここまできてくれた。
 ジェイクを倒す手掛かりを携えて。
 なんか胡散臭い方法だけど、僕の心はやっぱり虎徹さんを信してるから。
 どんなに言葉で否定したところで、もうごまかしきれない。
「バーナビーっ、今だ!」
 ああ、やっぱりあなたは僕の・・・っ!

 決着は、あっけないほど簡単についた。
 すべては虎徹さんのおかげだった。
 そして僕が「虎徹さん」とそう呼んだだけで、彼はひどく幸せそうに笑った。
 なんというか、もう。
 か、かわいい…っ!
 ちょっと反則だ、その顔は。
 てか、さっきの虎徹さんはひどくかっこよかったし。
 もう、僕の頭の中は「かわいい」と「かっこいい」が交互に去来してぷちパニック状態だ。
 凶悪な連鎖に身もだえするバーナビーは、ごまかすのに必死でやっぱりちょっとツンぎみになってしまうが、それでも前のような刺々しい言葉は出てこなかった。
 僕は虎徹さんに抱きつきたいのを、文字通り歯を食いしばって我慢した。
 何度、心の中でギューッとしたかわからない。
 シュテルンビルト中が祝賀ムードに沸いている中、英雄として一番注目を浴びているバーナビーは、まったく違うことに気を取られていた。
 きっとインタビューでも、そつなく返答を返しつつも、常に視線はわき役のおじさんにホールドアップしたままだったに違いない。
 とにもかくにもバーナビーは、その手で両親の敵を取り、揺るぎないKOHへの道へと一歩足を踏み出したのである。


     <5日目>

 両親の敵を取ったことで、少し余裕が出たのだろう。
 バーナビーは、かなり冷静に己の心を分析顧することができるようになっていた。
 あらためていろいろ考えてみる。
 やはり僕は、無意識に虎徹さんを試していたのだろう。
 なにがあっても僕を見捨てないのだと確信を持ちたかった。
 普通とは違う絆が欲しかったのかもしれない。
 いつも傍にいたかった。
 普通の友人よりも。そして普通の仲間よりも。
 僕だけが・・・、普通の存在じゃなければいいと。
 ――そう思いたかったのだ。


 結局、虎徹は再入院となった。
 勝手に表層の傷だけ治して病院を抜け出したことは、あとで医者にコッテリ怒られた。
 なんだか嫌がらせのような注射や薬をたんまり処方されて涙目になっていた。
 同じ大部屋のアントニオ達が、2日ほどで退院した後も居残りのように虎徹だけ取り残されてしまうという念の入りようだ。
 もっともこれは虎徹の被害妄想で、本当にかなり傷が悪化した結果だったのだが。
 朝は会社の方に出勤していたバーナビーが、虎徹の病室に戻るとそこにはカリーナとネイサン、アントニオが来ていた。
 この人たち、昨日も来てたのに・・・・・・
 病室に入るなりバーナビーは大きなため息をついた。
「あなたたちも大概暇ですね」
「ご挨拶ね、ハンサム」
「そっくりそのまま、その言葉返すわよ」
 ネイサンとカリーナは振り向きざまにそう返してきた。
 カリーナなど不満を隠す気もないのか、唇を尖らせてツンと顎を上げる。
「僕はいいんです、バディなんですから」
 即座に切り返すバーナビーの言葉に、カリーナは驚いたように大きな目をパチパチ瞬いた。
 思わずネイサンと顔を見合わせる。
 まるで誇らしげな響きだったからだ。
 数日前なら、バーナビーはバディであることを自慢のように口にしなかったはずだ。
「・・・なんか、お前の相棒、どうかしたのか?」
「オレが聞きたい・・・」
 バーナビーとカリーナが火花を散らせているのに逃げ腰になりながら、アントニオが虎徹にそっと耳打ちした。
「そこっ!近いっっ!!」
 バーナビーとカリーナ、二人の声がユニゾンした。
「うはっはい!?」
 アントニオが面白いほど飛び上がって虎徹から飛びのいた。
 声が揃ったことが気に入らなかったのか、二人がなんだか静かに睨みあった。
 まったくもうなにやってるんだか。
 虎徹は呆れて開いた口が塞がらなかった。
 再入院した頃からどうもバーナビーの様子がおかしい。
 虎徹への態度はまるで人が違ったかのようだし、もともとヒーロー仲間と和気あいあいとまではいかなくてもここまで敵視するような態度は取らなかったはずだ。
 とくにカリーナと仲が悪いような気がする。
「もうみんな帰ってください。こんなに毎日ワイワイされたら虎徹さんが休めません」
「ちょ…、何しきってんのよ、あんただって来てるくせに」
作品名:ジェラシーの行方2 作家名:るう